第4話 王家から慰謝料をもぎ取れ
果たして、手紙の内容は国王からの呼び出しだった。内容を要約すると「婚約破棄について話し合いたいから、なるべく早く王城に来て」とのことだった。
国王からの呼び出しを無視するわけにはいかないので、日を改めて王城へと向かうことにする。
屋敷を出る時に「それでは、開業の資金のために、王家から慰謝料もぎ取って来まーす!」と言ったら、父からは「頼むから、不敬罪にならないようにな……」と頭を抱えていた。そんな王族相手に喧嘩ふっかけたりなんてしないのに。
王城に着くと、すぐに貴賓室に連れて行かれた。
そこには既に国王と王妃が座っていた。ちなみに、セドリック様はいない。
私が部屋に入るなり、彼らはいきなり頭を下た。
「婚約破棄をなかったことにして欲しい」
何を言うのかと思えば、国王はそんなことをほざきやがった。私は彼らを冷たく見つめて、口を開いた。
「大衆の面前で婚約破棄をしたのですから、今更それをなかったことにするのは難しいかと思います」
「……」
「そもそも私は、セドリック様が言い出したことに従っただけですよ。罪を重ねた私とは婚約を続行したくないと、そう仰っていましたよね?」
私がそう言ってニコリと微笑む。すると、国王は机をバンッと叩いて、激昂した。
「それなら、あの時、そなたが無実を訴えればよかったじゃないか! 無実であることを証明すれば、婚約続行になったのだぞ!」
「‥‥‥」
スゥーッと私の中の何かが冷めていくのを感じた。
私の父も「無実を証明すればよかったのでは」と怒っていた。けれど、それは娘の私を思ってのことだ。
同じ理由で怒ってるのに、求めていることが違うから、国王のクズさがより際立ってしまう。
私は冷静さを装いながら、言葉を続けた。
「確かにあの時、私が無実を主張すれば、婚約は続行になったでしょう。けれど、あの場でセドリック様の言葉を否定していたら、どうなっていましたか?」
あの場で私の無実を証明することもできた。しかし、そうすれば、セドリック様の社交界での信用が失墜して、次期王としての発言権が低くなる。そして、それは王族内における争いのタネになってしまう可能性がある。
王族の言葉は、
まあ、これは建前の話で、私の本音としてはセドリック様と早々に婚約破棄をしたかったから、無実の証明をしなかっただけなんだけどね。
本音は巧妙に隠して、私は健気な女として言葉を重ねる。
「セドリック様の言葉を嘘とするくらいなら、私が罪をかぶります」
嘘だけど。
「私は彼の婚約者としてセドリック様を守りたかったのです」
めっちゃ嘘だけど。
「ご理解いただけましたか?」
しばしの沈黙。その後、今まで黙っていた王妃が口を開いた。
「立派な心がけじゃない。ねえ、あなた。今回のことはセドリックが悪いのですから、これ以上彼女を責めるのはやめましょう」
「しかし‥‥‥」
「それより、リディアさんはセドリックと婚約破棄をして、これからどうしていくつもりなのかしら? まさか出家するなんて言わないわよね?」
その瞬間、国王は眉を顰めた。
出家する。つまり、それは私は教会所属の人間になるということ。
教会と王家は別々の機関であり、権力は均衡している。2属性の魔法を使える私を教会に取られるのは、王家にとってかなりの痛手だろう。
「貴女さえよければ、私が新しい婚約者を紹介するわよ」
王妃がそんなことを言い始めたので、私は慌てて首を横に振った。
「いえ。私のような元婚約者が王都にいれば、社交界の権力争いに混乱をもたらすでしょう。ましてや、私が他の方と婚約などしたら、セドリック様達を脅かす存在になる可能性すらあります」
セドリック様の選んだ金髪碧眼美少女は、男爵令嬢である。セドリック様と彼女が結ばれれば、王家の権力を弱めようと動く
そして、そういった輩は、婚約破棄されて名誉を傷つけられた(ように見える)私を王家の対抗馬として担ぎ上げようとしてくるに違いない。
あー、考えただけで面倒くさくてお風呂入りたくなっちゃう。
「そういった混乱を避けるためにも、父は、罪を認めた私を追放するご決断をされました」
「ま、まあ」
「これからは慎ましく働いていこうと思います」
私の言葉に国王と王妃は絶句している。
まあ、貴族令嬢が家を出て働くことなんて、ほとんどないからね。ましてや私は公爵令嬢なんだから、前例は皆無だろう。
前世の記憶がある私としては、そんなに違和感を感じることではないんだけど。
私は殊勝な令嬢らしく胸に手を当てて、言葉を続けた。
「ただ新たな生活を始めるための資金がなく、困っております。大変心苦しいのですが、婚約破棄の慰謝料をお支払い願えますか?」
「そ、そんなのもちろんよっ」
王妃は涙ながらに頷く。
「セドリックのことを真剣に考えてくれた貴女を支援しないわけにはいかないわ!」
おっと。色々と勘違いされているようだけど、とりあえず慰謝料がいただけそうで安心した。
しかし、国王は渋い顔をしながら口を開いた。
「リディア嬢」
「はい」
「そなたの考えは分かった。慰謝料はいくらでも出したいと思う。その代わり、条件がある」
まさか、ここにきて条件を出されるとは。それは、一体なんなのか。
「条件とは、なんでしょうか?」
「それは――」
提示された国王からの条件は、意外なものだった。
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