2章 お風呂に役立つ魔法道具を作ろう!

第13話 快適お風呂ライフに足りない物





 スライム撃退事件から一週間ほどが経過した。あれから、来店してくれるお客さんがかなり増えた。


 というのも、あの日共にスライムを倒したお客さんたちが気合を入れて宣伝してくれたらしく、「風呂カフェ・ほっと」に興味を持った人が来店してくれるようになったのだ。


 そこからお風呂の魅力に気づいてしまった人がリピーターになってくれて、何度も来店してくれるようになった。


 とあるお客さん曰く、「ずっと怪しい店だと思ってたけど、話を聞いて来てみたら、すごくいい店だった」とのこと。信頼できる人からの口コミって大事なのだと実感した。


 また、あの日にスライムを倒した同志たち(と勝手に呼んでる)も、度々このお店に顔を出してくれている。


 ちょうど、あの日のお客さんがやって来た。


「あ、いらっしゃいませ〜」

「おう、嬢ちゃん。今日も風呂に入りに来ちまった」


 今日、店に来てくれたのは、最初に「恩を返す」と言ってくれた男性だ。彼はお風呂に入るための料金を支払いつつ、ニカッと笑った。


「今日は仕事仲間も連れてきたぞ」

「あら、ありがとう」

「すっかり風呂と嬢ちゃんの料理ナシじゃ生きていけない体になっちまったよー」

「じゃあ、これからも通い続けて、お店の売り上げに貢献してちょうだいね」

「あはははは。それはもちろんだ。これからも嬢ちゃんの店が続いて欲しいからな」


 そう言って、彼は仕事仲間の男性と共に男湯に入って行った。もう既に何度か店に来てくれてるので、慣れた様子だ。


「すみませーん。注文してもいいですかー?」

「はい。こちらに!」


 基本的にルークはホール、リーナは受付として動いてくれている。

 私は主にキッチンでご飯を作っているが、日によってはリーナと役割を交代することもあって、今日は受付をやっていた。


 受付をやっていると、店全体がよく見える。お客さんの様子を見ていると、彼らの髪がわずかに濡れているのが気になってしまって……。


 快適お風呂ライフに「足りない存在」に想いを馳せて、私はそっとため息をついた。






⭐︎⭐︎⭐︎






「あら、相変わらず貧相な店をやってるのね」


 夜。店仕舞いをするために、外の看板を取りに行くと、そんな声が聞こえてきた。


「あなた、恥ずかしくないの? 婚約破棄されて、こんな風に惨めに店を経営していて」


 そう言いながら近づいてくる少女は、前にも店の外で悪口を言ってきたことのある人だった。

 最近、外で作業をしていると、彼女から絡まれることが増えた。どうやら、急に注目を浴び始めた私のことが気に入らないみたいなのだ。


 ずっと「婚約破棄された悪女」「変な店をやっている」などと言われてきた私だけど、それらの誤解が解け始めている今、「婚約破棄されて可哀想な女」というベクトルで悪口を言われている。


「私にはね、将来の相手がいるの。可哀想なあなたと違ってね」


 うわぁ、女子からのマウントだぁ。めっちゃ疲れるやつだ。お風呂入りたいなぁ。


「私は、伯爵家の当主様からこの街の統治を任されている人間の娘なの。だから、当然、私のお相手は高貴な方なのよ」


 今日も精一杯働いて疲れたし、早くお風呂入りたいな。何風呂にしようかしら。


「私のお相手は、ユーリ・ウィギンス様。伯爵家当主の息子で、騎士団の団長を務めるお方よ! すごいでしょう⁈」

「……」


 ……ユーリ・ウィギンスと言う名前は社交界で度々耳にしていた。


 伯爵家の息子でありながら、社交界にはほとんど顔を出さず、王家主催のパーティーにも来ないことで有名なのだ。

 しかし、それらのことを許されているのは、ユードレイス領の魔物を退治する騎士団長という役目を果たしているかららしい。


 確か、まだ婚約者はいないと聞いていたけど、彼女の言っていることは果たして本当なのかしら?


 私が黙っていると、一人の男性がやって来て、彼女の腕を掴んだ。


「ほら、お嬢様。こんなマウントして恥ずかしいですよ。早く帰りましょう」

「ちょ、何よ!」

「そんなにカフェが気になるなら、素直に客として入ればいいのに」

「何を言ってるの⁈ 私はそんなつもりじゃ……っ」

「すみません〜。お嬢様、回収していきます〜」


 彼女の「ちょっとー!」という叫び声を無視して、男性は彼女を引っ張って行った。


 嵐のような騒がしさが過ぎ去り、私は看板を持って店の中に戻った。


 店の中に入ると、ルークが店内を掃除していた。

 

「リディア様、おかえりなさい。俺が持ちますよ」


 彼の顔を見て、私はポツリと呟く。


「私、悩んでるのよね」

「もしかして、またあの女の人から何か言われたんですか?」


 私の言葉に、ルークが顔を顰めた。


「最近、よく来ますよね? だから、外の片付けは俺がやるって……」

「髪を乾かす道具がないから、困ってるのよね」

「あっ、悩みのベクトルが全然違った」


 私の言葉にルークが首を傾げる。


「髪を乾かすって……タオルじゃダメなんですか?」




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いつもお読み下さり、ありがとうございます!

本日から2章開始です。2章は2日に1回更新にさせていただきたいと思います。

引き続き楽しんでいただけるよう更新していきますので、よろしくお願いします♪

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