3章 サウナ風呂とユードレイス観光地化計画
第24話 リディアの新たな挑戦
「しばらく風呂カフェを閉めたいと思ってるの」
「……え?」
私の言葉にルークが目を見開く。
「風呂カフェを閉めたいって、どういう……。も、もしかして……」
ルークが後ずさる。そして、勢いよく振り返り、大きな声で叫んだ。
「リーナァァァァ、こっちに来てくれ! リディア様が偽物に成り代わられているかもしれない!」
「どう言う意味よ、それ⁈」
ルークは乱心しながら、私の肩を掴んだ。
「だって、リディア様が風呂カフェを閉めるって、あり得ないですよ! 三度の飯より風呂が好きなリディア様が? 偽物じゃなきゃおかしいでしょ!」
「本っ当に、あなたは失礼ね⁉」
「それとも熱でもあるんですか? 明日は槍が降るんですか? 頭大丈夫ですか⁇」
「よーし、熱があるのはあなたの方ね。さっさと落ち着け、バカルーク!」
「何してるんですか、二人とも」
そこへあきれ顔のリーナがカフェスペースに入って来た。彼女の冷めた視線が突き刺さる……。
「リディア様が店を閉めたいだなんて言い出したんだよ。だから、このリディア様は偽物なんじゃないかって話をしてたの」
「店を閉めたい? どういうことですか?」
リーナが冷静に聞いてくれたので、ようやく話が進められそうだ。ため息をつきつつ、私は口を開いた。
「あのね、風呂カフェを閉めたいって言ったのは、改装工事をしたいからだけなの」
「え? 改装工事?」
「だから、私は偽物じゃないし、熱もないし、正気も失ってないわよ」
まったくルークの悪ノリには呆れちゃうわ。まあ、半分くらい本気で思ってそうだったけど……。
「改装工事」と言う言葉に、リーナが首を傾げた。
「改装工事って……、この店のどこも古くなってないですよね? 必要ありますか?」
彼女の言う通り、この店は老朽化などしていない。そもそもこの店は、婚約破棄の慰謝料を使って新たに建築したものだ。改装の必要は特にないだろう。
しかし……。
「私、新しいお風呂を風呂カフェの中に作りたいの」
「新しいお風呂?」
「そう。ドライヤーを売り出したおかげで、お金がたくさん入ってきたでしょう? この機会に、資金の関係で諦めてたお風呂を作ろうと思って。どうせなら増築もしたいわね」
「なるほど。いいんじゃないですか? お客さんも増えてきたし、店を大きくするのは賛成です。それで、どんなお風呂を作るつもりなんですか?」
リーナの質問に、私は「ふっふっふー」と笑って自信満々に答えた。
「ずばり、サウナ風呂よ」
「サウナ風呂……ってなんですか?」
「部屋を温めた上で熱した石に水をかけて、それによって発生した蒸気で温まる……って感じかしら。水風呂と交互に入ると、色んな効果があるのよ」
「へぇー」
リーナもルークも何だかよく分かっていない表情をしている。まあ、こればっかりは実際に体験してみないと分からないわよね……。
「とにかく、予定を立てて、この店を建ててもらった建築商会の商会長に話をつけに行くわよ」
⭐︎⭐︎⭐︎
数日後、私は商会長に会いに行った。その人は、実は、この土地の自治を任されている権力者でもあったりする。
大きな屋敷の来賓室に通されて、すぐに商会長がやって来た。初老の優しそうな男性だ。
「リディア様のご活躍の噂は聞いておりますよ。お風呂というものを開発して人々に癒しを提供しているばかりか、街を襲うスライムを特殊な方法で倒したり、自ら魔物の森に入って魔封石を獲得しドライヤーを発明したりと勢いが止まらないとか。すごいですね〜」
「あはは……」
ベタ褒めされると、こそばゆい。私が苦笑いしていると、彼はボソッと呟いた。
「最初こそいい話は聞きませんでしたが、やはり、実際に会って確かめなければですね……」
「え? なんですか?」
「いいえ、何でもありません。それでは、本日のリディア様のご要求は?」
「お店を新改装したいんです。ぜひそちらにお頼みしたいのですが……」
私は改装したい旨とその構想案をざっくりと話した。
「なるほど、分かりました。改装工事について、うちの商会で引き受けましょう」
「ありがとうございます」
「ただ、色々なことで成功を収めている貴方に相談したいことがあります」
「相談したいこと、ですか?」
私が聞き返すと、彼はにこやかに「はい」と答えた。
「ええ。こちらの相談を聞いてくださるなら、格安で引き受けますよ」
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