第3話 人外


 白を基調として小洒落たオフィス。今はもう窓側の一面が衛助の影に覆われ、死の予感が攻撃性を顕にしたであろうチャカに放たれている。

 部屋に満ちていた落ち着きの雰囲気は今は見る影もない。

 それほどに衛助の魔術は強い。だがチャカは警戒する様子を見せずなんならポケットに手を突っ込んでフラフラと衛助の元へ歩いて行く。

 そしてチャカがポケットから手を出そうとした瞬間に衛助は刀を抜き放った。

 だが胴体を狙った早業の一文字斬り(横に斬る技)は白のオフィスに血を飛ばす事なく空を切った。


「この菓子は貰っていくぞ」


ーー避けやがった。


 チャカが只者ではないという事実を再認識すると共に緊張が強くなってくのをリュウは感じる。そしてチャカが攻撃ではなくココアシガレットを奪った、始めからチャカに攻撃する意思が無かったようだ。


 ココアシガレットを口に咥えている衛助とは対象的にチャカはココアシガレットを噛み砕きながら言う。


「俺は今、吸血鬼として"振る舞う気はない"お前らにある借りもどうでもいい」


 チャカは振り返らずに手のみをリュウに差し出してきた。


「火を寄越せ」


 チャカに攻撃意思が無い事は分かっているので黙ってリュウは己の掌から火をチャカに飛ばす、するとチャカはその火の火力を上げたり下げたりした後、衛助の咥えているココアシガレットに火をつけた。甘い砂糖の匂いが広がる。


「それほどまで長時間、広範囲に影を展開したら攻撃出来ないだろうな」


「お前……」


 さしてもない様子で衛助は自身の剣山が出せるという嘘が見破られた事を認めた。

 そしてリュウは衛助がチャカに影を意識させその隙に一太刀を入れようとしていた事に気が付く。


「わざわざ嘘なんて言わなければ良かったな」


 手が眼より先に肥えることは無く、魔術が使えなくなってもチャカ・ファイラームの肥えた観察眼は衰えてはいないという事実を証明された。


 チャカが火を操る様子を天下乃は不思議そうに見て質問する。


「魔術使えない筈よね?」


「おかげさまでな搾りカスすら使えん」


チャカの魔術は天下乃によって今は文字通りリュウの手にある。


「だが元は俺の力、魔力を注げば火力だけだったら操れる」


 チャカが今度は落ち着いた様子でリュウの方へ歩いてきた。そしてリュウの影へ沈んでいく。


「この時代に興が乗る物があったら出てきてやる」


 衛助の影も退き、異様な気配の主も居なくっなった事でオフィスはいつも通りの雰囲気に戻る。


「コピ・ルアクには興味無いのね」


「糞から採ったからじゃね?」


「え?」


 この声が天下乃のモノなのかリュウのモノなのかは此処では言わない話、前者なら抜けてて萌えるという事であろうし、後者ならばリュウは記憶喪失で知らなかったのであろう。

 そしてコピ・ルアクがジャコウネコの糞から採れたコーヒー豆だという事実を知らなかったのはこの中でたった一人である。



***


『受難』


 青森県の某所に季節はずれの林檎が実った、それが最初の報告だった。

 この世界で起きた奇怪な事柄はまず吸血鬼を疑わなくてはならない、だが数年前を機に吸血鬼関連の被害は4割にまでに減少している。

 そしてその4割は人間が吸血鬼由来の魔術を悪用している事例が多かった。

 だが東京某区で起きた吸血鬼の暴走は今までの事例とは規模が違いそれを機に各地で強力な吸血鬼が現れるようになった。

 そしてその青森県の某所の案件で久々のヴァンパイアハンターの死亡が確認された。



***


 五月は初夏だそんな事も忘れていてはと新幹線に揺られながらリュウは気を悪くする。

 窓の景色が都会から田舎へと姿を変えた時に気づいた、リュウ自身が忘れているのは個人的な情報のみ、つまりリュウは世間知らずだった。どの道気が悪くなった。

 今から向かうのは青森県、深穴から3ヶ月以来初めての吸血鬼駆除の案件らしくそしてリュウの初任務。

 なのだが特にこれといった感情には支配されていない。

 そしてそれ自体がなんだか不思議な感じだとリュウは思っていた。

 あの時の深穴での地獄の続きになるかもしれないのに。

 でもなんなら何も思っていない事自体が心を支配しているのかもなと思ってしまう。

 ふと視界に車内販売ワゴンが入った。

 

「初夏……初夏だしなアイス買うか」


 杞憂などする必要はないのだから。硬いアイスに苦戦しながら目的地への到着を待った。


***



 到着青森県某所のちょっとした郊外。


「さっ寒っ!」


「大丈夫?」


 初夏といえど青森はまだ冷えるましてや車内販売で買ったアイスは硬く食べ終わる前に駅に着いてしまった。なのでアイスを食べながら待ち合わせ場所まで来たのが良くなかった。

 地雷系の服を纏った少女もゆるが心配してくれた。その服装はリュウが身につけている物より比較的温かそうだった。リボンが沢山付いていて。


「初夏なのに寒いんですけど?!」


 リュウの世間知らずがもゆるに炸裂する。


「青森はまだ肌寒いわよー! コーヒー飲む?」



 青々とした草原に設営された簡易キャンプに案内して貰いコーヒーを啜る。リュウからしたらまだ苦くて仕方ないがアイスで口の中が甘かったので今回は丁度良かった。


「君がリュウ……さん?」


「おう仮名だけどな」


「そう私はもゆるね、というか3ヶ月前ちょっと会ってたけど」


「覚えてないすね」


 もゆるが言っているのは深穴でリュウが衛助に救助され深穴から出た後の事だった。

 あの時のリュウは吸血鬼になりかけのような状態だったらしく燃えはしなかったものの吸血鬼の体力も無くまあまあ疲れていたので誰かと知り合える余裕は無かった。


***


 リュウが数口コーヒーを啜って口の中の甘さが流された頃に、もゆるは呼び出しを受けた。彼女が言うには作戦の内容を伝える為の集合だとのこと。           

 その集合にリュウも同行する。任務の内容についてまだ聴いていなかったからだ。

 だが話が人員の編成についてというトピックになった時に問題が発生した。


「班分け? 私とリュウ君で行くあなた達は待機」


 疑問、怒り、不満、様々な声が挙がる。まず何故自分達を連れていかないのか。次に自分達をさし置いて任務に行くその子供はなんなのか。

 その光景を見てリュウは自分へと感情が押し寄せている事に気が付き。もゆるに助け船を求めて視線を向けたが。

 もゆるは少し呆れた顔をしていた。

 そして騒ぎの中から一人の男が出てきた。


「皆んな落ち着け俺に任せろ」


「明石……」


 もゆるがその男の名前を口にした。どうやら明石というようだ。締まったスーツにやや無造作な短髪は自分よりもコーヒーが似合いそうだとリュウは思った。

 明石はネクタイを締めたり腕時計を見ながら言う。


「何故俺たちを待機させる? 少人数で行くのは悪手、一度目の突撃で分かったはずだ」


 集会で知った事だが今回現れた吸血鬼は日光の届かない森のどごかに居て全方位を攻撃する事が出来たらしい。

 これに対してリュウは考えてみる。

 大人数で行けば一網打尽にされる、これがもゆるの言い分だろう。だがそれを踏まえて行ったとしても少人数で行けば一瞬で殲滅される。

 明らかに明石の言い分が合理的だ。なのにそれをもゆるが否定するのは何故なのか、リュウは頭を悩ませた。


「……」


 もゆるは黙っている。それは明石の言い分が正しいという事を認めているという事だ。  

 それを見て明石は若干の溜息をついた。十分に重たい息を捨てて冷たい新鮮な空気を吸い終わったなら次はリュウへと鋭い眼光を向けた。


「まあいい、じゃあこの子供はどうした? ……要するに子供に何が出来る?」


 もゆるに聞いているのだろうに自分に目線を刺す所にリュウは中々の緊張を覚える。


「この子はリュウ君、特別魔術師よ」


「ほうそれじゃあ君はどんな魔術を使うのかな?」


 もゆるの回答を受け取ったことで明石の眼光はある程度、穏やかな物に変わったが嵐の前の静けさと言った感じを纏っていて、返答次第といった様子。

 そして次はリュウが明石へ回答を言い渡す。


「炎、だけどまだ上手く使えない」


 途端、明石は顔に筋を寄せた。


「ミスマッチだ」


 空気を引き裂くような声が皆の耳を劈いた。その事に気がついたのかそれよりややテンションを落としながらも同じ声で明石は続ける。


「魔術師、しかも新米だ! それに子供ときた! ……今回の現場に炎は二次被害が出る可能性がある、柳崎よ俺は意味が分からん、俺らじゃ足手纏いなのだろう? 魔術が使えないからな、それで連れてきたのはこの子供だ、そこまでするなら俺を魔術師にすれば良いだけなのに、衛助さんは俺を魔術師にしてくれない……」


 一息で有る限りの感情を吐いたのだろう、明石の息は荒くなっている。

 結構息を取り戻すのに時間をかけた後にまた明石は話し出した。


「リュウ君だったな? すまない、いきなり声を荒げてしまって君に怒っているわけじゃないだ」


 いきなり謝られたのでリュウは少々驚いてしまった。

 だがその態度を見て良い大人なのだろうとリュウは思った。


「だがなリュウ君、私は君を信用できないだから私と決闘はくれないだろうか?」


「? あ、はい」


 今の明石の顔は平然、どうやら真剣のようだ。

 だがまさか吸血鬼と戦う前に人間と戦うという事になろうとはリュウは微塵も思ってもいなかった。

 それにリュウが記憶喪失ながらに子供ながらにヴァンパイアハンターになったのは深穴での地獄絵図を再現しない為でもあったのだ。

 それなのにまず人と戦わないといけない状況があるのがなんともリュウにとっては不愉快だった。


「柳崎、私が勝ったらもう私が正しくていいだろ? 衛助さんに血痕を刻んで貰えるように一緒に頼んでもらうぞ」


「苗字で呼ばないでよ将暉」


 もゆるは何故だかずっと会話の本質に触れてこない。逃げるような動作が多いのだ。

 それを明石は感じ取ったのだろう。


「もゆる、君も魔術師だ、だからこの場を纏める権限があるのだろうよ、不可解だ何から逃げてる? 何故? あの時、魔術を使わなかった? そんなだから二次隊長が死んだんだ」


「……」


 もゆるは何も言わないただ唇を噛んでいる。

鮮やかな血が流れ出た。どうやら思う事があるようだ。


「もゆる?」


「ごめん」


 リュウは心配になったので声をかけた誰かの涙はノーサンキューだからだ。だがこの世には必要な涙もあるようで明石は特に気にしていないようだ。


「リュウ君この先にもっと開けた所があるそこで戦おう」




***


 集会のあった場所から少し離れた広場に人が集まっている。

 今から行われるのは闘技でありそれは力を示す事だというのはローマの時代から変わらない。だが力を示した先の事は人によって異なる。一方は更なる力を得る為に、もう一方は信用を得る為に闘う。

 

 「リュウ君、君は何故吸血鬼を狩る? 具体的に何があった?」


 明石が質問を投げかけてきたのでリュウは思い返してみた。あの日、自分が何者なのかが分からないでいたのに、理不尽な仕打ちだとしか思えなかった事を。

 それが仕組まれた事ならばリュウは取り返さなくてはならないのだ。

 力を持って。

 その為ならば人間相手にだって手を抜く訳にはいかない。今この時を持ってリュウは人を殴る覚悟を持った。


 「俺はきっとやられっぱなしは嫌な奴なんだよ」


「きっと? どういうことだ?」


「……記憶喪失なって死にかけて吸血鬼なって迫害されて散々だ、同情してくれや」


 思い返してみれば本当に散々な記憶で参ってしまった。

 だが立ち止まればイラついてしまう、自分に対してなのかは分からないが。


「そうか」


 明石は相槌をゴングにしてリュウに向かって駆け出す。スーツを着こなした人間の動きにはとても見えない。

 リュウの元へ迫ってきたならばを頭を狙うように脚を振り上げてきた。


「喋る余裕はあるか?」


 リュウは腕を十字に組んで蹴りを抑える。

そしてのしかかった脚を押し返したがバランスを取られてしまった。

重たいと言われれば重たいのだが。受けても次の動きに影響は無さそうだ。

 いや違うこれは話をするために手を抜いているのだとリュウは気づく。


 「衛助さんが何故、俺たちに魔術を使わせてくれないと思う?」


 確かにそれは疑問だった、吸血鬼と戦うなら魔術は有用なハズだ。

 だが話をしながら格闘なんて今のリュウには出来ない。当然その疑問についても考えている余裕は無い。

 そう思っている間にもストレートの拳が飛んできてそれに対応を強いられる。

 相手に選択を強制させることが勝利への道だと実践で痛感する。ならば柔軟に思考して相手が想定していない択を取れば良い。

 リュウは腰を落として低い姿勢から両足で明石を蹴りつけその反動を利用して距離を取った。

 起き上がってみれば明石は姿勢を崩していた。だがこれは嬉しい誤算でありそれに乗じはしない。そのまま明石の周囲を走り回る。


「話の続きをどうぞ!」


 これなら話を聞く程度なら出来る。

そして今のリュウは吸血鬼なので常人よりも遥かにスタミナがあるから疲れることも無ければ視力関係も強化されているので目が回る事もない。

 それに狙いがあった。


***


 なんと奇妙な事かリュウが明石の周りを爆走し始めた。

 一見フィクションのような作戦だが案外理に適っている。


 まず不意打ちを避けるべく明石はリュウを付きっきりで見張らなければいけない。そして自分の目が回ればゲームセット。


 明石はセオリー的に話が終わるまでは攻撃してはこないだろうと予測を立てた。だがそれでは面白くない。


 相手は吸血鬼、個体差はあるがまあまあな再生能力を有すのだ。

 人型の場合は10秒あれば打撃によるダメージは治癒されてしまう。

 銀製の装具無しでダメージを与えるのは厳しい。


 明石が狙っているのは気絶だ。顎またはこめかみを殴打して相手を気絶させれば再生能力など関係無い。だから話で気を逸らそうとしたが距離を離されては拳が当たる筈もない。


 そして驚く事に吸血鬼になって動体視力が上がっているのだろう明石の攻撃が対処されてしまう。

 だが明石の攻撃を避けられた吸血鬼はあまりいない。それは普段相手している闇市出身の吸血鬼と比べても遥かにリュウの吸血鬼としてのレベルが高い事を意味している。

 ここで言う闇市は吸血鬼を違法に売買している場所のことだ。


 魔術が使えないのでレベルが低い任務を請け負わされているのもあるだろうが。

 ひとまず言い出してしまったので話をする。まああれでもヴァンパイアハンターの後輩なのだ話しておくべき事もあるだろう。


「世の中じゃ俺らヴァンパイアハンターは奇血病躯と呼ばれる、その証拠が魔術の核、血痕だ」


 まだ話始めて間もないがリュウの駆ける速度は落ちていない。やはり持久力も上がっているようだった。

 一方明石は動作を最小に留めてはいるが少し疲れてきた。俊敏に動く物体を見詰めるのもそうだが、普段このような動きはなかなかしない。

 その事を確認したなら話を続けた。


 「分かるな? 衛助さんが俺らに魔術を使わせてくれないのは社会での立場を保証するためだ……」


 話しながらその事実に落胆する。明石からすれば衛助の配慮など要らんのだ。いや他のヴァンパイアハンター皆そう思っている。

 何故、自分の妻が娘が殺されていてるのに自分の立場を気にする必要があるのだ。奴ら吸血鬼は殱滅しなければならない。その為には魔術が必要だ。

 だからこそ今ここで衛助の矛盾であるリュウを折り下剋上を叩きつけねばならない。

 もちろんリュウに恨みは無い彼は吸血鬼だがそれは事故に過ぎずないだろう。

 だが少し感情を込めるするストレスを発散しないとやっていけないのだ。

 そういえば恨みと言ったらという少年を思い出した。映だ彼は吸血鬼に対しての恨みが誰よりもある。

 能力も高く魔術を使わずに下位の吸血鬼を酷使することで戦っている。

 下位吸血鬼キューマ、吸血鬼の単為生殖行為によって生まれる紅いコウモリのような見た目の吸血鬼。

 少量の血を譲渡することで使役が可能で魔術を扱わないハンターも数匹飼っている。

 もちろん明石も飼っていた。だが使ってはいなかった。あまり使い方が分からず放置していたのだ。

 やはり多かれ少なかれ人間が吸血鬼を相手するなら吸血鬼の力を利用する必要がある。

 また状況を戻す為にリュウとの距離を詰める。本来これは愚策、持久力が上回っている相手を追いかけるなど自分が疲れることは明確だった。

 でも相手と距離を詰める必要がある。そこで逆の発想をするのだ。自分から行くのではなく相手から来て貰おうと明石は思い至った。

 明石は早速作戦を実行した。ずっとリュウを目で追いかけている現状から突拍子も無く転ぶ。


 ーーさあ、これが狙いだろ。


 明石の読みは当たっていたようで。リュウが狙っていたのはこの状況での明石のアクシデント。それが起き次第リュウは獲物の方へ走ってきた。

 リュウの血走った眼と力んだ拳が明石の視界に映る。今の明石は転んでいる最中、半分浮かんでいるようなもので本来一切の抵抗などは許されない状況だ。

 だが明石は自分の影からキューマを一体出すと自身の手を噛み付かせ。ブースターにすることで不安定な身体を軸にしてリュウへのカウンターを可能にした。

 キューマによって加速された拳がリュウの頭部を直撃する。


ーー俺の勝ちだ。


「んな?!」


 明石の拳が直撃した直後それを見て明石は驚愕した。確かに明石の作戦は成功しリュウの頭部を強く殴りつけた。

 なのにリュウの頭部には傷一つ無い。だが不自然な事に傷口の無いリュウの頭部は血で赤黒く染まっている。


ーー脳を揺らすに留まらず破壊してしまった事で再生して気絶しなかったのか? いや多少、頭蓋骨を砕いたが脳に届く感触は無かった、ということは衝撃によって細胞が少しでも破壊されたら再生破壊を繰り返す事で脳に衝撃が届かなかった?! 馬鹿なそれだったらこいつの再生力は化け物じゃないか!


 だが実際どれほどの再生力を持っていたとしても魔術、銀、それらに加えて急所への攻撃ならば吸血鬼は倒せる。


 「クソ! 魔術さえあれば」


 明石は諦めずに追撃をする。明石の得意とする攻撃、頭部を再度狙いそれを囮に相手の脚を折る。

 これもまた成功した。だが脚を破壊した途端に再生され明石の脚が跳ね返される。今度は本来に明石は転んだ。


 「そんなんだからだよ」


 この時出来る抵抗それは再度キューマを使い起き上がる事だがそれは出来ない。この状況を脱するには最低4体のキューマが必要だ。だが明石は複数同時キューマを操れなかった。

 結果明石が唯一出来た抵抗は。


「この分からず屋が!!」


 叱責のみだった。


「直ぐにでも魔術を使うことをベースにした動き! あんたは魔術を使えない自分を諦めたろ!」


ーー?!


 明石は頭が晴れる感じがした。ただ自分は憎しみに任せて自分の殺人術を研鑽すれば良かったのだ。キューマを映のように使い潰せば良かったと。そしてきっと出来た自分なら。衛助は魔術師になることは人間を棄てることだと皆に教えている。だが結局は明石の憎悪は彼自身を人外にしていた。

 そしてそれを気付かせてくれた相手は自分自身を吸血鬼だと認め全身全霊で吸血鬼を屠ろうとしている。


「化け物が」


「そうだな」


***

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