第6話 紅雨前線〈下〉



 花に降り注ぐ雨を見下ろしながら、七月を迎えた街を歩く。

 大通公園の西側には、六月中旬から秋口まで、様々な種類の薔薇の花が鑑賞できるガーデンが設けられている。

 傘をさした翠は花の中を踊るように抜けて、市街地の東西を長く貫く公園の東側へと急いでいた。

 北海道といえども、七月ともなれば湿度も気温も真夏に向けてぐんと高くなる。

 近年では、時には東京都内よりも札幌市街地の方が気温が高いなんてこともあるくらいだ。

 幸いにして、今日は雨ということもあり、気温は平年並み。湿度だけが高くて息苦しさを覚えるが、我慢できないほどではなかった。

 人通りが増えたあたりで南側の区画へ曲がり、オフィスビル群を抜け、適当な出口から地下街へと降りる。

 札幌市街地には地下歩行空間や地下街が張り巡らされており、三路線ある地下鉄にそれぞれアクセスしやすいように繋がっている。

 その中の一つである地下街ポールタウンにつながる通路を抜け、待ち合わせ場所としてメジャーな複合型商業施設の地下二階出入り口前へ到着する。

 落ち着いた雰囲気のエントランス付近に視線を巡らせても、春の姿はない。

 どうやらまたしても翠の方が早かったようだ。

 携帯端末を確かめると十五時二十分で、待ち合わせの時間である三十分までにはまだ時間があった。

〈今つきました。奥の黒い柱の前で待っています〉

 翠は短いメッセージを送ると、そのまま一番大きな柱の前に立った。

 今日は環波春からの誘いに応じ、こうして市街地まで出かけてきたのだった。

〈週末、雨ならどこかに出かけませんか〉

 そのような文面で、翠を外に誘う内容のメッセージが日曜の夜に送られてきた。

〈雨なら〉というなんとも不確定な条件つきの誘いであったが、金曜日の深夜から雨が降り出し、こうして土曜日に無事待ち合わせが成立した次第であった。

 今日の翠は制服姿ではない。

 黒い冬用のセーラー服姿で会って以来、春とはいつも制服姿の時に会っていたが、もう学校は夏服に切り替わっているし、今日は休みなのでわざわざ制服を着て出かけてくるのも妙な話だ。

 だから、代わりに黒いワンピースを着て、夏用のカーディガンを羽織っている。いつもよりも丈の短いスカートが落ち着かないが、いつも通りの「黒」を選んだこの格好が一番しっくりくる気がした。

 わざわざヒールのある靴と合わせて、メイクも少しだけ大人っぽさを意識したつもりだった。

 背伸びなどする必要がない程度には垢抜けた美少女である翠だが、春の横に並ぶことを考えるとどうしても臆してしまい、身だしなみを気にしてしまう。

 ――なんか間抜けだな、おれ。

 そんな自分をどこか恥ずかしく思い、翠は一人焦れていた。

 なにより、先日の映画館の後の出来事がある。

 自分でも信じられないくらい馬鹿正直に気持ちを打ち明けてしまった。

『おれは近いうちに死ぬだけの女の子です。でも……だから、それまでの間、つきあってくれませんか? おれのこと、本当はどう思ってたって構わないから』

 今思い出すだけで気が変になりそうなくらいだ。

 恥ずかしい。もう逃げ出したくなるくらいに。ほんとうに、恥ずかしすぎる。

 しかし、春はあの時逃げることもせず翠に向き合ってくれた。すぐに返事をするから、少し考えさせてほしい。そう言って、真剣に取り合ってくれたのだ。

 もしかすると、今日その返事を翠に告げるつもりかもしれない。

 状況からすると、おそらくそうだろう。わざわざ春の方から翠を呼び立てたのだ。それしかない。

 ――もしかしたら、今日でお別れ、かもしれないな。

 翠はぼんやりとそんなことを考えていた。

 春は「葬式ゲーム」などに興じる変人だし、年上で人たらしで、とんでもなく綺麗な顔をしているのに、自分が吸血鬼だと打ち明けてくる始末で、今でも思考が追いつかないくらいの謎に満ちた人物だ。

 本当に吸血鬼だとして、自分はどうしたらいいのだ?

 十字架や木の杭、聖水やにんにくでも用意する?

 ……どれも馬鹿げたことだ。春がなんだって翠には関係ない。どんな事情を抱えていようと春は春だ。

 もう治らない病を抱えた自分を春が受け止めてくれたように、自分も春のことを、春が出す答えを受け止めよう。

 そう思って顔を上げた時だった。

「ごめん。すこし待たせたね」

 人混みを縫うようにしてやってきた春が、翠の前にいた。

 相変わらず冷たげで恐ろしく綺麗な顔をしている。上背があり、前に立たれると少し怖いくらいだ。今日はゆったりとしたダークカラーのセットアップに、緩く結えた髪を垂らしている。

 春の姿は目立つ。周囲の女性の視線が瞬間的に集中したような気がして、翠は気後れしたようになった。

「どうしたの。体調は平気ですか?」

「あっ……うん、全然大丈夫。今日は元気、です」

「そうですか。よかった」

 そういって薄く微笑む春は、しかしどこか覇気がないように見えた。

 目元が少しだけ疲れて見えるのだ。

「春さんこそ、大丈夫ですか。少し疲れていたりしません? 寝不足、とか」

「昼間だから。雨でもやっぱり少し、ね」

 そう言って翠を安心させるように苦笑するが、それとはまた違う理由がある気がして、翠はほんの少しだけ春の事情が気掛かりになった。

 だが、理由を追求することはしなかった。

「それじゃあ、行きましょうか。チケットはもう買ってあります。翠さんが嫌でなければですけど」

「チケット? どこへ行くんですか?」

「この上にある水族館です。小さいペンギンがそこそこいるみたいで、展示を見ながらコーヒーを飲んでもいいらしいですよ。どうですか?」

「……行きたい!」

 春の提案に翠は目を輝かせた。

「オープンしてちょっと経つけど、ここの水族館は初めて。だから誘ってくれて嬉しいです」

「僕も上の階へ行くのは初めてです。お店のお客さんから小規模だけど雰囲気は味わえるよっておすすめされて。楽しめるといいんですが」

 春はそう言って遠慮がちに微笑んでみせる。翠はそんな春の様子がいっそう愛しく思えた。

「楽しいですよ。春さんが一緒だから」

「……君はまたそういう……無自覚な殺し文句は禁止です」

「へ? なにが?」

「……なんでもない。行きましょう」

 翠は春の言葉に頷き、二人は商業ビルの四階にある水族館のエントランスへと向かうため、エスカレーターに乗った。

「春さんは……その、吸血鬼だって聞きましたが」

「はい」

「雨の日は、動けるというか……外に出たりして大丈夫なものなんですか?」

「そうですね。薄曇り程度だと無理だけど、今日くらいしっかり雨が降っていればおおむね平気、かな。それでも夜間よりは行動が鈍りますが。強い光に気をつけてさえいれば大丈夫です」

「……そういうものなんですか」

「イメージと違いますか?」

「えっ、いえ、そういうことじゃなくて……もし、もしも無理して出てきたんだったら申し訳ないなって」

「無理じゃないですよ。僕が会いたかったからこうして約束してもらったんです」

「……そう。そうですか」

 臆面もなく恥ずかしいことを言ってのけるのは春も一緒ではないかと内心で考えながら、翠はかろうじて頷いてみせる。

「遠慮しなくていい。僕が前に君の病気について聞いたみたいに、知りたいことがあったらいってください。もちろん、急に噛みついたりなんてしませんよ」

「それは大丈夫だと思っています。……じゃあ、春さんについてはおいおい聞いていきます。まだ、知らないこといっぱいだし」

「そうしてください。あ、四階ですよ。来て」

 春はそう言うなり、あっさりと翠の手をとってチケットカウンターへと歩き出す。

 あまりにも自然で、さりげなくて。でも思っていたよりも強い力で。

 翠は何も言わずにそれに従ってついていく。

 春はウェブ予約をしていたらしく、チケットを発券すると、入り口の係員へ二人分を提示する。

「ペンギン二名お願いします」

「はい、かしこま――っふぐっ」

 なんとか聞き流そうとしたのか、それともその瞬間に気づいてしまったのか、チケット係の女性スタッフがたまらず吹き出す。翠も同じ瞬間に笑い出した。

 少しの間をおいて、春が慌てることなく訂正した。

「あ、まちがえました。人間のおとな二名です。お願いします」

 いつも通りの極上の笑みを浮かべ、爽やかに挨拶しているが、翠もスタッフもそれどころではない。

「ど、どうして……はい、いってらっしゃいませ」

 動揺を隠せないのはスタッフの方で、しどろもどろになりながらも半券を切ってくれている。

 やっと気がついたのか、春は静かに付け足す。

「すみません。ペンギンが好きで、つい思いを馳せていたら自然とペンギン二名って言ってましたね。ペンギンの水槽に押し入ったりしませんのでどうか安心してください」

「へぶっ……」

 ダメ押しだった。

 翠とスタッフの腹筋を崩壊させ、春は無事に館内に入場を果たした。

「ねえ、急にバグらないで! だめだ、笑い死ぬ」

 照明が落とされた館内で極力笑い声を上げないように堪えながら、翠は春の脇をつついた。

「……そんなにおかしいですか?」

「春さんってちょっと天然入ってます? やばいお腹痛い。おしっこ漏れちゃう」

「女の子が漏れちゃうとか言っちゃだめですよ」

「ペンギンに言われたくないですよ」

 春に対する無意識なフィルターのようなものが破壊され、翠は少し気楽になることができた。

 冗談も言うし、当たり前に失敗もする。

 この人も自分と同じなんだ、と。

 常設展示の「水の生物ラボ」を抜けて、上階へと昇る。

 展示物を紹介するパネルを眺め、先へ進むと一つ目の大水槽が見えた。

 青と緑色を基調とした水槽には様々な魚たちと水辺の生き物が展示されていた。

 なるべく自然に近い状態にした水槽内の環境下で飼育された生き物がメインとなる展示だった。

「……きれい」

 闇に浮かび上がる光景に、翠は思わず声を上げて見入っていた。

 海藻の間を思い思いに泳ぐ魚たち。ゆらゆらと揺れる水に反射する光までもが美しく映えた。

 隣に佇む春も大水槽の中の生き物たちを熱心に見つめている。

 しばらく無言で観察した後、次のコーナーに足を踏み入れる。

 博物館のような標本や模型展示に小水槽、またパネルなどがあり、歩きながら水生生物の生態や彼らを取り巻く自然環境について学習することができるスペースだった。

「……春さんはいつから札幌にいるんですか?」

 シーラカンスの模型を眺めながら、翠はふと湧いた疑問を春に投げかけた。

「半年とすこし。まだそんなにこの街に来てから経っていないんです」

「そうなんですか」

「……前はもっと大きな本州の都市にいたんですが、やっぱり僕らにとっては北のほう……日照時間が短くて、人も少ない街の方が暮らしやすかった。だからここに来ました」

「そうだったんですか。東京とか、そっちのほうですか」

 春は曖昧に微笑むのみだ。

「本当はもう少し北の方に渡るつもりだったんですけどね。……少し、やっておかなくてはいけないことができて。それで札幌に」

 骨格標本の横を通りすぎ、小さな水槽を泳ぐ魚を見ながら、春は独白するようにそう打ち明けてくれた。

「やっておかなくちゃならないこと、ですか」

「そうです。僕にしかできない。落とし前、みたいなものかな」

「……それは危ないこととか、ですか?」

「……どうだろうね」

 春の目元にさした影が少し暗さを増して見えたような気がして、翠は口を噤んだ。

 やはり、春には人には話せない事情があるのだ。

「葬式ゲームなんてやっているのもそのため?」

「初めはそうだった」

 壁に嵌め込まれた化石をなぞるように指で触れながら春がいう。

「僕は痕跡を探すつもりで、死人の集まる場所を彷徨きまわっていたけれど、いつの間にか手段と目的が入れ替わっていた。死者を悼むひとたちの中に混ざって、故人がどんな人間だったかなんとなく思いを馳せることそれ自体が楽しくなっちゃったんです。最初に会った時、変人だと思ったでしょう」

「……思った」

「自分でもわかっているつもりです。でも、自分には死んだひとを悼む資格がないから、せめて死者のために涙を流し、時に思い出話をして微笑みあう彼らをみて心をやわらげていた」

「少しだけど、わかるよ」

「本当に?」

「おれも、おれがいつ死んでもいいように、そのために他の子たちのセレモニーに出ていたから。それは死ぬための練習みたいなものだった、だから、春さんの言いたいことも少しだけわかるんだ」

「……翠さんは、やっぱり優しいですね」

 春が寂しそうに微笑むのをみて、翠には何も言うことができなかった。

 翠にとっての〈葬式ゲーム〉は自分の死後をシュミレートするためのものだった。

 残された姉はどうなるのか、自分の死後も世界は続いていくのか、自分の存在は果たしていつまで人々の心に残るのだろうか。同じ年頃の子どもが死ぬたびにそんな想像を巡らせていた。

 自分はなんて残酷なことをしているのだろうか。

 それでも、どうしてもやめることなんてできなかったのだ。

「優しくなんかないですよ、おれ」

 代わりに握られていたままの手を握り返し、引っ張っていく。

「ほら、上の階はいよいよペンギン水槽ですよ! 観たいんでしょう。行こう!」

 フロアの中に設けられた飲食用の椅子やコワーキングスペースを抜けて、翠たちは上階へ続くエスカレーターに乗った。

 エスカレーターを降りると、すぐ左手に水色のプールが見えてくる。

 ペンギン用のプールコーナーだ。

「わ、いた! ペンギン! ちっさ」

「あれはフェアリーペンギンですね。あっちのはキタイワトビペンギン。今ちょうど飼育員さんから餌をもらっているようです。いい時間帯に来ましたね」

「へえ……なんかかわいいですね」

「そりゃ、ペンギンはかわいいに決まっているじゃないですか」

 春は携帯端末を出して熱心に写真まで撮っている始末だ。

「いや、ペンギンもそうだけど、おれは春さんがちょっとかわいいなと思って。そんなにきれいな顔して可愛いものが好きとか、ギャップ萌え狙いかと……」

「はあ!? 僕なんかよりもペンギンたちを愛でてくださいよ」

 揶揄ったつもりが、恥ずかしがるでもなく真剣にペンギンを愛でるように推してくる言動がまたおかしくて、翠はつい吹き出していた。

「また、笑ってるし……」

「だって、あんまり真剣だから。つい」

 遂に恥ずかしくなったのか、春がすこし居心地が悪そうな表情になる。

 その春と近くに泳いできたペンギンの姿を、翠も携帯端末で写真に収めた。

「ほら、春さんも笑ってくださいよ」

 春は背後のペンギンに近づくと、無言でピースサインをして見せる。

 その姿も翠はしっかり写真に収めておいた。

「うん、かわいい」

「もう勝手にしてくださいな」

 観念した様子の春がひとりごちるが、気にしないことにする。

「夜になると照明が落ちて、夜間展示の状態になって、動物が寝ている姿とかも観られるんだって」

 紹介パネルを読んでみると、夜間営業時間に合わせて展示内容が昼夜で異なることがわかる。

 今は夕方で、まだ昼間の展示状態であるようだった。

「今度は夜に来るのもいいな」

 春はやはりペンギンが好きなのか、次回の来館について思案しているようだった。夜であれば春も出歩きやすいだろう。

 その時、自分はまた一緒にいられるだろうか。

 頭をよぎった思いを追い払い、翠は目の前の光景に集中するよう努めた。

「あっちにはクラゲ水槽がありますね」

 一通りペンギンを堪能したらしい春が翠を誘い、また別の区画へと足を踏み入れる。

 そこは一番暗く照明が抑えられた場所であり、翠達の眼前には無数のクラゲがゆったりと揺蕩う青紫色の水槽が浮かび上がっていた。

「……いいな。クラゲ。おれは次生まれ変わるとしたら、人間よりもこういうもののほうがいい。きっと気楽な筈だ」

「クラゲはプランクトンの仲間ですから。自分で泳ぐ能力に乏しくて、海流に身を任せて浮遊しながら生活をしています。たしかに言われてみれば気楽なのかもしれないな」

 翠の横で春がそう呟く。

「詳しいですね。水族館が好き?」

「本で読んだことがあるだけ。僕は映画館の方が好きです」

「おれはどちらかというと……うー、両方?」

「欲張りですね」

「むう。さっきはペンギン持って帰りたい、小さいやつなら一匹くらいばれないかもって言ってたくせにぃ」

「それはそれ、ですよ」

 二人はそのまましばらく暗がりの中、水槽を眺めていた。



 やがて展示を一通り見終えると、二人は館内に併設されたベーカリーでクロワッサンとコーヒーを頼み、ゆっくりとそれらを平らげた。

「この後はどうします」

「また映画館にでも行きますか?」

 翠の提案に、春は少し考えるような素振りを見せたあと、ふと思いついたように言う。

「よければ、僕の家に来ませんか?」

「え? 春さんの、家?」

「映画なら好きなものをネトフリとかアマプラで選べますし。DVDも少しはあるけど。どうですか、映画三昧」

 春の自宅。

 思いも寄らない提案をされ、翠は内心で動揺した。

 どうしよう。いきなり自宅にお邪魔するとか、いろいろ展開をすっ飛ばしている気がする。でも、春のことだ。なんてないのかもしれない。

 自分ばかりがありもしないことを妄想して恥ずかしくなっているだけなのかも。

 そうだとしたら実に馬鹿げているとは思わないか?

「いきなりご自宅にお邪魔してもいいもの?」

「ご存知の通り、僕はいきなり他人のお葬式にお邪魔しましたけどね」

「……そうだった。春さんの倫理観はぶっ壊れているんだった」

 わざと口に出して言ってみせれば、春はなんとも意地悪そうに微笑んでみせた。

 誘っているのか。だとしても、それがなんだ。

 翠は腹を決めた。

「行きます。観ましょう、映画をいっぱい」

「それじゃあ、移動しましょうか」

 地下鉄大通駅へと戻り、地下鉄を一駅分乗り継いで移動する。

 あとは徒歩で豊平川沿いに位置するという春の自宅アパートにたどり着くことができた。

「シャトー豊平弐番館……」

「そうです。一番館がどこにあるのかはわかりませんけど」

 とうとう家に着いてしまったことに気圧され、なんとなくアパート名を口に出してみると、春はそんな答えを返してくる。

「……ここが春さんの家」

「四階まで上がります。エレベーターを使った方がいいでしょう」

「……はい」

「うん、緊張していますね? うち、本当に何もないですから。お茶かコーヒーくらいしか出せませんし。だからそんなに固くならないで」

 そういうことじゃない。

 そう主張しようとしても口が上手く動かず、翠はもごもごとよくわからないことを呻くだけだった。

 やがて四階に辿り着き、廊下を歩く。

 春の部屋は角に位置しているようで、奥の扉の前まで辿り着いて立ち止まった。

「歩くの、疲れたでしょう。ここが僕の家です、どうぞ」

 そう言って春は扉の鍵を開け、翠を招き入れた。




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