第12話 私と競輪⑫
それから数日後、練習を終えてから着替えを済ませた私は、
家に帰る前にスーパーへ寄って食材を買い込んで帰ることにした。
理由は簡単で、久瑠宮さんに料理を作ってあげるためである。
というのも彼女は料理をするのが苦手らしく、
いつも外食ばかりしているらしいので心配になったからだ。
そのため私が代わりに作ってあげることにしたのである。
早速材料を揃えて調理を始めると、途中で何度も味見をしながら
調味料を調整していくうちにどんどん完成度が高くなっていくのが自分でも分かってきて嬉しくなった。
そうして完成した料理を皿に盛り付けてテーブルに並べる頃にはすっかり冷めてしまっていたものの、
それでもなお美味しそうに見えたため、自信を持って彼女に差し出すことができたのだ。
そうすると彼女は目を輝かせながら喜んでくれただけでなく、
一口食べるなり美味しいと言ってくれて、
さらにおかわりまでしてくれたことに感動を覚えた私だった。
その後しばらく一緒に食事を楽しんだ後で別れたのだが、
別れ際にまたキスをしてきたので私もそれに応えるようにお返しをしたのであった。
そして翌日、いつものようにトレーニングをするために練習場へ向かった私は、
そこで早速久瑠宮さんと再会することになった。
私が挨拶をすると彼女も笑顔で応えてくれて、早速練習を始めることにしたのだが、
その際に昨日のお礼として手作りのお菓子を渡してあげると、
彼女はとても喜んでくれただけでなくその場で食べてくれており、
その様子を見ていると私も幸せな気分になれたのだった。
それからしばらくの間練習を続けた後、休憩に入った時に
ふと思い出したことがあるので彼女に訊いてみることにして声をかけた。
それは彼女のスキンシップの多さについてなのだが、本人は無自覚だったらしく、
私に指摘されたことで一気に赤面してしまったことからもそれが窺えたため思わず笑ってしまったものの、
同時に嬉しくもあったのであった。
「だって、あなたと一緒にいると安心するんだもの。
あなたの温もりに触れていられることが幸せだからつい、ね」
と言って頭を搔く彼女の仕草が可愛らしくて抱きしめたくなる衝動に駆られたものの、
ぐっと堪えることができただけでも良しとするべきだろう。
それから二人でベンチに座り、恋人同士だからこそできる話をしているうちに、
次第にキスを交わしたくなってきてしまった私は、久瑠宮さんに触れようとした時であった。
突然彼女の方から私の頰に唇をつけてきたのだが、
その瞬間心臓が止まりそうになった私は呆然としてしまいながらも
嬉しくて堪らなかったため自然と笑みを浮かべていたと思う。
(あれ……私ってこんなにチョロかったっけ……?)
そう思ってしまったものの、私にとって彼女が大切な存在だということには変わりなかったし、
この先ずっと一緒にいたいと思える相手だったのだから当然の結果だと思い直すことにしたのである。
そしてその後も練習を続けていった結果、ついにレース本番を迎えることになったわけだが、
不思議と緊張することもなくリラックスした状態で臨むことができたのは
間違いなく久瑠宮さんが傍にいてくれたおかげだろうと思っている。
そんな彼女は今日も一緒に会場まで来てくれており、私の応援をしてくれることになっているのだが、
そんな彼女のためにも必ず優勝してみせようと心に誓った私だった。
いよいよレースが始まったわけなのだが、ここで私の最大の武器といえば
他の追随を許さないほどの体力があることだと思っている。
だから全力で最後まで逃げ切るべく全神経を集中させつつ、
ひたすらペダルを踏み続けることにしたのである。
そして結果的に私が総合優勝を果たしたことを久瑠宮さんが大変喜んでくれたおかげで、
こちらもより一層嬉しい気持ちになることができたため、感謝の気持ちを込めてキスをすると、
彼女もまたそれに応えてくれていたのだった。
その後も抱き合ったままお互いの唇の感触を感じ合いながら余韻に浸り、幸福感に包まれている私達なのであった。
ある日のこと……私はいつものようにロードワークに出掛けて走ることで
スッキリしてから帰宅するという日常を送っていたが、さすがにキツくなってきていたので
どこかに逃避するいい方法はないかなと考えていた時に思い付いたのが競輪であったのだ。
そこで早速参加登録を済ませると早速練習を始めた私だったのだが、
この時はまだ軽い気持ちで始めたに過ぎないものであり、すぐに辞めることになるだろうと思っていたのだが、
予想に反してハマってしまった結果、すっかり夢中になってしまっていたのである。
そして今日も練習を終えた私は、帰り支度を済ませて帰宅する途中だったわけだが、
その途中でふとある考えが頭に浮かんできたため、思い切って実行することにした。
それは、久瑠宮さんに私の家に来てもらって一緒に過ごすという計画だ。
(よし、そうと決まれば早速連絡しよう!)
そう心に決めた私がスマホを取り出すとメッセージアプリを起動して
彼女宛にメッセージを打ち込むことにした。
内容はこうである。
〈お疲れ様です! 実は相談したいことがあるんですけど、今ってお時間ありますか?〉
送信ボタンを押す前に深呼吸をしてから送信ボタンを押した直後、
すぐに既読がついたものの返信が来るまでの間ドキドキしながら待っていると
数分で返事が来たのでホッと胸を撫で下ろした後、内容を確認するとそこにはこんな言葉が書かれていたのである。
〈大丈夫だよ! どうしたの? 何かあったの?〉
どうやら話を聞いてくれるつもりらしいことが分かり嬉しく思った私だったが、
そこで改めて文章を読み返してみたところ、自分がいかに大胆なことを口走っていたのかと気付き、
恥ずかしくなってきたが時すでに遅しである。
それでも諦めるわけにはいかないと思った私は、意を決して送信ボタンを押すことにしたのだった。
〈実はちょっとお願いがありまして……今から伺っても構いませんか?〉
今度はすぐに返事が返ってきたため、迷わずに画面を閉じると再び深呼吸を繰り返した後、
私は家路を急ぐことにしたのであった。
ようやく家に帰った私が出迎えてくれた久瑠宮さんに事情を説明すると、
彼女は快く受け入れてくれたばかりか、笑顔でこう言ってくれたのだ。
その日からというもの、毎日欠かさず練習を重ねていくうちに段々と上達していった私だったが、
ある日の練習中に突然バランスを崩してしまい転倒してしまったことで怪我を負ってしまったことから、
しばらく休養することになってしまったのであるのだが、
その間も久瑠宮さんは私の傍にいてくれただけでなく励ましの言葉をかけてくれたり
食事を作ってくれるなど献身的なサポートをしてくれたお陰で徐々に元気を取り戻していった私は、
ついに復帰することになった時には以前よりも強くなっていることを実感することができたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます