6.再会
「いろいろありがとうね、シュゼット。今日は来てもらえて嬉しかったわ」
マリエルはたくましい笑顔で、抱いているエメの手を振った。シュゼットも抱いているブロンの手を振り返す。
「喜んでもらえて良かった。くれぐれも無理しないでね。また何かあったら、いつでも呼んで」
シュゼットはブロンを抱いたまま、マリエルの家を後にした。
味付けされていない肉をもらい、お腹いっぱいになってしまったブロンは、自分で歩きたがらないのだ。
「食べすぎだよ、ブロン。今日の夕食は少なめにするからね。みんなブロンに甘いんだから」
ブロンはねだる様なかわいい声で「キューン」と鳴いた。次の瞬間、ブロンはハッとして、シュゼットの肩に前足をかけて、「キャンッ」と鳴いた。
「どうしたの、ブロン?」
シュゼットが振り返ると、道のずっと先の方に昨日の青年が歩いているのが見えた。この町に黒髪は珍しいため、すぐにわかった。
ブロンがもうひと鳴きして腕の中で暴れると、シュゼットはブロンを地面に下ろした。すると、ブロンは青年目掛けて駆け出した。
「わー! 待ってよ、ブロン! お腹重いんじゃなかったの!」
シュゼットは叫びながらその後を追った。
――あの人、ラベンダーのおかげで、良く寝られてると良いけど。
「キャンッ!」
ブロンの声に、青年は足を止めた。
「あ、お前、昨日の」
そう言った青年の顔は、昨日よりも優しく見えた。青年は屈みこんでブロンをなで、ようやく追いついたシュゼットの方を見た。
「よう」
「はあ、こ、こんにちは」
シュゼットはハアハア言いながら答える。
「走って来たのかよ」
「ブ、ブロンは、足が速いから、走らないと、見失ちゃうんだよね」
青年は「なるほどな」と言って笑い、ブロンをふわっとなでてから立ち上がった。
「昨日は悪かったな。寝起きで態度悪くて」
「ううん。むしろ恥かかせちゃったかなって反省してたよ」
「まあ、ちょっとな。でも、あそこで寝てたおかげでこれがもらえたし、ラッキーだったな」
そう言って、青年はポケットから香り袋を取り出した。シュゼットが昨日渡した香り袋だ。まさか持ち歩いているだなんて。
「あ、それどうだった?」
「良い匂いだな。あんたに言われた通り、枕の傍に置いたら、久々に深く寝られた気がする」
「本当に! よかったあ。香りには合わない人もいるから、どうかなって気になってたんだ」
シュゼットは胸に手を当てて、安堵のため息をついた。
「俺には合ってたってことか。ありがとな」
「どういたしまして」
「礼がしたかったから、会えてよかったわ。さっきはああ言ったけど、走ってきてくれてありがとな」
昨日とは別人のような素直さだ。どうやら寝起きだけ態度が変わるらしい。
シュゼットは心の中で笑いながら「いえいえ」と答えた。青年はこの辺りでは初めて見る顔だ。しかも年齢も近そうに見える。仲良くなれそうな新しい住民に、シュゼットの心は弾んだ。
「ねえ、名前を聞いても良い? わたしはシュゼット。十七歳だよ」
「俺はエリク。十九だ」
「へえ、わたしよりも二歳年上なんだね」
「なんだ。ケンカなら買うぞ」
「あはは、違うよ」
シュゼットが声を上げて笑うと、ふたりの会話を大人しく聞いていたブロンが元気よく鳴いた。エリクは香り袋をポケットに戻すと、ヒョイッとブロンを抱き上げ、あやすように左右に揺らした。
「コイツの名前は?」
「ブロンだよ」
「シュゼットとブロンか。よろしくな」
空いている方の手を差し出され、シュゼットとエリクはにこやかに握手を交わした。
「こちらこそよろしく、エリク。よろしくってことは最近引っ越してきたの?」
「ああ。昨日着いたところだ」
「そうなんだ。ようこそ、フレゥールへ」
「サンキュー」
エリクは嬉しそうに歯を見せて笑った。
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