第12話 「風呂カフェ・ほっと」へようこそ!②




「みなさん、飲み物のサービスよ。何を飲みたい?」


 お風呂上がりでテーブルにくつろいでいるお客さんにメニュー表を渡す。

 彼らはフルーツジュースや紅茶などを頼んでいく。


 すると、お客さんのうちの1人が、私に聞いてきた。


「嬢ちゃんのオススメは何なんだ?」

「コーヒー牛乳とかフルーツ牛乳よ。お風呂上がりにはぴったりなの」

「こーひーぎゅうにゅう? ふるーつぎゅうにゅう?」

「牛乳にコーヒーとかフルーツを混ぜたものよ」

「へぇー」


 私の言葉を聞いて、何人かがコーヒー牛乳とフルーツ牛乳を選んでくれた。

 牛乳にコーヒーやフルーツを混ぜたことがないらしく、最初は恐る恐る飲んでいた。しかし。


「牛乳の独特の甘さがマイルドになってるな!」

「甘さと苦さがちょうどいい〜」

「初めて飲んだけど、美味しいわ」


 彼らはすぐにその美味しさに気付いて、グビグビと飲み干してしまった。


 お風呂上がりには、やっぱり冷たいコーヒー牛乳やフルーツ牛乳が一番よね。異論は認める。



 私は彼らが座っているテーブルの上に、我がカフェが誇る定番の料理を次々と置いていく。


 すると、テーブルでくつろいでいた彼らは慌て始めた。


「ちょっと待ってくれ。お金なんてほとんど持ってきてないから、そんなに払えないぞ……?」

「今回は払わなくて大丈夫よ。こっちのお願いで来てもらってるんだから」

「ほ、本当にいいのか?」


 その言葉に、私は頷く。


 こっちが提案したことで来てもらっただけだし、スライム討伐では彼らに助けてもらった部分も大きいから、そのお礼の意味も込めている。お店としてお金に困ってるわけでもないし、元々、料金を支払わせるつもりはなかった。

 何より、これでお風呂の良さが少しでも分かってもらえたら嬉しいから。


 今回、食事として提供したのは、カフェのメインメニューたちだ。


 まずはシチュー。ユードレイス領の広大な土地で飼育された牛の新鮮な乳を使用したルーには、ジャガイモやニンジン、鶏肉などが入っており、具沢山な一品となっている。


 次にピザ。我がカフェの「照りマヨピザ」は、ユードレイス産の鶏肉を照り焼きにして、前世の記憶を元に自作したマヨネーズをかけた濃厚な一品となっている。


 最後にグラタン。マカロニと鶏肉、ユードレイス領名産のチーズをたっぷり使用した、熱々のグラタンだ。


 今回は人数が多いので、これらをシェアして食べれるように、皆の前に小皿を置いて、各自が小皿で食べる分を取ってもらうことにした。


 美味しそうな匂いを放つ料理を目の前にして、皆が歓声を上げる。


「すごいな。ユードレイスの名産品を沢山使ってくれてるんだな」

「ええ、せっかく美味しい食材があるんだもの! 使わなきゃ損でしょう」

「それは誇らしいな!」


 彼らは思い思いに料理を取って、食べ始めた。


「シチューが冷えた体にあったまるな。寒い日にはちょうどいい」

「グラタンも熱々で美味いぞ」

「チーズの芳しい匂いがたまらないわぁ」

「んー、濃厚なピザね! ……ソースには何を使ってるのかしら?」

「マヨネーズよ。手作りなの」

「まあー!」


 と、時々お客さんの言葉に答えながら、彼らの反応を見る。手応えは上々ね。


 引き続きお客さんのテーブルを回っていると……


「美味しいですよ、リディア様」

「ピザとか最高です。さすがリディア様ですね」

「って、リーナとルークも食べてるの⁉︎」


 リーナとルークの2人は、ちゃっかりテーブルに座って、ピザに舌鼓を打っていた。


「なんで、あんた達がお客さんに紛れて食べてるのよ!」

「いや、なんか誘われちゃったんですよ。兄ちゃん達も一緒に食べないかーって」

「誘いは断らない主義なので」


 と言いつつ、2人は食事を続けている。一応、2人もカフェの店員なんだけど! それは良くないんじゃないかしら⁈


 そんなことを思っていると、夫婦のお客さんから肩をつつかれた。


「嬢ちゃんも一緒に食べようぜ」

「せっかくなんだから、こっちに来なさいな」


 そう声をかけてくれるが、私は首を振った。


「私は店主だから、お客様をもてなさなきゃいけないのよ」


 私がそう言うと、旦那さんの方が私の言葉を笑い飛ばした。


「お金も取ってねぇのに、もてなしも何もねぇだろ! 一緒に危機を乗り越えた嬢ちゃんと食事をしたいんだって! みんなが!」


 彼の言葉を聞いて、食事をしていた皆が一斉に声をかけてきた。


「細かいこと気にしてないで、早く一緒に食べましょうよ!」

「ご馳走になってばかりじゃ、悪いからな!」

「一緒の方が美味しいに決まってるわよ!」

「早く早く!」


 最終的には手を引っ張られて、椅子に座らされてしまった。


「わ、分かったわよ! そんなに言うなら、食べるわ! あとで文句言わないでよね」

「おー、言わん言わん!」


 彼らに促されて、私も食べ物をお皿に取って、食べ始めた。


 ユードレイス領の食材を使った、熱々な料理たち。


 自分で作ったはずなのに、それらは、大勢で食べるとより美味しく感じて、すぐに食べ終えてしまった。


「あっという間に食い終わっちまったな〜」

「ちなみに、食後のデザートもあるわ」

「うわぁ、嬢ちゃん。それはダメだぁ、虜になっちまう」


 彼らに食後のデザートとしてアイスも提供したところ、すっかりカフェの食事の虜になってしまったようだった。




⭐︎⭐︎⭐︎




 すべての食事を終えて、彼らが帰る時間となった。


「風呂カフェ・ほっと。またのご利用お待ちしております」


 私が手を振ると、彼らは「また来るよー」「ご馳走様〜」「宣伝しとくからなー」と言って帰って行った。


 初めてのお客さん。お風呂と料理のおもてなし。それらに驚き、喜ぶ顔。


 私は言い知れぬ達成感に包まれていた。


 今日は、思わぬトラブルに見舞われて大変だったけど……、ようやく「風呂カフェ・ほっと」として出発できた気がする。


 今日の出来事が風呂カフェ繁盛への道に続いていくんじゃないかと、そんな予感がしていた。


 これからきっと上手くいく、と私は自分自身に言い聞かせた。



 急な来客に対応してくれたリーナとルークにはお礼を言わないとね。あとは、ここまで頑張った自分へのご褒美として……


「よし、お風呂に入ってこよう!」


 頑張った自分を、しっかりお風呂で労ってあげよう。

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