第14話 あの道具がないっ!
「タオルじゃダメなんですか?」
「ダメってことはないんだけど……もっと早く髪を乾かせる魔法道具が欲しいのよね」
この世界には沢山の魔法道具が溢れている。氷魔法を使った冷蔵ボックスや風魔法を使った送風マシンなど……冷蔵庫や扇風機を彷彿とさせるものなどが魔法道具として存在している。
これらの魔法道具には、魔物を倒した時にゲット出来る魔封石というものが組み込まれており、ここにあらかじめ魔法を込めておくことで、誰でも簡単に魔法道具を使うことが出来る仕組みになっている。
また、あらかじめ水魔法を込めておいた魔封石は安価で出回っており、魔法が使えない一般市民も簡単に水浴びが出来る環境が作られていたりする。
しかし、その中で髪を素早く乾かすための「ドライヤー」という魔法道具は存在しないのだ。
今まではタオルでどうにかしてきたけれど、上手く拭き取れなければ湯冷めしてしまう。
だから、私が作りたいな〜と思ってるんだけど……。
「まず魔封石が手に入らないのよね〜」
魔封石は、魔物の討伐によってしか手に入らず、すべての魔封石が魔法道具の研究室や製造業者に直接売り払われてしまっているため、一般人が購入することはほとんど不可能なのだ。
だから、自分で魔物を狩りに行くしか手に入れる方法がないんだけど、素人だけで魔物の森に入るのは危険だと言える。
前にスライムを倒した時にでも、魔封石を回収しておけばよかったんだけど、あの時はそんなことに気を取られる暇もなかったし……。
そもそも魔封石が手に入ったとしても、私の火と水の魔法属性では、温かい風を送る「ドライヤー」は作れないだろうし。割と詰んでるのよね。
「ちなみに、どういう魔法道具を考えてるんですか?」
ルークに聞かれたので、私は紙にドライヤーのイラストを描いてみせる。
「ここの部分から温かい風が出て、髪を簡単に乾かすことが出来るの。機能によっては、風の温かさの段階を変えることも出来るのよ」
「へぇ。便利そうな道具ですね。今までタオルだけで、どうにでもなると思ってました」
ルークが感心したように頷く。
前世では当たり前だった道具が、こっちの世界では珍しいって思われることは多い。やっぱり、誰も思い付いてないだけでドライヤーもあったら便利だと思うのよね。
「というか、リディア様。もう少し見た目をスタイリッシュにした方がいいんじゃないですか?」
「は? どんな風によ」
「たとえば、こんな感じで」
彼は、ドラゴンの翼のようなものをドライヤーの風を送る部分に描いた。なんというか、男の子が好きそうなやつだ。
「それなら、もっと天使の羽みたいにした方が可愛く出来るわよ」
「待ってください。拳銃のようなデザインも良くないですか⁇」
と、二人で議論がヒートアップしてしまい、思い思いに紙にドライヤーのデザインを描いていく。
ドラゴン型ドライヤー、きゅるるん天使の羽ドライヤー、拳銃型ドライヤー、ハートたくさんプリティドライヤー……。
小学生かってツッコミたくなるようなものを二人で量産していく。なにこれ。
「ちょっと待ってください。絶対にこっちの方がかっこいいですって」
「こっちの方が可愛いわよ」
夢中になってしまっていたから、気づかなかった。後ろで仁王立ちする人影に。
「リディア様、ルーク。何をサボってるんですか?」
「「あ」」
ドスの効いた声に振り向くと、そこには笑顔のリーナがいた。ただし、目が笑ってない。
「私は必死にお風呂掃除をしていたんですけど。まさか二人で落書き遊びをしているとは思いませんでしたよ」
「や、やばい。リーナが怒ってますよ。ガチで」
「あ、あわわ」
「全然怒ってませんけど? ただ、片付けが終わってないのに、遊んでいたんだなって思っただけです」
「「すみませんでしたっ」」
その後はリーナに休んでもらって、私とルークで必死に後片付け・掃除をした。
こんな風に過ごしていると、どっちが主人なのか分からないわね。
けど、結局、こうやって友達みたいに接してくれるのが心地いいのよね〜。
⭐︎⭐︎⭐︎
それから数日。私はドライヤーのことは一旦頭の片隅に置いておいて、引き続き風呂カフェの営業に邁進していた。
その間にも、新規のお客さんが来てくれたり、スライムを一緒に倒した人が再来店してくれたり、例のお嬢様から店の外で嫌味を言われたり……。色々ありながらも、穏やかな日々を送っていた。
「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」
一人でご来店されたお客さんを見送る。すると、閉店間際だったこともあって、店内にはお客さんがいなくなってしまった。
今日は特にお客さんが少なかったように感じるが、たまにはこういう日もあるわよね。
私は、受付でのんびりと過ごしていたんだけど……。
突然、店の外でガッターンと、何かが倒れるような大きな音が聞こえてきた。
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