第20話 海水浴

 三人は師匠にしごかれ、その間僕は自分磨きをした。

 三週間程頑張った後に、ご褒美だということで、海水浴へと来ている。


 なぜ海水浴なのか。

 エリスさんが海に行きたいとゴネたんだそうだ。


 オロチさんは「俺はいかねぇぞ?」というので、四人で砂浜のある海へと来ているというわけ。


 久しぶりに会ったので会話が盛り上がった。

 ほぼ師匠の愚痴だったけど。


「それにしても、体ひきしまったね?」


 バアルくんが下はハーフパンツ、上は裸なのだが、引き締まった体。そこにある傷の跡が歴戦の戦士を思わせる。


「うん。地獄だったねぇ。何度も死ぬかと思ったよ」


「でも、よく乗りきったね。師匠の修行は辛いから……」


「わかっててオレ達を預けたんだもんな?」


 そう言いながらギロリと睨んでくるバアルくん。


「う、うん。でもさ、強くなれたでしょ?」


「それは……強くなれたとは思うよ」


 バアルくんは手を閉じたり開いたりしながら自分の手の感触を確かめている。


 強さで言えば以前の倍位に強くなっているのではないだろうか。歩き方からも鍛錬の片鱗のようなものが見え隠れしている。


「お待たせー!」


 エリスさんの水着は耳と髪の毛と同じく白。たわわに実っている物は水着で隠れているが大きいのはわかる。そして、腰にはパレオが巻かれており、風でなびくと太ももがあらわになる。


 あまり見てはダメだと思いながらも自然に視線が言ってしまうのが男の性で。隣からもゴクリと生唾を飲む音が聞こえる。


「ウチ、水着はちょっと恥ずかしいなぁ」


 後から来たカーラもスタイルがよく黄色いビキニがよく似合っている。

 これは目立つぞ。

 ちなみに僕はいつもの服装のまま。


「僕ちょっと……」


「どこ行くのかなー?」


 腕を掴まれる。

 なんだか腕力が上がっているようだ。

 さすが、師匠の修行を乗り越えただけあるね。


 無理やり外せば外れるけど、やれば怒られるだろう。仕方がないので一緒に歩くことにした。


 周りからの視線が非常に気になる。持ってきていたパラソルを砂浜にさして座る。僕は見るだけというスタンスで来ている。


 隠しているものを全面に出すなんてそんな馬鹿なことはしない。


 それに、あの感じだとどうせ絡まれる。僕は知らないからねぇ。


 海に行ってキャッキャウフフして楽しんでいる三人を見て、楽しそうでいいねぇ。僕が目立たないからいい。


 風が気持ちよく、瞼が重くなってくる。


「キャァァァァァ!」


 急に悲鳴が聞こえた。

 バアルくんたちの方だ。

 砂がまっている。


 何かあったんだ。

 目を閉じていたからわからない。


「こっちはこっちで楽しみましょうよ!」


 背中に痛みが走る。

 斬られた?


 気配が察知できていなかった。完全に油断していた。背中を少し触ると血が出ている。


 やはり斬られたようだ。


「やっぱりあのお方の言う通りだったようだねぇ。これであんたを刻めるねぇ! ハッハッハァ!」


 振り返ると、以前襲ってきた黒装束の女だ。

 歪んだ笑みを浮かべている。


 手には緑がかった色味の剣を持っている。

 その剣こそが僕の体を傷つけた原因だろう。


「あのお方の言う通りだわ! これでなら斬れるわねぇ! うっふぅん!」


 あれは、ドラゴンスレイヤーと呼ばれる剣で鱗を切り裂くことが出来る魔法がかけられているのだ。だから、ドラゴンの討伐などに用いられる。


 あまり手に入らないし、作るのが大変なはずなんだけど……。


「はぁ。行くよ。竜斬丸」


 僕の左手に刀が出現する。

 得物には得物を。


「あぁ!? あんたが武器を使うなんて聞いてないわよ!」


「なんで自分だけだと思ったの? 考えが甘い……ね!」


 踏み込んで前へと肉薄しようとするが、砂浜で思ったように加速できない。すると、剣で対応されてしまった。


 こんな修行やった時もあったなぁ。忘れててダメだね。


「ホラホラどうしたんだい?」


 ドラゴンスレイヤーは通常より長めなので僕の射程外からブンブンと振り回している。なかなか近づけないでいると、後ろから物凄い轟音がした。


 振り返ると魔法を誰かが放ったようだ。バアルくん達の方にも一人いるみたい。二人で襲撃してきたんだ。


 僕はバアルくんたちを信じるのみだ。目の前の女を始末する。


 昔を思い出すんだ。砂浜は後ろに力を加えると逃げる。下へと力を行き渡らせ、エネルギーに変えるんだ。


「ほっ!」


 肉薄して首を狩る。

 寸前でスウェーして避けられた。

 だが、首には一筋の赤い線が現れる。


 皮一枚だったか。


「急に早くなったねぇ! でもね、斬れると分かればやりようはある!」


 女はそういうと肉薄してきた。

 上、下と斬りつけてくる。

 冷静に避ける。


 斬れるとわかっていれば避ければいいだけだ。

 ただそれだけ。

 そして、隙が出来るのを待つ。


「斬れなさいよぉ!」


 無理に踏み込んだところで体のバランスが崩れた。

 今だ。

 集中力をピークに持ってくる。


斬鱗きりん

 

 周囲が遅く感じる。

 踏み込むと瞬時に女の横に。

 抜刀して通り過ぎ、鞘へと刀を戻す。


「えっ? なに!? 何が起こっ……」


 砂浜に重いものが落ちた音が僕にだけ聞こえた。

 斬られたことに気が付かず、振り返ろうとして首が落ちたみたい。


 こっちは片付いた。


「あーぁ。しんじゃった。この剣は持ち帰らなきゃ」


 剣を回収しに来たこの男。

 気配を感じとれなかった。

 小柄で赤い髪の魔人族の男が剣を握ってしゃがんでいた。


「あっちの子達も中々やるしねぇ。一旦、引き抜きは休みかなぁ」


「お兄さん何者?」


「んふー。言えない。君も何者か気になるところだけど、ズラかろうかな。この死体は」


 ──ゴウッ

 と急に女の死体が燃え始めた。


「これでよし。じゃあね」


「ちょっ──」


 轟音が響き渡り砂が舞って視界を遮断する。

 砂が落ちる頃にはその男も死体もなくなっていた。


 バアルくん達は無事だろうか。

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