本編(4)

『突然のDM失礼します。アップしていた白洲コウセイの放送を聞かせていただきました。とても懐かしく思い、当時のことを思い出しながら聞きました。ところで、他にも白洲コウセイの放送を持っていたりはしないでしょうか。もっと、もっと白洲コウセイの放送が聞きたいです』

 

 わたしは動画のアップ主にDMを出して、他にも白洲コウセイの放送を持っていないか聞いてみた。

 普段であれば、そんなことをしたりはしないのだが、どうしても白洲コウセイのラジオ放送をもう一度聞きたいのだ。


 しかし、DMの返事は来なかった。

 来る日も、来る日も、わたしはDMの返事が来るのではないかと待ち望み、あの動画サイトにアップされている白洲コウセイの放送を繰り返し聞いた。

 毎回同じトークであるにもかかわらず、毎回笑えるし、毎回楽しめる。

 こんなに楽しい日々が送れるのは、いつ以来だろう。


 さらに白洲コウセイのことを知りたくなり、インターネットを使って色々と調べてみたりもした。

 しかし、その結果は散々なものだった。『白洲コウセイ』というキーワードは、何もヒットしないのだ。


 白洲コウセイは、もう引退してしまったのだろうか。

 ここまで情報が出てこないとなると、色々なことを考えてしまう。

 もしかして、もう死んじゃった……とか。


 ここまで恋焦がれているというのに、白洲コウセイのトークが聴けないというのは、拷問に近いものがあった。


 そんなある日、一通のメールがあることに気づいた。

 DMの返信が来たのだ。

 わたしは飛び上がるような思いで、そのDMを開いた。


『DMありがとうございます。白洲コウセイのことを知る人がいたのでビックリしていました。実はまだ、白洲コウセイのラジオ放送を録音したものがいくつかあります。あまり需要がないかと思い、アップしないでいたのですが……。もしよろしければ、その音声ファイルを送りましょうか?』


 そのDMを見た時、わたしは不覚にも泣いてしまった。白洲コウセイのラジオ放送がまた聴ける。また、白洲コウセイに会えるのだ。


『本当ですか。ぜひ聞いてみたいです。わたしも自分以外に白洲コウセイのことを知っている人がいて驚いています。本当に嬉しいです』


 そんなDMのやり取りをして、わたしは白洲コウセイのラジオの録音データを送ってもらうことになった。その日は嬉しくて、嬉しくて、天にも昇る気分だった。


 その翌日、動画サイトのURLが送られてきた。そこに白洲コウセイのラジオ放送をアップしたというのだ。

 わたしはすぐにそのURLをクリックして動画サイトにアクセスした。


 いつものように真っ黒な画面。

 しばらくするとポップアップ・ウインドウがあがってくる。


『中毒者続出。いまならまだ引き返せる』


 そんなメッセージが表示される。

 新しいスマホゲームか何かの広告だろう。そう思ったわたしは出てきたポップアップウィンドウを閉じると、動画サイトの音声に全神経を集中させた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る