第11話 「風呂カフェ・ほっと」へようこそ!①
「えっ、スライムに襲われたんですか⁈」
店に戻ると、ルークがすぐに出迎えてくれた。私が街で起きたことを話したら、彼の顔がサッと青ざめた。
「そんな、怪我とかはありませんか?」
「大丈夫よ」
「何かショックな出来事は?」
「大丈夫よ」
「こんなことなら、俺が付いていればよかったのに」
「だから大丈夫だって」
普段は私に憎まれ口ばっかり叩くのに、こういう時だけ心配症になるのがルークだ。少し過剰なくらい。
小さい頃、私がお風呂に入りすぎてのぼせちゃった時なんて、大騒ぎで私の面倒を見てくれたことがあった。ルークと比べると、リーナの方がもっと冷静だったな。
私は彼を落ち着けるように、ぱんぱんと手を叩いた。
「それより、ルーク。お客様が来たから、男性陣を男湯の方に案内して欲しいの」
「は? お客様?」
「ええ。スライムを一緒に天然塩で倒したら、少し仲良くなれたのよ。せっかくだし、お風呂に入ってもらおうと思って」
「……………………なんで?」
ルークはしばらく考え込んだ後、疑問を口にした。
「いや、意味が分からないですよ。スライムを? 塩で倒した⁇ 一緒に倒した人と仲良くなって、お風呂に入ることになった? は?」
混乱しっぱなしのルークの肩をリーナがとんとんと叩く。
「ルーク」
「何?」
「すべて受け入れろ」
「なんでだよ」
2人の会話を尻目に、店の外に待機してもらっていたお客さん達を招き入れる。
「ここが嬢ちゃんの“ふろかふぇ”というところなのか?」
「“ふろ”なんて意味分からないが、なんか立派な店だなぁ」
「へぇー、すごい綺麗なのね」
「もっと怪しいところかと思っていたよね」
店に来てくれたのは、大体10人近く。女性と男性の比率は半々くらいで、スライム倒しに協力してくれたほとんどの人が店に訪れてくれた。
「しかも沢山来るじゃん……!」
ルークが驚いて、リーナとコソコソ話している。
「リーナ、どういうことなんだよ。こんな急にお客さんが来るなんて」
「私だって、なんでこうなったのか分かってないけど、ただ受け入れるしかないでしょ。初めてのお客様が来てくれて、リディア様が喜んでる。これ以上ないことなんじゃない?」
「……っ、そうだな」
ルークが「よし」と気合を入れて、手を上げた。
「それじゃあ、男性はこちらに来て下さい。案内します!」
「女性はこちらに。私が案内します」
「あ、ちょっと待ってちょうだい」
私が声をかけると、皆が一斉にこちらを振り向いた。
「せっかくだから、バスソルトを入れるわ」
スライムを倒したお礼にと、近くの店の人から新しい天然塩をもらえたのだ。せっかくお客さんも来てくれたので、それを使おう。
「ちょっと待っててね」
私は早速、材料を取り出した。植物油を容器に入れて、アロマオイルを垂らす。そこに天然塩を混ぜていく。
本当は、半日くらい寝かせた方がいいんだけど、今回は仕方ない。
風呂場に行って、『いでよ、火の力で温まった水』とゆるーい文言を唱えると、すぐに浴槽にぬるま湯のお湯が現れた。
自作したバスソルトを入れて、お湯をかき混ぜる。バスソルトが溶けるのを待っていると、後ろから声がかかった。
「やだ。塩を入れてるわ。その水に触ったら、スライムみたいに私まで縮んだりしないわよね?」
お客さんの1人が「何をやってるのか」と、風呂場まで来てしまったみたいだ。
私はにっこり笑って答えた。
「逆ですよ。ここに入れば、体内の不純物がデトックスされるので、美容効果があるんです」
「まあー!」
彼女は驚いて、すぐに元の場所に戻って行った。そして。
「これから入る場所には、美容効果があるんですってー!」
「え、そうなの?」
「ここって綺麗になるための場所だったの?」
「あら、やだ。ときめいちゃう」
といった女性陣の声がお風呂場の外から聞こえてきた。さらに男性陣も、
「美容だぁ? 俺達は、別に?」
「興味ないけど?」
「肌が綺麗になるに越したことはないから、受け入れてやってもいいぜ?」
と謎のツンデレを発動させていた……。
そんな声たちを聞きながら、私はひたすらお風呂を混ぜ続ける。
そして、バスソルトが溶けきったのを見届けてから、お客さんのお風呂への案内をリーナとルークに頼んだ。
みんなのお風呂に対する反応は見たいけど……、私は「お風呂カフェ」の店主として、食事の準備をしなきゃね。
⭐︎⭐︎⭐︎
しばらくしてから、お客さんたちが浴場から出てきた。
「癒されたわ……」
「気持ちよかった……」
「こんな素晴らしいものがあるなんて……」
「肩こりが解消された……」
一同、放心状態だ。あまりのお風呂の気持ちよさに、ふにゃふにゃになってしまっている。
拭き取り切れなかったのか、彼らの何人かは髪の毛から水が滴っているが。
「あら……。あんた、花の香りがするじゃない」
「お前も、なんか綺麗になってないか?」
と、熟年夫婦のお二人が顔を赤らめているのも微笑ましい。
「みなさん、おかえりなさい。お風呂後の食事を用意しておいたから、ぜひ食べてちょうだい」
「食事?」
「えぇ」
今度は「風呂カフェ」の「カフェ」の方の出番だ。
お風呂と食事の組み合わせ。これでお客さんを虜にするぞ……!
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