第19話 自分磨き

 師匠に皆を託した。お願いした手前。僕も自分磨きをしなければ。


 王都から外れた所にあるダンジョンも存在する山へと来ていた。

 この山でしばらくこもって自分を磨こうと思う。


 向かったのは禍々しい雰囲気の扉のあるところ。

 ここは何かというといまだ攻略されていない。

 未踏破A級ダンジョン。


 王都から割と近いのに未踏破なのにはわけがある。

 ここはA級になりたての者たちが攻略するために使われている練習用にはもってこいのA級ダンジョンなのだ。


「こい」


 左手には少し反りのある意匠が凝った刀。

 これは僕が父から譲り受けた、『竜斬丸りゅうきりまる』だ。

 その名の如く竜をも切る刀。


 ここのダンジョンを僕は刀のみで攻略しようと思う。

 自らの体のみで、魔力を運用せずに。

 所謂いわゆる、縛りプレイである。


「さぁいこう」


 重厚な扉を開け放ち。中へと歩を進めていく。このダンジョンは中は明るく、整備された壁と床と言った感じ。THEダンジョンといった雰囲気でゲームの中へと入った気分になるところだ。


 五感を研ぎ澄ませる。


 足を踏み抜いたところが下へと下がる。


「あっ。やべっ」


 咄嗟に後ろへと下がって構える。魔方陣が光、何かが召喚されてきた。


「わぁ。硬そう」


 佇んでいたのは全身鎧の魔物。リビングアーマーというやつか。


「ほっ!」


 一瞬で距離を詰めて首を刈り取る。

 なんか切った感触がない。


 やはりそのまま動いて襲い掛かってきた。

 どこかに核があり、首とかはなく浮いているようだ。

 魔法なら一発なんだが、さっそく縛りプレイを後悔しているところだった。


 核のある場所を感じろと師匠にこっぴどく言われたことがある。

 僕は魔力探知があまり得意ではない。

 だから、奇襲に弱いのだ。


「面倒だから切り刻もう」


 いったん離れたところへと距離をとり。

 抜刀の構えをする。


「よぉい……しょ!」


 一瞬でリビングアーマーの後ろへ。

 こちらを向こうとしたリビングアーマーは崩れ落ちる。

 みじん切りにされていた。


「んー。久々に振ったけどいい感じだね」


 そのまま奥へと歩みを進める。


 歩みを進める先からはなにやら騒がしい声が聞こえる。

 ──ギギィィィィ! ギギィィィ!


 曲がった先に何かいるようだ。

 頭を出すと真っ黒な体に角と尻尾を生やした悪魔がいた。


 悪魔は非常に巧妙かつしぶといことで有名でこの世界ではAランクに分類されている。

 魔人族とはまた別の存在なんだ。


 何か話しているようなので、角を曲がって一気に加速して肉薄する。


「ほいっ!」


 稲妻のように刀を走らせ、一体の悪魔は消えて行った。

 襲撃に気が付いたもう一体が闇の波動を放ってくる。

 それをのけ反って避けると同じように斬り付け始末した。


 攻略は順調に進んでいき、十層へとやってきた。

 ここは中ボスのいる所。

 扉を開けると悪魔の像が十体ほど並んでいる。


 ガーゴイルだ。

 僕が中へと入ると反応して動き出した。


 飛んでいるからやりにくい。

 攻めてくるタイミングに合わせて、カウンターで抜刀していく。


 一体、二体と減っていく中、焦ったのか、一気に全方向から攻めてきた。


「はっ!」


 上へと跳躍しながら上から迫っていた二体のガーゴイルをスライスする。

 他のガーゴイルは下で味方同士、衝突している。

 だが、怯むことなく上へと向かってきた。


 これだけまとまっていればやりやすい。

 下へ向けて八方向への斬撃を放ち、一気に始末した。


 石のずれる様な音が響き渡ると階段が現れた。

 階段を下り、暗闇へと体を落としていく。


 この階から薄暗くなり、周囲が見え辛くなった。

 これにより襲撃の警戒をしなければいけない。


 慎重に警戒しながら進む。


 ──ザシュッ


「くそっ!」


 反撃して倒したが、悪魔が潜んでいたようだ。

 痛くはなかったけど、悔しかった。


「むー。魔力探知苦手だからなぁ。なかなか背後が。はぁ。できるようにならないとなぁ」

 

 自分の苦手なところはやはりどうにかしないとこれからの戦いに支障が出るかもしれない。


 その辺の課題が見つかっただけでも良しとしよう。悪いように考えない。強くなるぞぉ。


 それからは魔力探知を意識しながら襲撃を回避し、仕留めていくことに成功していた。


 ついにきた二十層。ここがAランクダンジョン最後の部屋。


 扉を開けると首が三つの巨大な狼がいた。


 中へと入ったとたん。左の頭が火の玉を放ってきた。


 その迫りくる炎に対して刀を構える。やってみたかったんだよねぇ。魔法を斬るの。


「そりゃ!」


 抜刀。

 炎を切り裂いた。

 だが、服は大いに燃えた。


「あっち!」


 顔と体の深緑に輝く鱗が露わになった。

 服は修復していくが、熱かった。

 そんなに簡単なことではないんだな。


 狼の右横へと回り込むように迂回する。

 首は追いかけてきて右の頭が氷の球を放ってきた。

 これは斬れる。


 切り裂くとそのまま突っ込んでいき跳躍。


「三つ一気に斬ればいけるっしょ! うりぁぁ!」


 刀はスルリと首へと吸い込まれていき、三つの首を切り落とした。


「ふぅぅ。終わりかな」


 ──ゴウゥッ!

「あぶねっ!」


 咄嗟にバックステップで避ける。

 首がひとりでに動きだし、火球を放ってきた。

 もしかして、バラバラにコアがあるの?


 気持ち悪いなぁと思いつつ、一つずつ始末していった。

 倒した後はドロップの宝箱を開く。

 中身は部分欠損も治せる全快回復薬だった。


 これは何気に良いよね。

 よし、周回しよう。


 こうして僕は、体術のみ、魔法のみなど縛りプレイで自分磨きをしていくのだった。

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