第11話 私と競輪⑪
そんなある日のこと、練習中に転倒してしまい足を捻挫してしまった私は、
休養を取ることになったのだが、退屈で暇を持て余していたところ、
急に彼女が会いに来てくれて大喜びする私だった。
最初は世間話をして楽しく過ごしていた私たちだったが、
いつの間にかお互いに距離が近づいていき、気が付けばキスをしていた。
初めは軽い気持ちだったものの、何度も繰り返すうちにどんどんエスカレートしていき、
つい先ほどまでしていたはずの挨拶代わりのキスはいつの間にか舌を絡めた濃厚なものへと変わっていった。
やがて満足したのかようやく唇を離した彼女は、頬を赤く染めながらも微笑んでくれた。
その姿を見た私は、胸の奥がキュンと締め付けられるような感覚に襲われてしまい、
思わず彼女に抱きついてしまった。
そうすると彼女もそれに応えるように抱きしめ返してくれたので、
しばらくの間そのまま抱き合っていたのだった。
その後、しばらく経ってから我に返った私たちは慌てて距離を取り、
お互いに顔を背けたまま黙り込んでしまったが、
それでもなお彼女の温もりを感じていたくて仕方がなかったため、
そっと手を伸ばしてみると彼女もまたそれに応えるように握り返してくれたので、
思わず笑みが溢れてしまう。
だがそこで私の足の状態を思い出し、
彼女も同じように足を痛めていることを思い出した私は、慌てて手を離したが、
そこでまた悶々とした感情が湧き上がってきたので、思い切って口に出してみると、
彼女は驚いた表情を見せた後でクスクスと笑った後でこう言ってくれた。
「ふふっ、じゃあ私がマッサージしてあげようか?」
その言葉を聞いた瞬間、心臓が大きく跳ね上がるような感覚に襲われたが、
それでもなお平静を装った私は、素直にお願いすることにしたのだった。
それからしばらくの間はお互いに無言で過ごしていたのだが、
不意に彼女が口を開いたかと思うとこんなことを言い出したのだ。
「ねえあいか、ちょっと耳貸してくれないかな?」
そう言われたので首を傾げながらも言われた通りにすると、
彼女は耳元で囁いた後、そのままキスをしてきたのだが、
これが予想外に気持ち良くて思わず声が出てしまったため
慌てて口を塞いだものの時すでに遅しだったようで、彼女に笑われてしまった。
しかし不思議と嫌な気分ではなくむしろ幸せな気持ちに包まれていたため、自然と笑顔になっていたように思う。
その後も彼女とのディープなキスを続けていたわけだが、
徐々に興奮してきたこともあり、歯止めが効かなくなってきてしまった。
そんな私を気遣ってくれたのか彼女は一旦キスを止めてくれたのだけれども、
すぐにまた求めてきてしまい、結局しばらくの間ずっとしていたような気がする。
それからしばらくしてようやく落ち着いた私たちは、抱き合ったままで深い眠りに落ちていったのだった。
翌朝目を覚ますと既に時計は9時を回っており、すっかり寝過ごしたことに
気付かされた私は慌てて飛び起きたのだが、その直後にお腹が鳴る音が聞こえてきて、
それが自分のものであることに気付いた瞬間、恥ずかしさのあまり悶絶してしまったのだった。
そんな私に対して彼女は笑いながらも朝食を用意してくれたため有り難く頂戴することにしたのだが、
その際にふと気になったことがあったので質問してみることにしたのだ。
それはなぜ彼女が私の家を知っているのかということだが、その答えは意外なものだった。
実は以前に一度、練習中に怪我をして動けなくなった時に助けてもらったことがあり、
それ以来何度か連絡を取り合う仲になったのだという。
その時の記憶を思い返してみると、確かにそのような出来事があったような気がしたので納得せざるを得なかった。
それに何より彼女が嘘を吐くような人間でないことを知っていたため、
信じる以外の選択肢はなかったとも言えるだろう。
それからしばらく雑談した後、彼女は仕事があるということで帰って行ったのだが、
私はしばらくの間余韻に浸っていたせいで、なかなかベッドから起き上がれずにいた。
それほどまでに彼女との時間は心地良くて幸せなものだったのだ。
また会いたいな……と心の中で呟く私だったが、それと同時にどこか寂しさを感じていたことも事実だった。
なぜならこれでお別れというわけではないからだ。
というのも、今後も時々連絡を取り合う約束を交わしていたからである。
そのことに嬉しさを覚えつつ、まずは今週末に予定されているレースに向けて頑張ろうと思うのだった。
そして迎えた当日、久瑠宮さんと一緒に練習していた時のことである。
突然彼女の携帯が鳴り始めたため慌てて電話に出ると、
どうやら急用ができたらしく急いで帰らなければならなくなったらしい。
そこで急遽一人で出場することに決まった私は不安を抱えながらも必死に練習に励んだ結果、
何とか決勝まで勝ち進むことができたものの結果は散々なもので最下位という結果に終わったものの、
それでも初めてにしては上出来だったと思う。
何よりも久瑠宮さんの足を引っ張らずにすんだことにほっとしていたほどだ。
レース後に顔を合わせた私たちは、お互いの健闘を讃えあった後で握手を交わし合ったのだが、
その時ふと彼女からある提案を受けたことで、私の心は大きく揺れ動いたのだった。
それは私と恋人になってほしいというものだったからだ。
もちろん最初は戸惑ったものの、次第に嬉しさが込み上げてきた私は迷うことなく承諾することにした。
それからというもの、彼女との交際がスタートしたわけだが、
その日から毎日欠かさず連絡を取り合うようになり、デートを重ねる度に
彼女の優しさや温かさに触れる機会が増えていったため、今ではすっかり彼女に心を奪われてしまっていたのである。
そんなある日のこと、練習中に転倒してしまった私は足を怪我してしまい歩くこともままならなくなってしまったのだ。
そんな私を見かねたのか彼女が駆けつけてきてくれたおかげで事なきを得たのだが、
その後も心配そうな表情を浮かべながら付き添ってくれている様子を
見て申し訳ない気持ちでいっぱいになった反面、嬉しくもあった。
その後、しばらく安静にしていたものの一向に良くなる気配がなかったため病院へ行くと、
医者から告げられた結果は骨折で、手術が必要になると言われた私は
目の前が真っ暗になりそうになったのだが、その時彼女が声をかけてくれたおかげで
何とか持ち堪えることができたのである。
その後は彼女と一緒に病院へ行き検査を受けた結果、やはり骨にヒビが入っていることが
分かったため緊急入院することになったのだが、その間も彼女はずっと傍にいてくれた上に、
私以上に取り乱して泣いてくれたことで救われていた部分があったのも事実だ。
それからというものの、毎日お見舞いに来てくれるようになっただけでなく
リハビリにも付き合ってくれたお陰で少しずつではあるが回復していったこともあり、
ついに退院する日がやってきた時には心の底から安堵することができたのだった。
退院してからしばらくの間は通院していたが、数ヶ月後には日常生活に
支障をきたさない程度にまで回復したため、そろそろ復帰しなければと思っており、
そこで久瑠宮さんに相談することにした。
そうすると彼女は喜んで歓迎すると言ってくれて、
早速練習にも付き合ってくれる約束してくれたことでやる気が湧いてきたのだ。
とはいえまだ完治しているわけではないので無理はできないということで、
軽い運動から始めることにして徐々に強度を上げていくことになった。
最初は苦しく感じていたものの次第に慣れてくると楽しくなってきたため、
毎日欠かさずトレーニングを続けることにしたのである。
そしてついにレースに出場する日がやってきたのだが、
緊張していた私を励ましてくれたりアドバイスをくれたりしたおかげで無事に完走することができたのだ。
その結果、なんと優勝することができてしまったため喜びも一入だったと言えるだろう。
その後も順調に勝ち進んでいき、最終的には準優勝という結果に終わったものの、
私にとっては大きな自信となったことは言うまでもないことだったし、
何よりも久瑠宮さんと一緒に表彰台に上がれたことが一番嬉しかった出来事であったことは間違いない。
それからというもの、より一層練習に励むようになった私は、
ついにはナショナルチームの一員として参加するまでに至ったのであった。
そしてその日の夜、久瑠宮さんに祝杯をあげるために一緒に食事に行くこととなったのだが、
そこで改めてお礼を伝えることにしたところ、彼女は微笑みながらこう言ってくれたのである。
「おめでとう、あいか。よく頑張ったね」
その言葉を聞いた瞬間、胸がキュンとなり、思わず涙が溢れてきてしまったものの、
すぐに涙を拭うと笑顔で応えることができた。
そしてこれからも一緒に頑張ろうと誓い合った後、私たちは手を繋いで店を後にしたのだった。
それから数日後、ついにレース当日を迎えた私は緊張しながらも会場へ向かったのだが、
久瑠宮さんや他の選手達と一緒に練習をしてきたことを思い出しながら気持ちを
落ち着かせつつ出番を待つことにしたのである。
そしていよいよスタートの合図が鳴り響いた瞬間、
一斉に飛び出していく選手たちの姿を見ているうちに徐々に気持ちが昂ってきたため、
深呼吸をして集中力を高めることにしたのだ。
そうすると不思議なことに周囲の雑音が消え去り無心で走ることができるようになったため、
そのままトップを維持したままゴールラインを通過することに成功したのである。
その結果、見事優勝することができたため大喜びする私だったのだが、
そこで久瑠宮さんから祝福の言葉をかけてもらったことでさらに嬉しさが増していったことは言うまでもないだろう。
その後も表彰式などが行われた後で解散となったわけだが、
久瑠宮さんは私の家まで送ってくれると言ってくれたため、
お言葉に甘えて甘えることにしたのである。
家に帰るまでの間、他愛もない会話をしながら歩いているうちに
あっという間に自宅に到着したのでお礼を言うと、
彼女は優しく微笑んでくれた後で別れ際にキスをしてくれたので、
私もお返しとばかりに彼女にキスをしてあげたところ、
とても喜んでくれていた姿を見て私も嬉しくなったのであった。
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