黒春

 嘗て、一人の女性が居た。其の女性は私のような人間に好意を寄せてくれた。私は其の好意に応えようとした。「好意。」、「好き。」、「嫌い。」、「愛情。」と云うものを知らない無知蒙昧な者であった私は(現在も、恐らく…いえ、一切其の面は変わっておりません。今も尚、無知蒙昧にございます。)知らない者なりに努力をし、知らぬものを知ろうとした。併し、無情にも、努力とは裏腹に彼女との距離は離れてゆき、今となっては顔を見て、声を掛けることすら出来なくなってしまった。

 彼女はいつしか離れていった。

 私は努力を嫌いになった。何よりも、己が嫌いになった。

 彼女に渡しそびれてしまった贈り物は、私に淋しさを覚えさせた。

 青が黒へと染まり、黒春が私の記憶に刻まれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【蕣より思う】 朝詩 久楽 @258654

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画