第34話 私と彼女と甘い一時
頬が赤く染まっていくのを感じる。
頭が真っ白になり、何も考えられなくなった。
ただ、一つだけ言えることは、目の前にいる人物に対して、強い好意を抱いているということだ。
気がつくと、自分から唇を重ねていた。
これが、キスだということに気付いたのは、唇が離れた後のことだった。
余韻に浸っていると、再び、口付けられた。
今度は、先程よりも長く、濃厚なものだった。
お互いの唾液を交換し合うような、情熱的な口づけを交わすうちに、
段々と意識が遠のいていく感覚に襲われた。
「はぁ……はぁ……」
どれくらいの間、そうしていたのだろうか、
ようやく解放された時には、息も絶え絶えになっていた。
酸素を求めて、大きく息を吸う度に、甘い香りが鼻腔を満たしていく。
肺いっぱいに満たされる、甘い蜜の香りに酔い痴れるように、何度も繰り返し、深く息を吸い込んだ。
「どうしてこんな事をするのですか?」
「好きだから」
即答された。
迷いのない真っ直ぐな瞳で見つめられ、思わず目を逸らす。
この人、本気だ。
本気で、私のことが好きなんだと思う。
その気持ちに応えることはできないけれど、不思議と嫌な気分にはならなかった。
むしろ、嬉しいと思っている自分に戸惑いを覚える。
だって、そうだろう。
私だって、ずっと前から、この人のことを意識していたのだから。
だから、これは、神様が与えてくれたチャンスなのかもしれない。
そう思った瞬間、覚悟を決めた。
こうなったら、とことん付き合おうじゃないか。
幸い、明日は休日だし、時間はたっぷりあるはずだ。
それに、どうせ、一度きりの人生なのだ。
悔いを残すよりは、思い切り楽しんでしまおう。
そう思い立ったら、行動は早かった。
素早く着替えて、荷物をまとめると、彼女に手を引かれ、部屋を出る。
「どこに行くんですか?」
尋ねると、彼女は、悪戯っぽく笑って答えた。
その表情を見た瞬間、胸が高鳴るのを感じた。
あぁ、やっぱり好きだな、と思う。
改めて実感させられたのだった。
エレベーターに乗り込むと、最上階を目指す。
その間、会話はなかったけれど、不思議と気まずさは感じなかった。
むしろ、心地よい沈黙に包まれているような気がして、妙に落ち着くことができた。
目的の階に到着し、降りると、そこは、スイートルームの一室だった。
「ここで一晩共にして欲しいのよね」
「え!?」
予想外の言葉に、思わず固まってしまう。
つまり、そういうことだよね?
頭の中で、様々な考えが駆け巡る。
どうしよう、心の準備が整っていないんですけど……。
しかし、そんなことはお構いなしといった様子で、
腕を引っ張られ、部屋の中へと連れ込まれる。
扉が閉まると同時に、壁に押し付けられ、強引に唇を奪われた。
「んむっ!? んーっ!!」
突然のことに驚き、抵抗を試みるも、力で敵うはずもなく、されるがままになってしまう。
しばらくして、ようやく解放された時には、すっかり息が上がってしまっていた。
呼吸を整えるため、大きく深呼吸を繰り返す。
「ふぅー、やっと二人きりになれたね、あいかちゃん」
そう言って、嬉しそうな笑みを浮かべる彼女を見て、ドキッとする。
その笑顔を見た瞬間、胸が締め付けられるような感覚が襲ってきた。
苦しいはずなのに、なぜか心地よく感じてしまう自分がいることに気づく。
もしかすると、これが恋というものなのだろうか?
だとしたら、初めてかもしれない。
こんなにも、誰かを強く想うことなんて、今までなかったような気がする。
そう考えると、途端に不安になってきた。
本当に、これでいいのだろうか?
このまま進んでしまってもいいのだろうか?
そんなことを考えていたら、不意に声をかけられ、我に返った。
顔を上げると、目の前に彼女の顔があり、至近距離で見つめ合う形になってしまった。
あまりの近さに、思わず顔を背けてしまう。
恥ずかしくて、まともに見ることができなかった。
その様子を見ていたのか、クスッと笑われてしまい、余計に恥ずかしくなってしまった。
うぅ、穴があったら入りたい気分だわ。
「可愛い反応だね、本当に」
そう言って、頭を撫でてくるものだから、余計に恥ずかしくなってきてしまった。
このままだと、どうにかなってしまいそうだと思った私は、慌てて距離を取ることにした。
これ以上、密着していたら、理性を保つ自信がなかったからだ。
だが、そう簡単に逃してくれるはずもなく、すぐに捕まってしまった。
そのまま抱きかかえられて、ベッドまで運ばれる。
ベッドの上に寝かされると、上から覆い被さるようにして、組み敷かれてしまった。
逃げ場を失った私は、観念して、大人しくすることにした。
そうすると、満足したのか、ようやく解放してくれた。
ホッと胸を撫で下ろす。
危なかった、もう少し遅かったら、流されていたかもしれない。
そんなことを考えているうちに、再び唇を重ねられる。
今度は、触れるだけの軽いものだった。
それだけなのに、とても幸せな気分になれるのだから不思議だ。
もっと欲しいと思ってしまう。
「ねえ、舌出してよ」
言われるままに、おずおずと差し出した舌を吸われる。
その瞬間、ピリッとした刺激を感じた。
これが、大人の味なのかと思った。
同時に、体が熱くなっていくのを感じた。
きっと、顔も真っ赤になってしまっているに違いない。
そう思うと、余計に恥ずかしくなった。
でも、やめたくないと思ったのも事実だ。
もっともっと味わいたいとさえ思ったのだ。
しばらく続けているうちに、だんだんと慣れてきたのか、自然と自分から求めるようになっていた。
それに応えるように、さらに強く吸い上げられたため、思わず声が出てしまった。
恥ずかしいと思う反面、もっと聞いてほしいという気持ちもあったりする。
「気持ちいいんだ、こういうのが好きなのかな?」
からかうような口調で言われ、顔が熱くなった。
図星だったので、何も言い返せなかった。
そうすると、今度は、耳たぶを舐めてきた。
「ひゃうっ!」
という変な声が出てしまい、慌てて口を塞いだ。
その様子を見た彼女は、楽しそうに笑っていた。
悔しいと思う反面、どこか喜んでいる自分がいることに気付いて、愕然とした。
そして、次の瞬間には、またキスをされていた。
今度は、さっきよりも激しいものだった。
舌を絡め取られ、口内全体を蹂躙される。
歯茎の裏まで舐められて、背筋がゾクゾクした。
もうダメ、我慢できない!
そう思った時、不意に唇を離された。
名残惜しそうに、銀糸が伸びていき、途中で切れた。
「どう、気持ちよかった?」
意地悪そうな笑みを浮かべて聞いてくる。
悔しいけど、認めるしかなかった。
正直に答える代わりに、そっぽを向いてやった。
「あら、反抗期かしら?」
そう言いながら、クスクスと笑う声が聞こえた。
なんか、バカにされてるみたいでムカつくわね。
仕返しに、ちょっとイタズラしてやろうかしら。
そう思って、耳元に顔を近づけ、囁いた。
すると、ビクッと体を震わせたので、調子に乗って、さらに追い討ちをかけることにする。
耳に息を吹きかけてみたり、甘噛みしてみたりした。
その度に、可愛らしい声を上げるものだから、楽しくなってきちゃった。
そろそろ、やめてあげようかしら、なんて思っていたら、逆に押し倒されてしまった。
形勢逆転されちゃったみたい。
これは、まずい状況になったかもしれない。
そんなことを思っている間に、再び、唇を重ねられた。
今度は、さっきよりも激しかった。
舌が絡め取られ、唾液を流し込まれる。
それを飲み込むたびに、身体が熱を帯びていくのを感じた。
「ぷはっ、はぁ、はぁ、けほっ、こほ、ゴホ、うぇ、うぇ、あ、はぁ、はぁ、ふわぁ」
咳込みつつも、必死に呼吸をしようと試みる。
しかし、上手くいかない。
それどころか、だんだん苦しくなってきた。
このままじゃ、窒息死しちゃうかも、なんて馬鹿なことを考えながら、意識を手放しかけた時だった。
ようやく解放され、新鮮な空気が流れ込んできたことで、生き返ったような気分になった。
荒い呼吸を繰り返し、呼吸を整えようとするも、なかなかうまくいかない。
そんな中、不意にお腹をさすられた。
くすぐったいような、不思議な感覚に襲われる。
なんだろう、これ?
不思議に思って、視線を向けると、そこには、慈しむような笑みを浮かべた彼女の顔があった。
その表情を見た瞬間、胸がキュンとなった気がした。
「どうしたの、そんなに見つめてきて」
そう言われて、ハッと我に帰る。
無意識のうちに、見惚れてしまっていたようだ。
慌てて視線を逸らし、誤魔化すように言った。
「べ、別になんでもないわよ、ばかぁ」
照れ隠しのために、つい悪態をついてしまった。
本当は、嬉しかったくせに、素直じゃない自分が嫌になる。
「ふふ、可愛い子」
そう言って、頭を撫でられた。
子供扱いされているようで、複雑な気持ちになる一方で、悪い気はしなかった。
むしろ、もっとしてほしいと思ってしまうくらい、心地良い感覚に包まれる。
それからしばらくの間、ベッドの上で横になっていた。
その間、ずっと抱き合ったままだったのだけれど、不思議と飽きることはなかった。
むしろ、どんどん好きになっていった気がするほど、夢中になっていたように思う。
「そろそろ、お風呂に入りましょうか」
そう言われて、ようやく我に返った。
そういえば、まだ入ったことがなかったっけ。
二人で浴室に向かい、服を脱いでいく。
下着姿になると、鏡に映った自分の姿が目に入った。
相変わらず、貧相な体つきをしていると思う。
こんなんじゃ、誰も振り向いてくれないよね、
なんて考え込んでいると、突然、後ろから抱きしめられた。
驚いて振り向くと、そこには、同じく素肌になった彼女の姿がある。
お互い一糸纏わぬ姿で、肌を重ね合っている状態だ。
そのことに気付き、顔が熱くなった。
恥ずかしさのあまり、俯いていると、顎を持ち上げられ、無理やり視線を合わせられた。
そして、じっと見つめられ、目が離せなくなってしまう。
綺麗な瞳だな、なんてことを思いながら見つめていると、徐々に距離が縮まっていった。
唇同士が触れ合い、啄むような口付けを繰り返す。
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