第18話 僕の師匠

 襲撃があってからというものダンジョン探索の授業は一旦停止された。


 そして、学院は緊急の長期休暇としたのだ。


 戸惑いながらも休みを満喫しようとする者と、何者かの襲撃に抗おうとする者に別れた。


 リオンとバアル、そしてエリスとカーラ。この四人はとある喫茶店に集まっていた。重苦しい雰囲気で。


「なんか、オレは助かって良かったんだろうか。助かったことでまたみんなが危険な目にあうんじゃないかと思うと……」


「残念だけど、その可能性はあるね」


 たしかにその可能性は一定の確率である。また狙いに来るんじゃないか。そして、狙いに来るならいつ来るか。


 僕としては休みの間にもう一回くらい接触してくる気がしている。恐らく、学院が完全に対策する前に一度仕掛けてくるんじゃないだろうか。


 そうなってくると、僕がこの前撃退しちゃってるからあっちも対策を来てくるはず。その時に僕一人で皆を守れるかはわからない。というか自信がないだけなんだけどね。


「今回はリオンくんのおかげで助かった。まずは、有難う」


「ううん。友達が連れて行かれそうになったら助けるよぉ。いくら目立ちたくなくてもね」


 正直な気持ちを打ち明けた。

 目立ちたくない。でも、僕は友達を見捨てることは絶対にしない。

 もちろんデームくんのことも諦めたわけではない。


 仕送りが送れなくなるだろう。デームくんの家族は大丈夫だろうか。

 デームくんの安否と、それが気になっている。


「ねぇ。私達に何かできないかな?」


「ウチ……何もできなかった」


 みんな襲撃を受けた時に自分の無力さに気が付いたのかもしれない。

 僕は前世の時に自分の無力さを嘆いたものだ。

 何を言われても言われるばかり。

 そのままこの世界へと来てしまった。


 だけど、この世界で両親はとても温かく、愛情を持って育ててくれた。

 丁寧に僕を強くなるように導いてくれた。

 天才と言われているが、僕は父と母の教え方がよかったのだと思っている。


 体術、剣術、刀術は父に、魔法は母から教えてもらった。

 そして、そのすべてを実践で使えるように昇華させてくれた師匠が存在する。実はこの王都にいるんだ。まだあっていなかったが、これはいい機会だから皆と一緒にあってお願いしよう。


「自分で身を守るのが一番いいと思うんだ。僕も四六時中一緒にいれるわけではないから」


「うん。そうだよね。でも、私たちは……」


「弱いよね。でも、でしょ?」


「これから強くなると良い。お願いしようと思っている人がいるんだ」


 僕のその答えに三人は目を丸くした。

 初耳だと言いたげな顔。

 そうだよ。僕言ってないもの。


「今から、しばらくの期間予定ある?」


 三人は一斉に首を横に振った。

 その後、カフェを出る。

 行先は、王都のはずれにあるボロアパートだ。


 僕が無言で歩いていくと三人は神妙な面持ちで僕の後をついてくる。これからお願いするあの人なら強くしてくれる。


 朽ち果てそうな階段を上り、上った先の一つ隣の部屋をノックする。


「ちょっとお願いがあり、きましたー!」


 少し待つが静かなままだ。

 はぁ。あの人いつもだからなぁ。

 まったく。少しは控えればいいものを。


 玄関を開ける。鍵はしまっていない。中へ向かって再び声をかける。


「オロチさーん! いーまーせーんーかー!?」


「あ゛ーーーー! うるせぇ! 頭に響く!」


 部屋の奥からは髪の長いボサボサのおじさんが歩いてきた。


「まーた、酒飲み過ぎたんですか?」


「うるせぇ! お前に関係ねぇだろ!」


「話があってきました。この前、襲撃を受けたんですよ。学院の先生が言うには超過激派組織、人外魔境ですって」


 そこまで言うと目を細くしこちらを見つめた。


「何狙いかわかってんのか?」


「僕の友達のバアルくんです。学院の首席なので狙われたようです。次席は連れていかれました」


 実はデームくんは次席だったりする。


「ほぉぉおん。奴らは遂に学院生にまで手を出し始めたわけだなぁ」


「何か知っているんですか?」


 さすが師匠。もう奴らの情報を得ていたんだ。


「いや、しらん」


「なんなんですか? 知ってる感じ出しましたよね?」


「アイツらの狙いなんて知るか。大方、組織の人員を補給してるんだろうよ」


「なんでそんなことするんです?」


「あぁ? 俺様が人員削ってるからじゃねぇか?」


 この人はそんなことをしていたのか。

 それもギルドからの依頼なんだろうけど。

 本当にすごいんだかなんなんだか。


 あれは相当な手練れだった。

 僕も得物がなければきつかったかもしれない。


「あのさ、リオンくん。誰かな? このお酒臭い人は?」


「あっ! 説明がまだだったね。この人は僕のお師匠様でオロチさんです!」


「「「宜しくお願いします」」」


 バアルくんに聞かれたのでそのままを紹介してみる。

 すると、オロチさんは顔をしかめた。


「なぁにがよろしくなんだよぉ? あぁ? リオン」


「僕の友達を鍛えてあげて欲しいんです!」


「お前は俺のやり方を知ってるだろう? こいつらがついていけるとおもうかぁ?」


「ついていけます! みんななら根性あるんで」


 僕が信じてみようと思う。


「僕は人に教えるとかはできません」


「お前口下手だからな」


「はい! そこで、です」


「俺の登場だと」


「そういうことです。忙しいと思いますが。強くしてあげてもらえませんか?」

 

「はぁぁ。仕方ねぇなぁ」


「有難う御座います!」


 ここからはオロチさんに任せよう。


「だたよぉ、毎日酒買ってこいよ?」


 この人は本当にもう。

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