5.レモンハーブティーとハーブランチ会
「――エメみたいに寝つきが良くない子には、カモミールとマンダリンの香りを嗅がせてあげると、気持ちを落ち着かせることができるんだ。今みたいに、枕の傍に香りを付けたハンカチを置いてあげると良いんじゃないかな。カモミールには神経を落ち着ける作用もあるから、学校に行く時も香り付きのハンカチを持たせてあげてみて」
「ほんとね。いつもの激しさが嘘みたい」
マリエルの膝の上でエメは大人しく眠っている。その手には香りを付けたハンカチが握られている。
翌日、マリエルの家に集まったのは、シュゼットの他に全部で五人の新米母さんたちだ。
シュゼットはエメのために用意した香りの他にも、心のざわざわを鎮めたり、意識をリセットする香りを教えたりした。そういう香りは、初めての子育てで疲れている新米母さんたちに好評だった。
「ありがとうね、シュゼット。わたし、少しだけ母親になる自信がわいたわ」
「それならよかった! でもマリエルは良いお母さんになると思うな。わたしが町に越してきた時も、すぐに声をかけてくれたでしょう。優しいマリエルが大好きだよ」
「嬉しいこと言ってくれるじゃない、シュゼット!」
マリエルはシュゼットの肩をグイッと抱き寄せた。シュゼットは笑いながら、「本当のことだよ」と答える。
「エメにとっては、シュゼットが優しいお姉さんになるわね。エメ、シュゼットのこと好き?」
膝の上でまどろんでいたエメは、のろのろと顔を上げて、「すうきーい」と間延びした声を上げた。そのかわいらしさに、シュゼットとマリエルはフフッと笑った。
「ありがとう、エメ! わたしも大好き!」
シュゼットにガバッと抱きしめられたエメもにっこりと笑った。
その後は持ち寄った食材を使い、少し早い昼食をすることになった。
「わたし、ハーブソルトを持ってきたんだ」
シュゼットが手提げカゴからブレンドハーブが入った瓶を取り出すと、ワッと歓声が上がった。
「お肉とか魚にかけると、おいしいやつじゃない! 嬉しい!」
マリエルが包丁を持ったまま飛び上がろうとすると、最年長のアナイスがパッと包丁を取った。
「今日のはタイムとローズマリー、ニンニク、唐辛子を混ぜて作ったから、豚肉に合うんじゃないかな」
「あ、それならわたし、ちょうど塊肉持ってきたわよ」とカミーユ。
そこで、オーブンで豚を焼いて、ハーブソルトをかけてシンプルに食べることになった。付け合わせは、シュゼットが持ってきたローズマリーとアナイスが持ってきたジャガイモを茹で合わせたものだ。
みんなが料理をする間に、シュゼットは持ってきたレモンハーブティーを用意した。レモングラス、レモンバーベナ、レモンバーム、レモンミントをブレンドしたハーブティーだ。気分を和らげ、不安を無くすレモンの香りは、新米母さんたちにぴったりだ。
肉の焼き上がりを待つ間にお茶を飲んだマリエルたちは、レモンのお茶にふーっと長いため息をついた。安堵から出てくるようなまったりとしたため息だ。
「ああ、おいしい。シュゼットの作るものって魔法みたいよね。心をするっとほぐしてくれるんだもの」
マリエルは「ちょっと肩肘張ってたのがわかったわ」と言って、肩を小さく回した。確かにマリエルの目の下にはくっきりとクマがある。寝つきの悪いエメに付き合って、夜も一緒に遊んだり、絵本を読んだりしている努力の証だ。
「わたしでよければいくらでも力になるから、いつでも頼ってね」
「ありがとう、シュゼット。心強いわ」
そう言ってマリエルが笑うと、シュゼットもにっこりと笑い返した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます