第25話 相談事




「相談したいことですか?」

「はい。様々なことに成功しているリディア様に解決していただきたいことがありまして」

「解決出来るかどうかは分かりませんが、話だけでも聞きますよ」

「ありがとうございます。実は……リディア様にご相談したいのは、私の娘のことなんです」

「……娘?」


 思わぬ単語に、私は首を傾げた。


「はい。実は最近、娘が部屋に引きこもってしまって、出てこようとしないんです。同年代のリディア様に話し相手になってもらえたら、何か変わるんじゃないかと思いまして」

「……」

「特にリディア様は風呂カフェで成功されておりますから、娘にとっても何か刺激になるのではないかと思いましてね」

「なるほど」


 彼の話を聞きつつ、その条件を受け入れるか考える。


 話し相手ね……。前世はともかく、今世では、友人と呼べる相手がほとんどいないのよね。

 同年代の貴族家の娘とお茶会を開いたりはしていたけれど……利益上の繋がりばかりで裏では何を考えているか分からないから、気を許したことはなかったな。

 友人と呼べる相手は、リーナとルークくらい。それでも主人とお嬢様の関係だから、一線引いているところはあるしね。

 そんな私に、話し相手なんて務まるかしら。


 それに、私には風呂カフェの営業もあるし……。


「お願いできませんかね……?」


 彼は不安そうに私を見ている。


 彼の様子から察するに、本当に困っているのだろう。

 まあ、そうじゃなければ、少し前まで「悪女」なんて言われていた私に、こんな話なんてしないよね。


 私は、困っている人がいるならなるべく助けたいと思っている。

 これまでも、そうしてきたからこそ、風呂カフェ繁盛に繋がってきたと信じているし、実際にそうだったはずだ。情けは人の為ならず、なのである。


「分かりました。じゃあ、お店の改装が終わるまででも大丈夫ですか?」

「もちろんです! 本当にありがとうございます」


 お店の改装が終わるまでは、店を閉めなきゃいけないから、かなり時間が空く。改装工事の間だけなら問題ないだろうと、私は引き受けることにしたのだった。





⭐︎⭐︎⭐︎





「それで、引き受けちゃったんですか……?」

「ええ。風呂カフェを閉めている間だけだし、改装工事も格安で引き受けてもらえるそうだし、いいことだらけよ」


 私の言葉にルークが険しい顔をした。


 次に訪問する日程を決めてから、私はカフェへと戻った。ちょうどカフェスペースで掃除をしていたルークに、今日の結果を話したんだけど……。


「怪しい話じゃないですよね? 大丈夫なんですか?」


 相変わらず、ルークは極度の心配症である。私も子どもじゃないんだし、何がそんなに心配なのかしらね〜。


「大丈夫よ、ルークは心配しすぎ。相手の素性は分かってるんだし、何もないわよ」

「うーん。なーんか嫌な予感がするんですよね」

「それより早く店を開けるわよ。しばらく閉店することも常連さんたちにも伝えなきゃね」

「分かりました……」


 今日は私の予定があったため、遅めの開店である。急いで準備を進めて、店を開けると、すぐにお客さんが入ってきた。


 何人かに店を休業することを伝えると、


「あら、しばらく休業するの? 寂しいじゃない」

「嬢ちゃんの風呂に入れないなんて、つれぇよ〜」

「風呂なしじゃ生きれない体にされちまったのによぉ」


 なんて言われてしまった。けれど、「また店が始まったら、すぐに行く」とも言ってくれたので、嬉しい限りだ。


 夕方ごろになると、騎士団員たちも店を訪れてくれた。


「あら、いらっしゃい」

「リディア嬢、しばらく風呂カフェを閉めるって聞いたんだが、本当か⁈」


 入店するなり、そう聞いてきたのは、ユーリさんだった。どうやら街中で既に噂になってるらしく、たまたま休業について耳にしたらしい。


「本当よ。改装工事をしたいと思ってるの。でも、特別に早く工事に取り掛かってもらえるから、2ヶ月くらいで終わるわ」

「そうなのか……。2ヶ月の間、寂しくなるな」

「そう思ってもらえて、光栄だわ」


 私がにっこりと笑うと、ユーリさんの後ろから騎士団員たちが顔を出した。そして、彼らはニヤニヤしながら口を開いた。


「団長、そこは“君”に会えなくて寂しいって言うところでしょ〜〜」

「ようやく有給を取ったかと思えば、この間はリディア様と出かけたんですって? お堅い団長が積極的になっちゃって〜〜」

「ちょっと待て。リディア嬢とは、そういう関係じゃない。この間だって、魔封石狩りに行っただけで……」


 他の騎士団員達からのからかいに、ユーリさんはたじたじになっている。そこへ一人の騎士団員が更なる追い打ちをかける。


「ちょっと待って下さいよ、団長。まだリディア嬢って呼んでるんですかぁ?」

「は? それはそうだが……」

「そこはリディア“さん”でしょ。リディア様と同じように!」

「あ、私もちょっと思ってたわ」


 彼は、私のことを「リディア嬢」と呼んでいる。私は「さん」付けで呼んでるのに、「嬢」って呼ばれることに少しだけ距離を感じていたのだ。

 魔封石狩りに行った後は、ちょっとだけ仲良くなれたかな〜なんて思ってたから。


「ほらほら、リディア様もこう言ってるんですよ?」


 ユーリさんはグッと言葉に詰まる。そして、目を泳がせながら口を開いた。


「リ、リディアさん……?」

「はい、ユーリさん」


 私が答えると、彼はカッと顔を赤くした。周りはそんな彼の反応を見て、ニヤニヤしている。

 騎士団員達のじゃれ合いに私が苦笑いしていると、ルークが私たちの間に割って入っていった。


「はいはい、お客さま。他のお客さまの邪魔になってますので、後にしてください」


 そして、ルークは「は な し す ぎ」と口パクで私に伝えてきた。他の人に揶揄われているユーリさんが新鮮で、ついつい。



 そんなこんなで慌ただしく営業を続けて、数週間が経過した。


 ついに改装工事が始まったので、店は休業となった。

 時間が出来たので、リーナとルークには自由に過ごしていいと伝えて、私もお風呂の研究に明け暮れている。


 そして、相談を受けた「引きこもってしまった娘」のところに訪問する日がやってきたんだけど……。


 訪問先で、ルークの心配がある意味、、、、的中していたことを知ることになる。

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