第23話 快適お風呂ライフを満喫中




 ドライヤーの販売は、結果的に上手くいった。


 風呂カフェで取り扱っていたのもあって、ドライヤーはすぐに売り切れてしまった。


 同時に発売した“簡易お風呂セット”も沢山の人が購入してくれて、家で温かいお湯とドライヤーを楽しむ人も増えたようだ。


 その後は、追加で販売をして欲しいとの要望があったので、新たに魔封石を手に入れて、火魔法と風魔法を込める作業に忙殺されることになった。


 その際は、(仕事でお疲れの)ユーリさんにばかり頼むのも申し訳なかったので、風魔法を使える他の騎士団員を何人か紹介してもらうことが出来た。


 他の騎士団員さんと一緒に魔法を込める時には、次のようなやり取りがあったりもした。


『それじゃあ、あなたの魔法を受け取りたいから、手を握っても大丈夫かしら?』

『手ですか⁈』

『嫌ならごめんなさいね。こうするしかないのよ』

『嫌なんて滅相もないです! むしろ嬉……ゴホン。お役に立てるなら光栄です!』


 その度に過保護なルークが変な顔をしていたのが、ちょっと面白かったけど。


 ただ、たまたま来店した時にその様子を見たユーリさんが少しだけ渋い顔してた気がするのは、気のせいかしらね。


 そうやってドライヤーを生産・販売し始めて、しばらく経った頃、ドライヤーの作り方を買い取りたいと持ちかけてきた商会が現れた。


 交渉の末、ドライヤーが売れた分だけ私にも利益が入るように契約を交わした。

 この契約によって、これからもドライヤーによる収益が見込めるだろう。


 魔封石への魔法の込め方のポイントやコツなどをかなり詳細に記載したので、熟練な魔法道具製作者が練習すれば、すぐに大量生産できるようになるだろう。


 ユードレイス領で歩いていると「お風呂」という単語を聞くことが多くなったし、このままお風呂の文化が色んなところに広がっていけばいいなぁと思っている。


 こうして、ドライヤー製作から販売までの過程が終了し、私は再び風呂カフェの経営に尽力できるようになった。


 ドライヤー販売によってお金もたんまり入ってきたし、ドライヤーきっかけで新たな常連さんも出来た。


 簡易お風呂セットがあっても、湯船に浸かることは出来ないので、やっぱり風呂カフェに来たい人の方が多いのである。


 というわけで、風呂カフェの経営は順調である。



 今日も風呂カフェの営業を終わらせて、店外の掃除をしていると、そこへ一人の少女がやって来た。


「あなた、まだこんな店やってるのね?」


 いつもの悪口を言っては去って行くお嬢様である。

 いつも彼女はスルーしてれば無害なので、考え事をしながら片付けを続ける。


「最近、ドライヤーとやらでチヤホヤされてるみたいだけど、勘違いしないことね! 物珍しいから群がってるだけで、あなたがすごい訳じゃないんだから」


 この後は、仕事終わりのお風呂に入る予定だ。楽しみだな〜。


「ところで、ドライヤーってどんな感じなのかしら? 噂では髪が傷まなくなるって聞いたんだけど……」


 ドライヤーで髪を乾かせる分、お風呂上がりにのんびり出来る時間も増えたのよね。嬉しいわ。


「あ! べ、別に噂のドライヤーを使ってみたいとか思ってないんですからねっ!」


 お風呂上がりは何を飲もうかしら。流石に寒い日が続くから、温かい飲み物がいいかしらね。


「まあ、あなたがどうしてもと言うなら、この私が使ってあげてもいいけれど」

「……」


 ……お手本のようなツンデレ発言をした彼女は、顔を赤くしながら、上目遣いでこちらを見た。


 最初は悪口ばかりだった彼女だけど、最近はデレ(?)も見せるようになってきて、ちょっと面白い。


 私が黙っていると、彼女の後ろから、いつも彼女を回収していく従者が現れた。


「お嬢様。その絡み、見てるこっちが恥ずかしくなるから、やめませんか?」

「何よ、別にいいじゃない!」

「それより、屋敷にユーリ様がいらっしゃっているそうですよ。早く帰った方がいいんじゃないですか?」

「え? ユーリ様が⁈ 帰るわ!」


 彼女は勢いよく振り返って、ビシッと私に向かって指差した。


「それじゃあ、あなたと違って婚約者がいる私は失礼するわね! おーほっほっほっ」

「……」


 彼女は高笑いをして帰って行った。相変わらず嵐のような人ね……。


 マウントってやつなんだろうけど、おかしいわよね。

 前に直接聞いたんだけど、ユーリさんは婚約者はいないって言っていた。彼女は本当に何を言ってるのかしらね……。


「ま、どうでもいいわよね。お風呂に入ろっと」


 店の片付けを終わらせて、お風呂に入る。働いた後のお風呂でのリラックスタイムは格別だ。


「快適ね〜」


 お風呂から上がったらドライヤーですぐに髪を乾かして、温かい紅茶を飲んで、まったりする。


 風呂カフェの営業も順調だし、快適お風呂ライフを過ごせているわー……。



 私がテーブルに顎を乗せて、ダラダラしてると、ちょうどルークがお風呂から出てきたので、話しかける。


「ねえ、ちょっと考えてることがあるんだけど、聞いてくれない?」

「何ですか? また悩んでると見せかけて、お風呂に関することなんですよね? 俺はもう学習しましたよ」

「まあ、間違ってないわね」


 なぜなら、私は常にお風呂のことばかり考えているからね。


 私はニッコリしながら、口を開いた。


「しばらく風呂カフェを閉めたいと思ってるの」

「……え?」

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