無機質スタンピード

鳥辺野九

無機質スタンピード


 アフリカの乾いた赤土は太陽に灼かれた鉄の匂いがする。

 エムミアは細い肩越しに振り返る。荒廃という言葉がよく似合う大地が広がっていた。

 何もない世界に興味を失って、自分の痩せた脚を見下ろす。

 いつから、赤土に立っていたのだろう。

 細い二の腕で唇を拭う。それは乾いていた。水が欲しい。骨張った手に握られたスマートフォンでは喉の渇きは癒せない。

 再び振り返る。何千何万というアフリカスイギュウの群れがそこにいた。




 密閉された空間は無機質で満たされていた。


「質問です。アフリカ大陸には何頭のバッファローがいますか?」


 アメリカのIT企業面接官は機械的に喋った。入社試験を受けていたエレノアはその硬い声でふと我に返った。いつからこの無機質な部屋にいるんだろう。


「別な言い方でもう一度お願いできます?」


「いいでしょう。アフリカスイギュウが世界に何頭いるか計算できますか?」


 エレノアは嘆息を漏らす。私はこのためにこの瞬間この場所に存在しているのか。

 席を立ち、面接官に言い捨てる。


「人間が思えば、世界は応えます」


 無機質なヒール音を響かせて応接室の窓に寄りかかる。ガラスの窓はひやりと冷たかった。

 エレノアが思う時、アフリカという大地とエムミアが発現した。


「御社のスマホで簡単に調べられますよ」


 スーツからスマートフォンを取り出し、窓の外へとそれを投げ捨てた。

 乾いた大地に砂埃を巻き上げて駆けるバッファローの大群の中へスマートフォンが吸い込まれていく。

 エムミアは右手を高く突き上げてスマートフォンを受け取った。

 エムミアは思った。

 アメリカという大地に、人から思いを奪う機械を作った人間がいる。すべて破壊されてしまえばいい。私はこのためにこの瞬間この場所に存在しているのか。

 エムミアが思う時、アメリカという大地とエレノアが発現した

 エレノアは窓の外を眺めながら思った。すべてを破壊しながら突き進むバッファローの群れなんてどうやって数えようか。

 

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