ユウラクチョウビル

 リリィとドナルドとオーティスが、それぞれに大きな荷物を持って、有楽町ビルの前に立った。ドナルドが荷物を置く。

「あぁ、やっと着いた」

 オーティスも荷物を置く。

「遠かったけど、トーキョーだぁー!」

 オーティスが振り返って、焼け野原に向かって両手をあげる。

「トーキョーだぁー!!」

 リリィとドナルドも、振り返って焼け野原に向かって両手をあげる。

「トーキョーだー!」

「トーキョーだー!」

 3人とも両手を降ろして、焼け野原を眺める。オーティスが言う。

「しかし、まー、何にもないなぁ」

 リリィが同意する。

「空襲がすごかったんだね」

 ドナルドが言う。

「地方都市はどうなってんだろ?」

 オーティスが言う。

「そうだな。明日の休みから、さっそく地方めぐろう。ドナルドはどこ行くの?」

 ドナルドが答える。

「シズオカケンのミシマにしようと思う」

 オーティスが言う。

「ボクはチバケンのイチカワだ」

 リリィが二人を交互に見る。

「なに? なに? あんた達、どこ行くの?」

 ドナルドが言う。

「あれ? 言わなかったっけ? 捕虜のトモダチの手紙を家族に届けに行くんだ」

 リリィが不服そう。

「えぇー、聞いてないわよー。あたぃも連れてってよー。ドナルドと一緒に行こうっと」

 オーティスが半笑いで言う。

「司令長官が何て言うかなぁ」

 ドナルドも半笑いで言う。

「うん。司令長官はダマッてないだろうなぁ」

 有楽町ビルの入り口から老年の男が出てきて、リリィの後ろに立つ。気付かず話すリリィ。

「だいじょうぶよ。おじいちゃまのことは何とかするから」

 リリィの後ろに立った男が声を出す。

「リリィ・デイビス!!」

 リリィが「しまった」みたいな顔をする。ゆっくり後ろを振り返る。

「あぁー↑、ケリーおじちゃまー↓、、、」

 ケリーが相好を崩す。

「おす。久しぶりだなー。大きくなったなぁー」

 リリーがため息をつく。

「なんでよー。なんでトーキョーにいるのよー」

 ケリーが笑う。

「なんでって、GHQに組み込まれたからだよ。ロイから話は聞いてる」

 リリィがおそるおそる尋ねる。

「やっぱり、あたぃは、ドナルドと一緒にミシマには行けないのかな?」

 ケリーが苦笑。

「行けないだろー。私のオフィスで働いてもらうから。とりあえず、今夜はサンデルとクラークとディナーだ」

 リリィがビックリする。

「えぇぇ! サンデルおじちゃまとクラークおじちゃままで!!!」

 ケリー、破顔する。

「おお。いるぞ。とーぜん、みんなにロイから連絡は入ってるぞ」

 リリィが心の抜けたような顔でケリーを見ている。ケリーがドナルドとオーティスを見る。

「そういうわけで、諸君、お疲れ。リリィは引き取るよ」

 ドナルドとケーリ、敬礼で答える。リリィが怒る。

「あっ、おまえら、友達甲斐のないやつらだな。なんだよー。ドナルド、あたしもミシマに連れてってよー」

 ドナルドが難しい顔をする。

「ダメだろー。だって、その人、大佐じゃないか。ボクたちが何か言えるわけないよ」

 ケリー、笑ってうなづく。

「よしよし。君たちはいい軍人だ。ほら、リリィ、こっちこっち、、、」

 メリーは引っ張られて、有楽町ビルのドアの中に消えていく。声だけが残る。

「なんだよー、なんだよー、連れてけよー、ミシマ連れてけよー、、、」


 夜。ドナルドとオーティスが有楽町ビルの食堂で夕食を食べている。ドナルドが笑う。

「今ごろ、リリィは美味しいもの食べてるんだろうなぁ」

 オーティスも笑う。

「なぁー。将校とのディナーだもんなー」

 二人で笑いあうと、列車の汽笛が聞こえた。ドナルドが言う。

「列車は全部動いてるみたいだね」

 オーティスがうなづく。

「うん。さっき確認したけど、ミシマもイチカワも列車で行けるって。立派なもんだよ」

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