第21話 私と競輪㉑

そう思った矢先でした。

突然、小岩井さんがペースを上げて私を引き離そうとし始めたのです。

その勢いは凄まじくあっという間に引き離されてしまいましたので、

もうダメかもしれないと思ったその時、私は彼女の背中が近づいていることに気づきました。

そして、そのまま体当たりするかのようにぶつかっていったのです。

その結果、小岩井さんはバランスを崩して落車してしまったのですが、

それでも私は諦めずに必死にペダルを漕ぎ続けました。

そうして何とかゴールまで辿り着きましたが、

そこで力尽きてしまい倒れ込みそうになったところで

誰かに支えられたような感覚を覚えつつ意識を失ったのでした……。

目が覚めるとそこは病院のベッドの上でした。

どうやらあの後すぐに病院に運ばれたようですけど一体誰が?

そう思って周囲を見渡してみるとそこに立っていたのは小岩井さんだったのです。

「良かった、目が覚めて」

そう言って微笑んでくれた彼女を見て思わず涙が溢れ出してしまいそうでしたが、

ぐっと堪えることにしました。

それから暫くの間沈黙が続いた後、彼女が口を開きます。

「ごめんなさい、私のせいだよね」

そうするとその言葉を聞いた瞬間、胸が締め付けられるような痛みを

感じたので咄嗟に首を振って否定しようとしましたが、

上手く声が出せませんでしたので結局何も言えずじまいになってしまいました。

そんな様子を見ていた彼女は更に続けます。

「私のせいでこんな大怪我をさせてしまって本当にごめんなさい」

そう言いながら頭を下げる姿を見て、私はますます居た堪れない気持ちになりましたが、

それでも何とか声を絞り出して言うことができました、ありがとうございますと……。

それを聞いた小岩井さんは驚いた様子でしたが、

すぐに笑顔になるとこう言ってくれたのです、 ありがとうって……その一言だけで救われた気がしましたし、

同時に嬉しさが込み上げてきて思わず泣きそうになってしまいましたけど、

なんとか堪えることが出来ましたからホッと一安心でした。

その後、暫くの間は他愛もない話をしていたんですけれど、

ふと気になったことがあったので尋ねてみることにしました。

それは何故あんなことをしたのか? ということなんですけれど、

その理由については何となく想像がついていましたし、

むしろ私の方からお願いしたいくらいだったんです。

だから、思い切って切り出してみました。

そうすると、案の定というか予想通りの答えが返ってきたのですが、

その内容を聞いた瞬間に思わず吹き出してしまったほどです。

「だって、あなたのことが好きだから」

……だそうです。

そんなストレートな告白に動揺しつつも、なんとか冷静さを装おうと努力しましたが無駄でした。

顔が熱くなっているのが自分でもよく分かるくらいですし、

心臓の音がバクバク鳴っているのがハッキリ聞こえますし、

きっと今の私の顔は真っ赤になっていることでしょう。

しかし、そんなことを気にしている場合ではありませんので

すぐに切り替えて返事をしなければいけません。

まずは、深呼吸をしてから改めて覚悟を決めてから口を開きました。

もちろん返事は決まっていますけど念のための確認といった感じで聞いてみましたけど、

その必要はなかったみたいです。

何故なら彼女も私と同じ気持ちだったからです。

つまり両想いという事になりますよね? 

だとしたら断る理由なんて何一つありませんから喜んで受け入れましょう。

そう決意した私は、次の瞬間には行動に移していました。

ベッドの上から飛び起きて彼女の元へと駆け寄りそのまま抱きつきました。

彼女も同様に私のことを受け止めてくれたみたいで優しく抱き締めてくれていますし、

とても幸せな気分に浸ることができましたのでいいのですが、一つだけ気になることがありましたので

思い切って質問してみることにしました。

「あの、それで一つ聞きたいことがあるんですけど、もしかしてあの時って……」

私が尋ねると彼女は笑顔で答えてくれました。

やはりそういうことだったようです。

つまり私の勘違いでしかなかったということのようですけど、

それでも構わないと思いますし気にしている場合でもないと思った私は、自分の気持ちを伝えることにしました。

何故なら今の私にはそれ以上に望むものなど何もないと本気で思っているからです。

ですから思いきって口にしてみましたが……「私も好き」

と言った瞬間、恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になってしまいましたが、

そんな私を優しく受け入れてくれた彼女に対して感謝の気持ちでいっぱいになりましたので、

改めてお礼を言いましたところ、今度は彼女の方からも告白されてしまい

嬉しさと恥ずかしさが入り混じった複雑な感情を抱いたまま固まってしまった私に対して、

彼女は更に追い打ちをかけるようにキスを求めてきたため思わず目を閉じてしまいましたけど

抵抗することなく受け入れることにしたんですけれども、

まさかあんなことになるなんて想像すらしていなかったものですから、

驚きましたけれど嬉しかったという気持ちの方が強かったですし、

何よりも幸せを感じられましたから問題ありませんね!

「ねぇ、私と付き合ってください」

突然そんなことを言われてしまったものですから、思わず戸惑ってしまいました。

だって、今まで一度も話したことが無かった相手でしたし、

何より同性の方ですからどう対応していいのか分からなかったのですけれど、

それでも何とか返事をしなければと思い必死になって考えてみた結果、

一つの結論に辿り着いたので思い切って言ってみることにしました。

「いいですよ」

そうすると彼女は嬉しそうな表情を浮かべながら微笑んでくれましたのでホッと一安心していたのですが、

その直後にとんでもないことを言い出しましたので驚きを通り越して呆然としてしまいましたが、

そんな私に構うことなく話を進めていきましたので止める間もありませんでしたけど、

結果的に付き合うことになりましたから良しとしましょう。

「じゃあ、今日から恋人同士だね、よろしく」

「はい! こちらこそよろしくお願いします!」

こうして私達の関係は始まったのです。

それからというもの毎日のように競輪場に通うようになっていましたが、当然と言えば当然の結果なのですけど、全く勝てる気がしませんし、

そもそもレースにすら出場できない状況なので完全に諦めモード全開でいたのですが、

そんな時に彼女から提案があったんです。

「私と一緒に練習しない?」

「えっ、いいんですか?」

「うん、勿論!」

そんなやり取りを経て練習をすることになったのですが、

最初のうちは殆どのレースで最下位とか三着でしたし勝てませんでしたけど、

それでもめげずに頑張った結果少しずつですが勝てるようになってきたので嬉しかったです。

「やったー、ついに優勝できたよ!」

嬉しくて思わずガッツポーズを取りつつ叫んでしまいました。

そんな様子を見ていた彼女が微笑みながら声を掛けてきました。

「おめでとう、凄いじゃない!」

と言って褒めてくれる姿が嬉しかったですけど、

それよりも優勝したという事実が嬉しいという気持ちの方が勝っていたこともあって素直に喜ぶことができました。

それからというもの毎日競輪場に通い詰めるようになったことで段々と実力をつけていき、

遂に念願であった優勝を勝ち取ることができたのです。

その時の喜びと言ったら言葉に表せないほどでした。

とにかく嬉しすぎて涙が出る程でしたが、それも無理はないでしょう、

だって生まれて初めて手にした勝利なんですから嬉しくないはずがありません。

「これで目標達成ですね、おめでとうございます!」

彼女が祝福の言葉をかけてくれたのでお礼を伝えつつ、

今後はどうするのかって尋ねたら、どうやらこのまま選手を

続けるかどうか悩んでいるみたいだったので、思い切って聞いてみることにしたんです。

そうすると、意外な答えが返ってきました。

「確かに選手を続けていきたいとは思うんだけど、まだ踏ん切りがつかないんだよね」

それを聞いて納得しました、確かにその気持ちはよく分かりますから、

でもやっぱり続けたいという思いもあるのでしょう、

だからこそ迷っているという訳で、だったら私が背中を押してあげようと思いこう伝えたのです。

「そんなに悩む必要はないと思いますよ、やりたいと思ったらやるべきだと思います、

後悔しないように全力で取り組んでみて下さい、応援していますから」

そう言うと、ようやく決心がついたのか表情が明るくなりました。

その様子を見てホッとしたと同時に、私も頑張らないといけないと思いました。

だって彼女のおかげでここまで来れたんですから、

私だって彼女に負けないくらい努力しないといけませんよね?

そう思いながら気合いを入れ直すのでした。

それからというものより一層練習に励むようになったのですが、

ある日のこと、私はいつも通り競輪場に来ていたんですが、そこで思わぬ出会いを果たしました。

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