きらめきぼし☆ 国を救うためにネガティブ引きこもり王子をトップアイドルにプロデュース！

11 ユニット曲の難しさ

　ジローとルネのレッスンに、城お抱えの魔法使いが同席するようになった。

　どうやら精霊やその祝福についての研究をしているらしい。精霊の祝福をもっと効率良く届ける方法がないか探っているとのことで、ジローもルネも時々話しかけられたり質問されたりする。

「それじゃあ、今も精霊はいっぱいいるんですか？」

「はい。ルネ王子の周りには、ですが」

　ジローが頷いてルネ王子の周囲を見回す。質問をしていた魔法使いも同じように見回したが、小さく溜息をついて首を振った。

「それで、普段は精霊を導くことはできないんですか？」

「そうですね。その……精霊はどうもルネ王子の感情には反応する感じがあって。

　それで、ルネ王子が歌ったり踊ったりのパフォーマンスをすると、それに合わせて動くイメージができるんです。そこに、こう俺が祝福をお願いするとやってくれる、みたいな」

「ルネ王子の感情が鍵なんでしょうけれど……歌と踊りじゃないと駄目なんですか？」

「いや、それは試したことがないのでわかりませんけど。ルネ王子がひどく怒ったり笑ったりってことですか？　どうやって試すんです？」

　魔法使いはジローの言葉に少し黙ってから「そうですよねえ」と大きな溜息をついた。

「もし可能なら、精霊の祝福を直接見てみたいのですが」

「今日はただのレッスンなのでできるかわかりませんけど。できそうならやってみます」

「お願いします！」

　そうして、魔法使いに見守られながらのレッスンが始まった。

　ルネはすでに『ココロエコーズ』の歌詞も振りも一通り頭に入っていた。あとは、その完成度をあげるためのレッスンになる。

　それは、自然とジローの前世の記憶との比較になった。

　──何もない　毎日だって

　──退屈してたわけじゃないけど

「違います。ここは、はるたんのパートで、はるたんはこういう手を振るときは少し動きが大きくなります。でもびしっと止めるところは意識して」

「大きく」

　指を一本立てて振る動作をルネは繰り返す。

「このくらい？」

　指先だけじゃなく手首ごと大きく回したところで、ジローは頷いた。

「そうです、そのくらい元気に！　でも振りすぎない」

　──ちょっとだけ　物足りないって

　──どこか　ココロ　埋まらなくて

「ここはさっきと同じ振りですけど、ひびきくんのパートなのでさっきよりも動きを小さく。ステップも少し小さめです」

「同じ振りなのに変えるの？」

「担当が違うので」

「うん……わかった。さっきのところからやらせて」

　ルネはぎゅっと唇を引き結ぶと、大きく深呼吸する。

　それから握った左手を口元に持っていって、口を開く。腕をあげて動き始める。

　──何もない　毎日だって

　──退屈してたわけじゃないけど

　──ちょっとだけ　物足りないって

　──どこか　ココロ　埋まらなくて

　前半では振りを大きく。元気に。

　後半はステップも小さく。動きも小さく。

　やってみせて、ルネは振り向いた。ジローが満足そうに笑顔で頷くと、ルネは嬉しそうに微笑んだ。

「次のフレーズはBメロに入って、みとみとのパートです。みとみとは上半身をひねるとき、必ず客席を見ていました。今は観客がいませんが、いるつもりで、そこにいる観客と目を合わせるつもりでやってみてください」

「観客……見てくれてる人ってことだよね、うん、頑張る」

　──きっと　本当は　ずっと探していたんだ

　──お互いに　共鳴するような　何か

「今のところはとても良い感じです、王子！　アイドルらしい目線でした！　素敵でした！」

　歌声もダンスも、三人で分担して歌って踊る曲だ。

　それをたったひとりで、三人分の指示を受けてルネは歌い踊る。負担は大きかった。

　それでもルネは泣き言も言わずにジローの指示に従って、表現し続けた。ダメ出しも多いけど、それ以上にジローが笑顔になることが、ジローが褒めてくれることが、何よりも嬉しかった。

　それに、やればやるほど、ジローが話す「推し」のアイドルに近づけるのだ。

　それだけジローの「推し」になれるのだ。

　だからどれだけ大変でも、ルネはやり続けた。

　──そう　運命を！

（そうだ、ここからは三人で歌うパート。だから声にもダンスにも厚みがなくちゃいけない。僕ひとりでどこまでできるかわからないけど）

　──だって　ココロ　どきどきしてる

　──世界が　きらきら　輝いてる

　──ずっと　頭の中　止まらないメロディ

　──僕ら　見つけて　しまったんだ

（歌声の厚みってなんだろう。大きな声を出す？　ううん、ただ大きな声を出すだけじゃ、はるたんさんの歌い方と変わらなくなっちゃう）

　歌いながら、ルネは悩む。

（三人分踊るってどうしたら良いんだろう。ただ大きく動くんじゃなくて、三人の存在を感じさせる？）

　踊りながら、ルネは悩む。

　答えが出ないまま、サビは終わった。

　小さく溜息をついて、ルネはジローを振り返る。

（どうしよう、うまくいかないってがっかりされちゃうかも。ううん、導師さまはそんなことで僕を見捨てたりしない……はず）

　ジローは難しい顔で考え込んだあと、ルネに向かって頷いてみせた。

「大体良いと思います。でも、もうちょっと……ちょっと俺もどうしたら良いのかわからないんですが……」

「導師さまごめん、僕がうまくできないから」

「ルネ王子は悪くないです！　俺が、もっと歌もダンスもちゃんと指導できれば良いんですけど……次までに何か考えておきますから、二番はそのときにやっていきましょう」

「……はい」

（もっと……もっとうまくできるようにならなくちゃ。導師さまに喜んでもらわなくちゃ）

　ルネはうつむいて唇を噛む。

　そんなルネに、ジローは優しく言葉をかけた。

「今日は最後に『きらめきぼし☆』をおさらいしましょう。もう少しだけ体を動かしておきたいですし、魔法使いの人に精霊の祝福を見たいと言われてますし。できそうですか？」

　言い訳のようにジローは言ったけれど、それはきっと、うまくいかなかったルネを慰めるための言葉なのだろう。

　ルネはぱっと顔を輝かせて頷いた。

「はい！　『きらめきぼし☆』ならできます！」

　ジローが離れると、ルネはすぐに歌い出しの姿勢になる。

　ルネがジローを見ると、ジローが頷く。それが歌い出しの合図だった。

　──星屑の舞台で　重なる歌声

　──どこまでも高く　夜空に広がる

　それは安定したパフォーマンスだった。ファーストライブに比べてより、声量も増え、動きにもキレができている。

　指先の細やかな部分にまで意識が行き届いて、止めるところではきっちりと声を止める。

　ルネはすっかり『きらめきぼし☆』をものにしていた。

　──一緒に歩む　視線の先は　希望の舞台

　ルネが正面を指さす。そこに座っていた魔法使いと目が合って、にこりと微笑んだ。

　魔法使いはその笑顔にどきりとして、ルネが差し出す人差し指の先を見つめた。ルネが指を高く持ち上げるのに合わせて、視線も持ち上がる。

　──今　彩るステージで　感じる鼓動

　その瞬間、光の雨が降ってきた。きらきらと輝く光が、天井からたくさんばら撒かれる。

「これが、祝福の光……」

　呆然と、魔法使いは祝福の光に囲まれて歌い踊るルネを見ている。

　ルネ自身が、きらきらと輝いて見えた。

　──君にも届くと良いな　胸に鳴り響く

　──きっと　このときめきから　始まる世界

　──僕らは　そうさ　きらめきぼし☆

　最後の決めポーズのあと、ルネはウィンクまでしてみせた。

　そしてそのとき、ルネのファンがひとり増えたのだった。