第16話 私と競輪⑯
そんな状況に陥りながらも何とか堪えることができた私は、
次のカーブに備えて態勢を整えようとしていたその時、
背後から迫る気配を感じ取った私は、
反射的に後ろを振り向いた時に見てしまったんです。
そこに居た人物を見て絶句してしまった私はその場から動けなくなってしまい、
その場で立ち尽くしていたんですけど、その間もどんどん迫って来る相手から
逃げられなくて絶体絶命の大ピンチに陥ってしまったんです。
もうダメかと思ったその時に救いの手が差し伸べられたんです。
それは紛れもなく彼女の声でした。
名前を呼ばれてハッと我に返った瞬間、
我に返ることができましたが既に手遅れの状態であり、
今にも接触しそうな距離まで迫っていたため避けることができません。
(このままだとぶつかっちゃいます!?)
そう思った直後、衝撃と共に視界が暗転してしまいました。
意識が遠退く中、最後に見た光景は地面に倒れている自分の姿でした。
そこで完全に気を失ってしまったのだと思います。
気がついた時にはベッドの上だったので一安心といったところですが、
あれからどうなったのでしょうか?
気にはなりますが、今は動けない状態なので確認することはできません。
「良かった、目が覚めたんだね」
そう言いながら部屋に入ってきた彼女は安堵の表情を浮かべていました。
どうやら心配してくれていたみたいです。
本当にありがたいことです。
ちなみに今いる場所は病院の一室のようで、
治療は既に終わっているとのことですが念のため検査を受けることになっています。
その結果次第によっては退院できる可能性もあるそうですが、
それまでは安静にしていなければならないと言われてしまったんです。
「早く治さないといけませんね……」
苦笑しながら呟く私に、彼女もまた同じような表情を浮かべたまま頷いていました。
それからしばらくの間は他愛もない話をしていましたが、
話題も尽きてきた頃にふと思い出したかのように尋ねられたので素直に答えることにしました。
そうすると何故か嬉しそうな顔をされてしまい困惑していると、
突然抱きしめられてしまいました。
突然の抱擁を受けたことによって心臓が激しく鼓動し始めたのですが、
同時に心地良さも感じていたこともあって抵抗する気が起きませんでした。
むしろこのままずっとこうしていたいと思ってしまうほどで、
次第に思考回路までも麻痺してきたような感覚に陥っていきます。
気がつくと無意識のうちに自分から求めてしまっていたみたいで、
それに応えるように強く抱きしめてくれる彼女に身を委ねることで幸せを感じていたのです。
「好き」
耳元で囁かれたその言葉を聞いた途端、全身が熱くなっていくのを
感じたと同時に心臓の鼓動が激しくなるのがわかったのです。
きっと顔も真っ赤になっていることでしょうね……恥ずかしくて死に
そうな気持ちになっていると、今度は頬にキスをされました。
それだけで頭の中が真っ白になってしまい何も考えられなくなって
しまう程の威力があったわけですが、更に追い打ちをかけるように
耳元へ息を吹きかけられてしまってはもう限界でした。
ガクガクと痙攣するように身体を震わせた後、脱力したようにぐったりとしてしまいました。
そんな私を抱きかかえたままベッドへ移動させると、その上に寝かせてから
覆い被さってくる彼女に対して期待に満ちた眼差しを向けてしまいます。
「可愛い」
そう言って微笑む姿に見惚れていると、ゆっくりと顔を近づけてきて唇を重ねてきました。
最初は軽く触れるだけの軽いものだったのですが、徐々に激しさが増していき
最終的には舌を絡ませ合う濃厚なものへと変化していったのです。
お互いの唾液を交換し合い飲み下していくことで興奮度が高まり、
息が苦しくなるほどの激しい接吻が続いた後でようやく解放された時には
すっかり蕩けきった表情になってしまっていました。
そんな私の顔を見つめながら妖艶な笑みを浮かべる彼女がとても色っぽく見えてしまい、
ドキドキしてしまいました。
「好きだよ、愛してる。誰よりも何よりも
あなたのことだけを想っているわ。だから、
私の全てを捧げても惜しくはないと思っているのよ?」
そう言われた瞬間、胸の奥底から湧き上がってきた感情が抑えきれず涙となって溢れ出してきました。
それを見た彼女は慌てた様子で駆け寄ってくると、優しく抱き締めてくれました。
そんな彼女の背中に腕を回しながら泣き続けることしかできなかったんですが、
それでも落ち着くまでの間はずっと側にいてくれたおかげで少しずつ落ち着きを取り戻すことができました。
しばらくしてから改めて向き合う形で座ることになりました。
先程までの出来事を思い出し、今更ながら恥ずかしくなった私は俯いてしまうしかなかったんですが、
そんな私のことを愛おしそうに見つめながら頭を撫でてくるものだから余計に顔が熱くなってしまいました。
「ごめんなさい、いきなり泣き出したりして迷惑かけてしまって……」
申し訳なく思いながら謝罪の言葉を口にすると、
気にしないでと言って微笑んでくれたのでホッと胸を撫で下ろします。
しかし、すぐに真剣な表情に戻ったかと思うと真っ直ぐに見つめられてしまい、
その視線の強さに圧倒されてしまいました。
そして、意を決したかのような面持ちで口を開くのを見て思わず身構えてしまいます。
一体何を言うつもりなのでしょうか……?
緊張しながら待っていると、やがて紡ぎ出された言葉は意外なものでした。
「……私も一緒に連れていってほしいの」
一瞬何を言われたのか理解できず固まってしまった私は、
言葉の意味を理解すると同時に驚きのあまり目を見開いてしまいました。
まさかそんなことを言われるとは思ってもいなかったからです。
「どうしてですか……?」
恐る恐る尋ねてみると、返ってきた答えは予想外のものでした。
なんと、彼女自身もまた夢を持っているということを知った私は感動すら覚えました。
そして、その気持ちに応えるべく全力でサポートすることを誓ったのです。
「絶対に勝ちましょう!」
そう宣言するとともに力強く手を握り返すことで応えることにした私は、
早速トレーニングを始めることにしたんです。
まずは体力作りからということでランニングや筋力トレーニングなどを
中心に行っていくことになったわけなんですけれど、これがなかなか大変でした。
特に腹筋背筋腕立て伏せなどの筋トレ系メニューについてはかなりキツかったですし、
筋肉痛に悩まされることもしばしばありましたけど、
これも強くなるためには必要なことなんだと自分に言い聞かせながら頑張り続けました。
その結果として徐々に身体が引き締まっていく感覚を覚えるようになりましたが、
それと同時にお腹回りにも変化が現れ始め、ムチッとした柔らかさを
残しつつもキュッと引き締まった見事なウエストラインが形成されていくようになっていきました。
それに伴い全体的にスリムになっていったことから体重も減っていき、
以前よりも軽やかな身のこなしができるようになっていったのです。
そういったこともあり段々と成績も上がっていったので、
周囲からの評価も上がっていくようになったんです。
それに伴って、ますますやる気に満ち溢れた私は練習に打ち込むようになり、
遂にはレースでも上位に入ることができるようになっていったんです。
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