《全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ》は《全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ》を破壊するのか?

上久多夕々

全てを破壊する

「《百雷の獅子ハンドレッド・サンダー・レオ》で掘斗ボルトの《クイーン・バッファロー》にアタック!」

「むむむ……!」



 参田サンダのエースカード《百雷の獅子》の攻撃によって掘斗ボルトの《クイーン・バッファロー》が墓地へ置かれ、減ったライフを記録するために掘斗ボルトは紙に鉛筆を走らせる。



「あとライフいくら?」

「今のでちょうど100だよ」

「ふんっ!じゃあもう俺の勝ちだな!」

「なんで!まだ僕のターンがあるよ!」

「でももう掘斗ボルトの場にモンスターはいないだろ。手札もゼロだし。たった一枚のドローでどうやって俺の《百雷の獅子ハンドレッド・サンダー・レオ》を倒すんだよ?」

「……そんなのやってみなきゃ分からないだろ!僕のターン!」



 デッキの上に手を置き、大きく息を吐く。そして──



「そのままデッキを崩せば降参サレンダーだぜ」

「うるさいなもう!ドロー!…………よしっ、来た!」



 掘斗ボルトのニヤリとした笑みを見て、参田サンダの表情が真剣なものへと変わる。



「見せてあげるよ、この前手に入れた新カードのパワーを。



『悉くを蹂躙し全てを踏み荒らせ!』


さあ!今日が初お披露目だ!降臨せよ!


《全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ》!!」


「は、《破壊バッファロー》!?!?!?なんで掘斗ボルトがそんな超レアカードを!?!?」

「カクヨム公園の自称小説家おじさんから昨日貰ったのさ!じゃあ、《全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ》の能力発動!『全てを破壊する』!!


《バッファロー・デストロイ・オール》!!


百雷の獅子ハンドレッド・サンダー・レオ》を破壊!!他の参田サンダくんのモンスターも破壊!!破壊!!破壊!!」

「オ、オレの《百雷の獅子ハンドレッド・サンダー・レオ》軍が……?ぜんめつめつめつ………?」



 放心状態のような顔をしつつも染み付いた癖なのか参田サンダの手は淡々と処理を進めていく。



「これで参田サンダくんを守るモンスターはいなくなった!これで僕の逆転勝利だ!行け!《全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ》!参田サンダくんにラストアタックだ!《ラン・ザ・バッファロー》!!」



 参田サンダの場はゼロ。手札もゼロ。勝利を確信した掘斗ボルトがライフを記録しようと紙とペンに手を伸ばした、その時だった。



「ちょっと待った!!」



 参田サンダが待ったを掛けたのだ。



「どうしたの?なにか発動できるカードあったっけ?」

「そうじゃないって。さっきはビックリして気付けなかったけど、よく考えたらさあ……《破壊バッファロー》の能力、おかしくね?」

「おかしい?どこが?原作通りじゃん」

「原作版とK・C・Gカクヨム・カード・ゲーム版で能力が違う事なんてよくあることだろ。よくテキスト読んでみろよ」



掘斗ボルトは場の《全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ》を手に取り、改めてそのテキストに目をやった。国語のテストを解くようにじっくりテキストを読み込む事で、今まで見落としていた重大な点にようやく気付く。



「『を破壊する』……あっ」

「そう、テキストによるとこの能力はプレイヤーの指定は無し。つまり、俺のカードだけではなく、カウンターを使い切って用済みになった掘斗ボルトの場の《勝機の前借り》もまとめて破壊されるという事になる。そしてその処理後に《勝機の前借り》の破壊された時のデメリット能力が誘発し、掘斗ボルトの《破壊バッファロー》のパワーがダウンする。その結果、掘斗ボルトの《破壊バッファロー》のパワーが俺のライフを下回り、このターン俺は敗北を免れる。というのが正しい処理……だと思う」



 掘斗ボルトにおそらくこれが本来の処理であろうという説明をした参田サンダが、確認のために掘斗ボルトの《全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ》を手に取る。そして再度テキストを眺めたのち、怪訝な顔になった参田サンダが頭を抱える掘斗ボルトに呼び掛ける。



「くっそ~~~~!!!!ようやくあの超レアカードが降臨できると舞い上がったせいで、こんな凡ミスを~~~~!!!!」

「あれ?……悪い掘斗ボルト、さっきの説明やっぱり間違ってたかもしれない。」

「え?なに?やっぱり僕の勝ちだった?」

「そうじゃない。もっかいテキスト読むぞ。《破壊バッファロー》の能力は、『』だ」

「それがどうしたの?」


「『』だ。


』でもなく、


』でもなく、


』だ」


「それって、つまり……?」


「《破壊バッファロー》の破壊能力にはって事」


「え…………?」」



 それは、《全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ》が原作で登場した時から、その大好きなカードを自分の手で活躍させる事をずっと心待ちにしていた掘斗ボルトにとって、到底受け入れ難い解釈であった。



「それは流石におかしいよ!!!!」

「おかしくねえよ。テキストにそう書いてあるんだから」

「いやいやいやいやいや!!それじゃあカードデザインのコンセプト的におかしいじゃん!!【草原サバンナ】デッキともアンチシナジーだし!!何より全然原作再現になってない!!!!」

「……まあ、掘斗ボルトの気持ちは分かるけどさ、とりあえず、このゲームはテキスト通りの処理で進めようぜ。な?」

「……」

「じゃあ俺のターンだ。ドロー。おっ」



《全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ》のカードを穴が開きそうな程に見つめる掘斗ボルトを尻目に勝手にターンをもらいドローする参田サンダ。そして公開されたドローカードは、このターンの内に降臨し掘斗ボルトのライフを削り切る事が可能なモンスターカード、《クイーン・バッファロー》であった。



「まさか守るべき女王クイーンにとどめを刺される事になるとは、なんとも皮肉な結末だな」

「ちょ、ちょっと待った!!」

「……もう一回言うけどさ……とりあえずこのゲームはテキスト通りの処理で進めようぜ……」

「うん、そうだね。でも参田サンダくん、『』ならさ、やっぱりさっきの処理は間違ってると思うんだ」

「まだ解釈の余地があるってのか……?」



 そろそろ《全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ》談義にも飽きてきて気怠そうな参田サンダに、掘斗ボルトは一つの問いを発する。



参田サンダくんの言う『全て』って、本当に『』なのかな?」

「……どういう事だ?」

参田サンダくん、『バッファローの群れは全てを破壊しながら突き進む』んだよ。わかるかいこの真の意味が?破壊するのは『』なんだ」



 悪い予感がした参田サンダの頬を一筋の汗が流れる。



「そう、破壊可能なオブジェクトは何も場のカードだけじゃない、手札とデッキのカードだって『』は『』だ……」



 流石の参田サンダも、掘斗ボルトのそのあまりにも突飛な解釈を聞いたからには目の色を変えざるを得なかった。



「オイオイオイオイオイオイオイ!それは流石に非常識ってもんじゃないか?現実的に考えてみろ。そんなチートカードの存在、到底許される訳がないだろう!」

「『非常識』?『現実的』?関係ないね。参田サンダくん自身が言った事じゃないか。『このゲームはで進めようぜ』って」

「ハッ!?」

「それじゃあ処理を巻き戻そう。《バッファロー・デストロイ・オール》!!


手札!デッキ!場!文字通りのカードをバッファローの能力により破壊する!!


そして今度こそ正真正銘参田サンダくんのターン!さあ!カードをドローするんだ!その『0』のデッキから!!できるものならねえ!!!!」



 勝利を確信し勝ち誇る掘斗ボルト。しかし、そんな彼の目に映ったのは、今しがた手札と場だけではなくデッキまでも枯らされ、完全に勝ち目を失って敗北目前の男とは到底思えない、不敵な笑みを携える親友の姿であった。



「焦るなよ掘斗ボルト。処理を進めたい時は、相手に優先権を放棄するかキチンと尋ねるのがマナーってもんだぜ。」

参田サンダくん、君は何を言って……そんなカードは参田サンダくんにはもう……ハッ!?」

「そうだ掘斗ボルト!君がを齎してくれた!もう一度処理を巻き戻す!《全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ》によって墓地へ置かれた《破壊と創造の輪廻》の能力が誘発!1を対象とし、デッキトップに置く!」

「そ、そんな!やめてよ!

「実は俺も使ってみたかったんだ!その!俺が対象とするのはの《全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ》!俺のターン!ドローは当然《全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ》!」

「まだだ!《全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ》には特殊な『降臨条件』がある!たとえ超レアカードだろうと降臨できなければただの紙!参田サンダくん!君も超レアカードを使ってみたいという欲望に目が眩んでしまったようだねぇぇぇぇぇぇ!!」

「チッチッチッ」



 参田サンダは、足掻く掘斗ボルトを宥めるように人差し指を左右に振り、その人差し指をそのまま自身の墓地へと向ける。



「……俺の墓地には、《破壊と創造の輪廻》と同様に前のターンに》が既に存在している」

「な、何だってぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?」

「故に!降臨条件は満たされる!さあ本当にマジでこれでいよいよ決着だ!《全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ》で掘斗ボルトにラストアタック!《ラン・ザ・バッファロー》!!」

参田サンダぁぁぁぁ!!!!!!!」



 こうして《全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ》を巡る全てを破壊する熱戦は、ここに終幕の時を迎えた。




 後日。

 新エース(超レアカード)のデビュー戦で早速その新エースを奪われた挙句それでフィニッシュまで決められるというトラウマをキめられた掘斗ボルトは、それから参田サンダとは一週間ほど口を利かなかったという。





 カードを破壊し、ゲームを破壊し、プレイヤーを破壊し、そして友情をも破壊する。《全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ》は、次は何を破壊するのだろうか。

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《全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ》は《全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ》を破壊するのか? 上久多夕々 @uwakuta_yuyu

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