第4話 春一番

 ここのところ、気候があたたかい。

 天気予報によると、また寒くなるようではあるが、そろそろ春らしくなってきたということのようにも思える。

 風にあたたかな気配がある。

 そういえば、今年はもう春一番は吹いたのだったか。

 世情にうとい情報弱者の身であるから、実は、春一番が吹いたかどうかということすら知らない。

 季節にうとい。この感じで俳句なぞ詠んでいられるのだろうかと、先が思いやられる。

 ただ、ひとつ、春一番と聞いて、思い出す光景がある。あれはたしか、やはりあたたかい南風の吹く時節のことであったろう。

 その日、今はなき、先代の猫たちが、ひなたで風に吹かれながら、ぽかぽかと昼寝をしていたのである。

 そのうちの一匹が、くつろいだ姿勢で座布団の上で眠りながら、「はにゃにゃにゃにゃ! はにゃにゃにゃにゃ!」と、寝言を言っていた。

 なにか夢でも見ているにちがいなかった。どんな夢かは皆目見当もつかなかったが、ぴくぴくと口元や前足なぞを痙攣させながら、白目をむいて眠る姿は、なかなかに印象深いものがあった。

 近づきつつある春の気配に、今はなき先代の猫たちの姿を偲ぶ。




春一番 猫の寝言と 白目かな

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る