第4話

 大草原に二人ぽつんと寝転がっていた。

 

 気絶したままのアイの頭に紋白蝶が止まった。このまま、こうしているのもよいかも知れない。俺が加わって5回目の対戦で、今回も引き分け。アイは右腕を失い、左足を切創した。

 

 ジャンプとループの組み合わせで元の姿に戻っている。いつまで体力と精神力が保つのか。毎回、腕や足が吹っ飛ぶのを見せられて、俺の精神が先に遣られてしまうかもしれない。

 

 暫くすると紋白蝶が飛び立ち、アイが目を覚ました。

 

「どのくらい眠っていた?」

 

 穏やかな表情のアイに「五分ぐらい」と答えた。


「そうか」と空を眺める。空は雲一つない快晴だった。地球上ではあり得ないと思う、緑青一色をしている。


「ループさせたから元に戻ったんだよね」

「そうだ。ただし、ループさせる前に私が死んでしまったら元に戻らないけれどね」

 ようやく質問に答えてくれた。5回目にして少しは信頼してくれるようになったのかもしれない。

「これを返しておく」とスプレー缶をウエストバッグに押し込んだ。


「アルマ家は、ジャンパーという別の世界に跳躍する力を持ち、他のジャンパーにはない世界を持続させる能力も代々持っている。それは、力を発揮できる遺伝子構造を持っているからだ。特殊なレトロウイルスによって脳の遺伝子構造を書き換えられている」


「血液に特種なウイルスがいるということだね」

 

 アイは頷いた。


「ウイルスは全てが人間にとって悪というわけではない。無害なウイルスもあるし、人間を進化させるウイルスもある」

 

 俺は「聞いたことがある」と返した。


「世界を持続させる能力は、裏返すと全ての世界を終焉させる力にもなる。リワールドは両親を殺してその力、ウイルスを手に入れた。リワールドの目的は、全ての世界を再構築すること、のようだ」


「なぜ、そんなことを」


「私にもその理由は知らない。ただ、世界を終わらせるプレッシャーのような感覚があった。力を発動させるためには、一日とちょいかかる」


「世界が終わる兆候があったからループさせた、ということなんだね」

 

「今日の君は弱くないね。冴えている」と笑顔を見せる。「リワールドが世界に終焉を発動させる前に、24時間前にループさせるといういたちごっこを延々と繰り返している。永遠にループさせるなんて不可能だ。私の力が持たない。ループさせて時間を戻しているとはいえ、ループさせるのに体力が消耗する。一晩寝たからといって完全には元に戻らない。疲労が溜まっている」

 

「両親が殺される前にループさせたらどうなんだい?」

 

「何度かやったが、上手くいかなかった。48時間前に戻って、48時間で体力を回復させるのは辛い。今は24時間前が精一杯なんだ」


「ほかのジャンパーに協力を仰げば?」


「それもトライした。24時間以内に仲間が見つかれば協力してもらっているが、上手くいかず、殺されてしまった」


「逆にリワールドって奴に再構築させてしまったらどうなるのかい?」

 

「わからない。リワールドが望む世界が何であるかわからないから。私も君も存在しないだろうね」

 

「リワールドは、世界を破滅させて再構築するということに失敗すると別の世界にジャンプする。私は、24時間前にループさせてリワールドを追ってジャンプする。リワールドを倒すために何千回と繰り返している。精根尽き果てる前に決着をつけたい」


「平行世界は無数にあり、ジャンパーの巻き添いを食って放浪者となった俺が元の世界に戻るのは難しいということだよね」と念を押すように尋ねた。

 

「リワールドを殺して危機がされば、私は力を解き放つので、元の世界に戻れるかも知れない」

 

「ということは、俺はアイに協力することが必然ということになる」


「だから、君が加わると、一対一が〇・五対一になる」

 

「スプレー缶でスプレーするアシスタントぐらいはできているだろ。一・一対一ぐらいの価値があると思わないのかい?」


 アイは空に顔を向けたままフッと笑った。

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