第6話 カードエラー2

 警察署に駆けつけたミナコは、捜査チームと面会していた。そこに、両手でスマートフォンを操作するキミコの姿もあった。面会室に入ってきたミナコに気付いた捜査官の高井が一礼し、空いたソファの一席に誘導する。スマートフォンの操作に夢中になっているキミコを不思議に思いつつ、出された緑茶を啜るミナコは、高井から質問を受ける。


「娘さんの前日の様子をお聞きしたいのですが、何かお話しをされたりとかは?」

「お話しというより、私が一方的に話しかけるだけでした」

「ちなみに、どこかへ出かけると言ったことは一週間でありましたか?」

「いいえ、ユウナちゃんと遊びに行くだけで、家に帰ってからは全く」


 失踪する原因を探る高井だが、ミナコの答えからは何も得られないと腕を組んでアナログ時計を見つめる。すると、操作を終えたキミコが高井を呼び、彼は見せられた画面を確認する。


「博多? 新幹線で移動したか」


 GPSを使用してユウナの現在地を探ろうと、キミコに操作させていた高井は彼女達の現在地を博多駅と特定したが、一つの疑問点が頭から離れない。GPSの画面を表示している間も特定の場所に留まったままで、移動している様子が見られない。すると、マーカーが奇妙な動きを見せる。一秒ごとに徒歩とは思えないスピードで小倉方面に向かい移動している。


「もしかして、帰ってきている?」


 キミコが期待する声を発するが、高井はその可能性を否定した。彼女のスマートフォンで博多駅の時刻表を確認する。その結果、数分前に発車されたと思われる新大阪・東京方面の電車は実在しない。つまり、回送列車だ。


「おそらく、博多駅で下車したと思われます」

「じゃあ、そのGPSは何?」

「考えられるケースとしては、この機能を知っていたユウナさんが置き去りにした可能性があります。探されることが嫌だったのでしょう」


 高井の推察に溜め息を漏らすキミコは、立ち上がって何か策がないか問う。ミナコもその問いに賛同して、頭を悩ませる高井を詰める。自分達が原因で起こした事件ではないからこそ、助けが欲しくて仕方ない。その気持ちを察した高井は『わかりました』と、広げた両手を前に小さく出して抑える。


「我々も博多に行きましょう」


 この提案に、キミコはある問題点を口にする。


「クレジットカードを娘に持っていかれたのですが、費用は?」

「当然、私達が負担しますが・・・・・・そのクレジットはどういう状態で?」

「使われないように停止させました」

「ならば、今すぐ停止を解除させてください」

「え、何故ですか?」


 キミコは開いた口が塞がらなくなり、高井と距離を詰める。


「停止させてしまうと娘さん達の生き残る術がなくなってしまいます。高額利用を防ぐための手段ではありますが、身内であれば、そこは覚悟の上で使わせてください」


 鋭い目つきで異議を今にも唱えそうなキミコの荒れた感情を抑えさせ、高井はスマートフォンを出すよう指示する。生き残る術を自らが奪っていると埋め込まれたキミコは、反意を殺して言われたとおりスマートフォンを取り出す。

 クレジットの利用停止を取り消すため、高井自らがカスタマーサポートに電話をかけ、事情を説明する。


「ありがとうございます」


 取り消し完了の通知を受けると、高井は捜査チーム三名に声をかけ、出発の準備を始める。その間、母親二人はソファに座って言葉を交わす。


「私は、認めたくないです」

「私もです」

「大学に進学することが嫌なだけで、逃げますか?」

「私達には信じられませんけど、そうだったのでは・・・・・・」


 高井率いる捜査チームとともに東京駅を発車した時には、彼女達は既に博多駅から姿を消し、佐賀県武雄温泉の地を踏み、見つけた温泉宿に宿泊状況を確認していた。部屋は空いているが、チェックイン時に先払いする制度を採用しており、使用不可の状態であるユウナのクレジットカードでは支払いできず、諦めかけていた二人だったが、念のためカードを通すと使用ができる状態に戻っていた。思わぬ幸運に、アカネはユウナと抱きしめ合い、渡された三○六号室のルームキーを受け取って部屋へ入った。



 

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