幕間 公爵家当主として、娘のために出来ること




 


 私の名前は、ロバート・ハミルトン。リディアの父親である。


 執務室で書類仕事をしていると、部屋の扉がノックされ、専属執事が部屋に入ってきた。


「リディア様からお手紙と……箱が届いております」

「リディアから箱が?」


 数ヶ月前にユードレイス領へと旅立った娘。彼女とは何度か手紙のやり取りはしていたが、箱が送られてきたのは初めてのことだった。

 送られてきた手紙を受け取り、すぐにそれを読み始める。


 手紙には、ユードレイス領で楽しくやっていること、最初は苦戦したがお店も繁盛し始めたこと、新たな出会いなど、彼女の生活の様子が書かれていた。


 彼女の手紙から楽しく過ごす様子が窺えて、親として一安心である。


 そして、手紙には「ドライヤー」という物のことが書かれていた。


『あちらで“ドライヤー”というものを発明しました。温かい風が出るので、お風呂上がりの髪を乾かすことが出来ます。手紙と一緒にお届けしましたので、ぜひ使って下さい』


「“ドライヤー”を発明した? この箱に入っているのか」


 それがどういうものなのか検討もつかず、困惑しながらも、手紙と共に届けられた箱を開く。


 箱の中には折りたたみ式の機械が入っていた。


 スイッチを入れてみると、温かい風が吹き始めた。


「おお!」


 スイッチをもう一度押すと、更に温かい風が出てくる。どうやら、2段階調整が出来るようになっているらしい。


「なるほど。風呂上がりにこれで髪を乾かせということか。リディアの考えそうなことだな」


 いつだって風呂に一直線の娘の姿を思い浮かべてクスリと笑う。


 しかし、ドライヤーか。水浴びの後に髪をすぐに乾かす道具があれば、便利だろう。寒い地域では特に需要があるに違いない。


 リディアはいいものを発明したな……。


「公爵様、そろそろ夜会に向かうお時間です」

「もうそんな時間か」


 執事から話しかけられて、時計を見る。執事の言う通り、招待されていた本日開催の夜会に行く時間となっていた。


 馬車に乗って、夜会が開催される屋敷へと向かう。


 私が会場に入ると、一気に視線がこちらに集まった。


「ハミルトン公爵様よ。ほら、娘が……」

「リディア様よね? 早々に追放したのは英断よね」

「公爵様は、娘のやったことに関与してなかったってことだものね」


 娘が男爵令嬢を虐めていないことは明白なはずにも関わらず、節穴な連中が多すぎる。

 きっと彼らは自分にとって「都合のいい」「面白い」ことしか耳に入れないのだろう。


 社交界には敵ばかりで、娘の名誉を守ることすら儘ならない。


 だが……。娘の悪口を言われて黙っているほど、私も愚図な親ではない。


 娘は新しい土地で前を向いている。


 これからリディアの作ったドライヤーは徐々に王都にも広まっていく可能性があるだろう。その時に娘に不利な状況を作りたくない。


 親として娘のために出来ることは……貴族の間に流れている誤解を解き、王都における味方を少しでも増やしておくことか。



 それに、国王の動きがどうもきな臭い。リディアをセドリック様の婚約者に戻そうとしている動きが見られる。

 何かあった時のために、リディアの味方を増やしておくに越したことはないだろう。


「さて。社交界でどう立ち回れば、こちら側の貴族を増やせるか」


 公爵家当主としての腕が試されるところだ。

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