テスト中だけど〇〇〇〇見せて (高校二年生男子 @教室 (その1))

 首を捻るとゴキゴキと我ながらえげつない音が鳴った。

 瞼を閉じるとじんわりと熱を持った痛みを感じる。

 疲れた。


 黒板の上の時計に目をやると、まだ十五分残っている。

 得意科目の生物だから、ある程度すんなり解けた。

 手応えありだ。

 が、疲労困憊だ。

 今日は期末テスト最終日。

 そして、生物が最終科目。

 本来は答案の見直しをすべきだと分かっているが、もう集中力が残っていない。

 既に心は期末テストからの解放感でウキウキしている。

 あと少しで久しぶりに桃子とデートができる。

 テスト期間の始まる一週間前からデートを封印しているので、楽しみで仕方ない。


 桃子の席は左隣だ。

 テスト中、桃子を見ると雑念が湧くので、机の上から視線を外さないようにしていた。

 しかし、一応全問解けたのだから、もう良いかなと左を見た。

 ら、桃子と思いっきり目が合った。


 頬杖をついてつまらなさそうにこっちを見ている。

 分厚いレンズの銀縁眼鏡がいかにも頭の良さそうな雰囲気を醸し出している。

 実際、桃子は学年一番の成績で、学力では俺は全く歯が立たない。

 俺だって学年十位以内の常連だが、桃子の成績は断トツだ。

 模試では東京大学でもA判定を叩き出す。

 彼女はいわゆる天才なのだ。

 俺が解けない難問を彼女がスラスラと解いていく様はまるで魔法を見ているような感じで、良いものを見せてもらったと拍手をしてしまうほどだ。


“終わった?”


 桃子の口の動きはそう言っている。

 十五分残して終わった俺をいつから見ていたのか。

 さすがは天才。

 努力型の俺の学力を遥かに超えている。


 俺は黒板の方にチラッと視線を送った。


 担任教師は教卓の横に置いたパイプ椅子に座って足を組み、何か本を読んでいる。


“一応ね”


 俺も声を出さずに口の動きで返事した。


 桃子は一つ頷いて、手元の問題用紙を持ち上げた。

 白い裏面に何か書いてある。



 ちんちん見せて



「は?」


 思わず声が出てしまい、慌てて机に突っ伏して「ん、んんー」と咳払いをしてごまかした。


 少しずつ顔を起こして確認すると、前の生徒の肩越しに担任がこちらを怪訝な表情で見ていた。

 再び前の生徒の陰に隠れ、隣の桃子を睨む。


“馬鹿か!”


 声は出さずに最大限大きく口を動かした。


“馬鹿じゃないよ”


 桃子は涼しい顔で、自分の髪を手櫛で梳き、その毛先を見つめた。


 何を考えているのか分からない。

 天才は馬鹿と紙一重と言うが、もしかすると天才=馬鹿なのではないか。

 付き合い始めて三か月。

 彼女のことはまだまだ分からないことばかりだ。


 俺と付き合うことによって桃子の成績が落ちたら申し訳ないからとテストが始まる一週間前からデートはしていない。


 私はデートしたぐらいで学力は落ちないし、デートしないことで欲求不満がたまる方が心身に良くない。


 桃子は眉間に不満をあらわにしてそう主張したが、天才に何かあってはいけないという強迫観念に駆られていた俺は桃子の反論を押し切った。

 その時の条件として、テストが終わったら、何でも言うことを聞くと約束したのだが……。



消しゴムで消しなさい



 俺は自分の問題用紙の空白部分にそう書いて桃子に見せた。

 「ちんちん見せて」の文字を誰かに見られたらどうするのか。


 桃子は不満げに口を尖らせ首を横に振る。

 そして問題用紙にグルグルと〇を書いて、俺に向けて何重にも〇を書かれた「ちんちん見せて」の部分をシャーペンで指す。


 こいつ、頭おかしいのか。


“何で?”


 俺は声を出さずに会話を始めた。


“見たいから”

“だから、何で見たいの?”

“理由なんてない。見たいから見たい”

“もうちょっとで放課後なんだから、我慢しろよ”

“無理。もう限界”


 俺は大きくため息をついた。


 二か月ほど前に桃子と初めての体験をした。

 俺は童貞を、桃子は処女を、互いに捨てあったわけだが、その時から桃子は俺の性器に興味津々だ。

 桃子に言わせれば、男性器は奇跡なのだそうだ。


 時に雄々しく隆起し、時に小さく項垂れる。

 人間の器官でこんなにも形や硬さを変化させる部位は他にはない。

 機能的で、繊細。

 いつ見ても愛らしく、触れていたい。


 桃子は常に冷静で、うろたえたところを見たことがないし、自分も他人も褒めることをしない。

 しかし、男性器については、目じりをだらしなく下げて、とにかくベタ褒めだ。

 デートを封印していたことで、欲求不満がたまり、あと数分で期末テストが終わるというこのタイミングで自分を抑えきれなくなったということか。

 しかし、間もなく放課後なのだ。

 あと少し待つぐらい桃子なら理性で何とでもできるだろう。


 俺は少し冷静にさせるために、次のように書いて見せた。



 じゃあ、おっぱい見せろ



 桃子は文字を読むなり、顔色一つ変えずすぐさまブラウスのボタンをはずし始めた。

 交換条件として得られる対価に見合う犠牲だと判断したのだろう。




(その2へ続く)

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