第15話 私と競輪⑮

「あの、私のこと、好きって言ってくれますか?」

彼女の口から発せられた言葉はあまりにも予想外なものだったため一瞬戸惑ってしまったものの、

それでも勇気を出して応えようと口を開きかけた瞬間、突然視界が真っ暗になってしまったのです。

何が起きたのかわからないままパニックに陥っていた私ですが、

唇に何かが触れた感触があってようやく理解することができました。

それは間違いなく久我崎さんの唇だったんです。

驚いて声を上げようとしても口の中に舌を入れられてしまいそれも叶わず、

次第に頭がボーッとしてきて何も考えられなくなる程蕩けさせられてしまったのです。

しばらくして解放された後もしばらくの間放心状態が続いていたのですが、

ふと我に返った時には彼女の顔が目の前にあって驚きました。

「ごめんね」

申し訳なさそうな顔で謝る彼女に何と答えて良いのか迷っている間にまた唇を奪われてしまいました。

何度も繰り返される内に段々と気持ちよくなってきたこともあって

抵抗する気すら起きなくなってしまい完全に受け入れてしまっていた自分がいました。

そんな自分に呆れつつも受け入れるしかない現実に諦めるしかありませんでした。

「もう一回してもいいかな?」

遠慮がちに聞いてくる彼女を拒むことなんて私にはできないのです。

返事の代わりに目を閉じて待っていると、すぐに柔らかい感触が伝わってきました。

そして、ゆっくりと離れると同時に目を開けると恥ずかしそうに

微笑んでいる彼女と目が合ったことで余計に恥ずかしくなってしまいます。

しかし、そんな彼女を見ているうちに愛おしさが込み上げてきて

気付いたら自分から抱き寄せてキスしていました。

そうして互いの唇が触れ合う時間が長くなるにつれて興奮が高まり、

自然と舌が絡み合うようになっていきました。

それからどれくらいの時が流れたのでしょうか、

時間の感覚すらも忘れる程に夢中になって貪り合っていた私たちでしたが、

ようやく正気に戻った時にはすっかり息が上がっていて汗だくに

なってしまっていたので一旦休憩することにしたのです。

「はぁ……疲れた」

ため息混じりに呟く彼女に対して私は笑顔で返すことしかできなかったのですが、

内心ではもっとしたいと思っていたりするのです。

でもそれを口に出すことはできなかったんですけどね……すると、

彼女は何かを思い出したような顔になり立ち上がると台所へ向かい始めたではありませんか!

一体何をするつもりなのかと思っていると、その手には鍋に入った煮物を持って戻ってきてくれました。

どうやら料理を作ってくれていたみたいです。

流石は私の自慢の恋人様ですっ!

嬉しすぎて涙が出ちゃいそうになりました。

早速食べてみるととても美味しくて幸せな気分になれる味だったので

感激しちゃいました。

「ありがとう、久瑠宮さん」

とお礼を言うと照れくさそうに微笑む彼女が可愛らしく思えました。

それから二人で片付けを終えた後は再びベッドの上に腰掛けると、

どちらからということもなく顔を近づけていき口づけを交わし合ったのでした。

舌を入れる深いキスを交わした後は互いに見つめ合っていましたが、

先に沈黙を破ったのは私の方だったのです。

どうしても聞きたいことがあったからです。

「どうして私と付き合ってくれたんですか?」

と質問を投げかけてみると少し驚いたような表情を見せた後でこう答えられました。

「……一目惚れ、だからかな」

そう言われて顔が熱くなるのを感じました。

まさかそんなことを言われるとは思っていなかったので照れてしまいます。

しかも、相手はあの憧れの人である久瑠宮その人なのですから尚更です。

そんなことを考えているうちに再び唇を奪われてしまったので

慌てて抵抗しようとしたもののあっさりと抑え込まれてしまったことで

諦めざるを得なくなりました。

そのまましばらくの間キスを続けていたんですが、

やがて満足したのか解放してくれたところで今度は私から攻めていくことにしました。

最初は軽く触れる程度のものだったんですが、徐々に大胆になっていった結果最終的には

舌を絡めるような激しいものになっていきました。

暫くの間夢中で貪り続けたおかげで息苦しくなり始めていたものの止めることができず、

結局最後には力尽きるように倒れ込んでしまいましたが、それでも満足感が勝っていたようです。

その後はしばらく余韻に浸っていましたけど、不意に頭を撫でられたことで現実に戻された感じです。

見上げるとそこには優しい微笑みを浮かべている久瑠宮さんがいたので安心感を覚えました。

その後も少しの間、膝枕をしてもらいながら甘えたりしているうちに眠くなってきたので

甘えるように擦り寄ると優しく抱きしめてくれたので安心して眠ることができたのでした。

次の日以降も変わらず愛し合いながら日々を過ごしていたある日のこと……ついに

運命のレースを迎えることになった私たちは控え室にいたわけだが、

いざとなると緊張してしまうものだと思い知らされることとなったのです。

それは久瑠宮さんも同じだったようで普段とは違って表情が

強張っていたように見えた為心配になった私が声をかけると、

ハッとした表情でこちらを見た後に苦笑いを浮かべた姿を見て

ホッとしたものの未だに落ち着かない様子であることがわかったので、

そっと手を握ると握り返してくれたのです。

その温もりを感じながら深呼吸をして気持ちを落ち着かせることに成功すると、

係員の方に呼ばれゲートへと向かうこととなった。

いよいよ始まるんだという思いを抱きつつ一歩を踏み出した瞬間、隣から聞こえる声に耳を傾ける。

それが最愛の人のものであることを認識しながら集中して行くことにする。

スタートの合図が聞こえた瞬間に勢いよく飛び出した私は、

前を走るライバル達に遅れまいと必死でペダルを漕いでいたのだが、

そんな中で気になることがあったのだ。

というのも、お尻が異様に熱い気がするんだよね……そのせいで変な気分に

なってしまいそうなのだけど我慢しないと駄目です。

そう思いながら懸命に走り続けていると遂に最終コーナーへと差し掛かるところまで

やって来たところで私は最後の力を振り絞るようにしてスパートをかけることにしたのである。

そして、一気に加速していったことで先頭を走っている選手に

追いつき追い越すことに成功したことでトップに立ったその瞬間、

思わず心の中でガッツポーズをしたくらい喜んだんだけど、

それと同時に強烈な快感に襲われて意識を失いそうになるほどだったんだ。

危ないところだったので、危うく転倒しちゃうところだったからです。

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