本編(3)

 そんなわたしが、なぜ今になって白洲コウセイのことを思い出しているのかといえば、それはたまたま見た動画のせいだった。


 いつものように動画サイトで動物のかわいらしい動画を見ていると、お勧めの動画として『白洲コウセイのぶっかけラジオ』が出てきたのだ。


 それはラジオ放送を録音したものであり、真っ暗な画面で音声が流れるだけのものだった。

 白洲コウセイの軽快なトークを聞いているうちに、当時の自分に戻っているような錯覚に陥り、あの当時考えていたことや悩み、楽しかったことなどの記憶が一気に脳裏に蘇ってきた。


 動画サイトに放送の投稿をした人は、白洲コウセイのラジオ番組をたまたまテープに録音しており、それをデジタル化して取り込みなおしたものをアップしたというコメントが書かれていた。


 コメント欄には「懐かしい」というコメントが数件あるだけで、PV数は20回にも満たない状態だった。

 みんな、白洲コウセイのことを知らないのか。わたしは、ちょっとがっかりしていた。


 他にも白洲コウセイのラジオ放送を録音した動画はないだろうか。

 そう思ったわたしはインターネットの検索サイトなどをつかって白洲コウセイに関する情報を集めようとしたが、さっき見た動画サイトのリンクがヒットするだけで、他に見つけることはできなかった。


 どうしても、白洲コウセイのラジオをもう一度聞きたい。

 わたしはそんな欲求に駆られていた。


 もう一度、白洲コウセイのトークを聞きたい。

 白洲コウセイの声を聞きたい。


 その欲求は、日に日に強くなっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る