第2章
1.新しい朝 (1)
「おはよう、シュゼット」
「あれ、おはよう、エリク。外にいたの?」
翌朝、キッチンで朝食の支度をしているシュゼットのもとにエリクがやって来た。
エリクはあくびをしながら「散歩」と答え、ズボンの右ポケットに一度手を伸ばしてから、左ポケットを探った。
「見ろよ、これ。フェリアスの羽根」
差し出されたのは、黄金の粒が混じった緑色の羽根だ。
シュゼットはパプリカを投げ置いて、エリクに飛びついた。足元にいたブロンもキャンキャン吠えながらエリクの足の周りを歩き回る。
「えっ! すごい! この辺りにフェリアスが来たってこと?」
「たぶんな」
「うちの庭を見に来てくれたのかな! だったら嬉しい!」
「キャンキャンッ!」
シュゼットはブロンを抱き上げ、踊るようにクルクルとその場で回った。
フェリアスとは、ヘラジカの体に鷹のような形の緑色の羽根をした魔獣だ。その姿を見ることは極めて難しいと言われている。なぜならフェリアスは人工物を嫌うと言われていて、基本的に人里には降りてこず、森や山地に住まう生き物だからだ。
ほとんど人間が書籍の中でしかフェリアスを見たことがないにもかかわらず、人間たちからのフェリアス人気は高い。それは、フェリアスの蹄に理由がある。
「知ってる、エリク? フェリアスの蹄には、土壌を豊かにする力があるって話! すごいよね。蹄で大地を一なでするだけで、肥沃な土地を作っちゃうんだもん! 土仕事をする身としては憧れちゃうよ!」
シュゼットはエリクとフェリアスの羽を交互に見ながらまくしたてた。シュゼットも例にもれず、熱狂的なフェリアスの支持者なのだ。
「ハハッ。シュゼットはフェリアスが好きなんだな。それなら、これはシュゼットにやるよ」
「えっ! い、良いの! 悪いよ!」
「そう言いながら、羽根に釘付けじゃん」
エリクはニヤニヤしながら、生唾を飲みこむシュゼットの手に羽根を持たせた。
「シュゼットが持ってた方が良い」
「……本当に良いの?」
「ああ。シュゼットに似合うよな、ブロン?」
「キャンッ!」
シュゼットはエリクの手のぬくもりが残る羽をじっと見つめてから、エリクをちらっと見た。
「……それじゃあ、お言葉に甘えるね。ありがとう、エリク」
エリクは歯を見せてニッと笑い、「どーいたしまして」と優しく答えた。
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