本編(2)

 そもそも、白洲コウセイって誰だよという話になるかと思う。

 まずはそこから話をしよう。


 当時、インターネットというものは存在していなかった。パソコン通信と呼ばれるインターネットの前段階のものは存在していたが、一般的には敷居が高く、気軽に始められるようなものではなかった。

 それに、一般家庭にパソコンがある家などもほとんどなかった時代なのだ。

 現代のようにインターネットがあれば、気になることは調べればわかってしまう。

 例えば『白洲コウセイ』と検索してみるとしよう。すると、ラジオ放送局のサイトがヒットしたり、白洲コウセイのWikipediaが出てきたりするかもしれない。

 しかし、インターネットの無い時代は、ラジオパーソナリティの顔などを知る人は少なかったのだ。この人はどんな人なのだろうか。そんな風に顔や姿の想像をしながら聴く楽しみというものがあった。


 もちろん、白洲コウセイがどんな人なのか知りたくてしかたなかったわたしは、白洲コウセイについて調べようと色々な雑誌を見たり、新聞のラジオ欄で紹介されたりしていないかと調べてみたり、テレビに白洲コウセイが出ていないかとチェックをしたりしていた。


 しかし、白洲コウセイはわたしの前には姿を現してはくれなかった。

 顔も知らない、歳も知らない、職業も知らない、普段なにをしている人なのかも知らない。ただ唯一知っているのは、その声だけ。それがわたしにとっての白洲コウセイであり、白洲コウセイは謎に満ちた人物なのだ。


 ただひとつだけ言えることは、白洲コウセイのトークはめちゃくちゃ面白いということだ。『白洲コウセイのぶっかけラジオ』は、曲掛けない、ハガキ読まない、CM入らないといったコンセプトで進められる番組であり、深夜2時から3時の間、ずっと白洲コウセイが喋り続けるという番組だった。


 トークの内容はどうしょうもない馬鹿話や時事ネタに関する話、深夜ということもあってシモネタ満載のエロトークもあれば、ときどき怪談話をするなどといったバラエティに富んだトークを白洲コウセイは繰り広げていた。


 わたしが最後に白洲コウセイの番組を聞いたのは、いつだっただろうか。おそらく、受験直前の頃だったはずだ。受験勉強に集中するため、ラジオは封印する。そう宣言して、段ボールの中にラジオを入れて目につかない場所へとしまったはずだ。


 そして、受験が終わった頃にはラジオのことなどは忘れてしまい、そのままラジオを聴くことは無くなっていた。

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