エピローグ

 後日談。

 というか、今回のオチか。


 戦いが終わった後、王城内はちょっぴり混乱が起こった。

 当然だろう。

 戦闘が起こっただけでなく、国王と王妃が意識を失い、王子が魔王に操られていたのだ。

 危うく俺たちが王子たちを……となりかけたが、そこはエリカが上手くやってくれた。


 先に目覚めた国王には、エリカから事情を説明したらしい。


「本当に申し訳なく思う。あやうく我が国は、魔王の傀儡となってしまうところだった」

「魔王が相手では仕方ありません。私も無関係ではありませんから」

「……カイゼルは?」

「安心してください。セミレナが治療してくれたので、命に別状はありません」

「そうか……よかった」


 カイゼル王子は、魔王の意識に乗っ取られていた。

 俺が倒したことで意識が切り離され、解放されたらしいのだが……。


「申し訳ないが、まったく覚えていない」


 カイゼル王子は操られていた頃のことを何も覚えていなかった。

 明確にいつ、どのタイミングで乗っ取られたのかもわからないという。

 

「本当に覚えていないのですね」

「はい。だからこその、婚約の話も私には……」

「わかっています。お互い、忘れましょう」


 当然、婚約も破棄された。

 カイゼル自身の意思ではなかったし、エリカも指輪の効果で意思決定を歪められていた。

 今回はお互いが被害者、ということで終わる。


 操られていた騎士たちも、無事に仕事に復帰している。

 どうやら魔王は水面下で騎士たちを洗脳し、この国を完全な傀儡国家にするつもりだったようだ。

 俺たちが少しでも遅れていたら、スエール王国と戦争になっていたかもしれない。

 奇しくも俺たちは、大戦争を回避した。


  ◇◇◇


「――報告は以上です」

「そっか。丸く収まったのならよかった」


 セミレナから、今回の顛末を教えてもらった。

 話を聞いている間、アルカはずっと俺の腕に抱き着いている。


「ソウジ君平気? もうどこも痛くない?」

「大丈夫だって。別に怪我はしてないよ。ただ疲れただけ」

「でも、一日起きなかったんだよ?」

「らしいな」


 俺は戦いの後、意識を失って王城の医務室に運ばれた。

 命に別状はないが、激しく披露していたようだ。

 憑依をギリギリまで使い、空間を斬ったりもした影響だろう。

 目覚めた今も身体がどっと重い。


「アルカ、私たちはそろそろ戻りましょう」

「えぇー! でもぉ」

「勇者様はお疲れです。お休みの邪魔をしてはいけません」

「うぅーわかった。また明日ね? ソウジ君」

「ああ。心配してくれてありがとう」


 二人が部屋から去っていく。

 本来なら一人きりだが、生憎俺は常に一人にはなれない。


「今回も助かったよ」

「拙者は侍でござる。刀を振るえれば本望」

「そうかい。にしてもすごいな。空間も斬るって、侍越えてるだろ」

「否、拙者もあんな芸当は初めてでござるよ」

「え? ああ、そうか。妖刀の能力だもんな」


 普通に考えて、ただの剣術で空間を斬り裂くなんてできない。

 妖刀と化した今だからこそ可能になった大技だ。

 それでも、元が小次郎の愛刀と、彼の剣術あってこその芸当だと思うけど。


「拙者だけの力ではござらん。ソウジ殿の存在も大きいでござるよ」

「俺は大して何もしてないぞ」

「敵の弱点を見抜き、瞬時に策を提案したでござろう? 拙者は頭が固い故、あそこまで手早く思いつかないでござるよ」

「それはよかった」


 少しホッとする。

 小次郎の力に頼ってばかりで、役に立てていない気がしたから。

 多少なりとも力になったのならよかったと。


「策だけではござらん。あの時のお主には気迫があった。何があっても大切な仲間を守ると。その想いが拙者にも伝わったでござるよ」

「ま、まぁ一応仲間だからな」

「恥ずかしがる必要はないでござろう?」

「うるさいな」


 感情が筒抜けだから隠しようがないが、それでも恥ずかしさに誤魔化す。

 そうだ。

 あの時の俺は、エリカを何がなんでも助けたかった。

 

「理由なき刃はただの暴力。守るべき主君あってこその侍でござる。ソウジ殿もまた、立派な侍でござった」

「勇者から侍にジョブチェンジか。できたらよかったな」


 俺はベッドから起き上がる。

 

「どこかに行くのでござるか?」

「散歩だ」

「左様か。拙者はここに残るでござるよ」

「……わかった」


 俺は一人、部屋を出た。

 あの侍、剣術以外はからっきしだけど、意外と空気読めるんだよな。

 俺が一人になりたいのを察して残ってくれた。

 もっとも離れていても意識は通じているから、意思疎通はできるけど。


「見られてないってのは、多少気が楽だな」

「その気持ちはよくわかるわ」

「……」


 はい。

 一人タイム終了のお知らせ。


「何よその顔は」

「いや、なんでもない」


 エリカは何も言わずとも俺の隣を歩く。

 そのまま近くの窓際で止まった。


「身体は?」

「平気よ。そっちも回復したみたいね」

「一応」

「よかったわ。私のせいで死なれたら気分が悪いもの」


 心配するところそこかよ。

 相変わらず……。


「嘘よ。心配したわ」

「――!」

「何よ」

「いや、意外過ぎて」


 素直に心配してくれていたっぽい?

 エリカが、俺を?

 

「私を何だと思ってるのかしら」

「性格悪い姫様」

「殴るわよ」

「勘弁してくれ! まだ身体が重いんだ!」

「……はぁ」


 エリカは大きくため息をこぼし、廊下の窓を開ける。

 涼しい……少し寒い風が抜ける。


「これでわかったわ。結婚相手に王子はダメね」

「唐突だな。今回がよくなかっただけだろ」

「窮屈なのよ。ただでさえ束縛が多いのに、王子なんかと結婚したらもっと大変だわ。それは私が求める理想の相手じゃない」

「その理屈だと、身分高いのは全滅だな」


 平民で釣り合う相手を探すって?

 理想が高いのか低いのかわからないな。

 というか無理ゲーだろ。


「生活は快適でも、自由が何もないのは嫌なの。その点で言えば、この旅のほうがよっぽど気楽でいいわ。取り繕わなくていいし」

「姫様も大変だなー」

「そうよ。だからもっと労って、優しくしなさい?」

「俺にも少しくらい優しくしてくれ。これでも頑張ってるんだからな?」

「ふふっ、あなたにはもっと頑張ってもらわないと困るわ。私のためにね」

「こいつ……」


 やっぱり性格は最悪だ。

 こんな奴と結婚しなくて、カイゼルとかいう王子もラッキーだったな。

 魔王に乗っ取られていたのはある意味で幸運だったのかも。


 エリカが俺の顔をじっと見つめていた。


「……」

「なんだよ」

「不思議ね。この時間が、一番落ち着くなんて」

「気を使わなくていいからだろ? まぁ俺もだけど」


 秘密を知られているからこそ、変に演技しなくていい。

 アルカやセミレナの前じゃ、俺は勇者であり続けなければならない。

 けど、エリカの前なら……俺はただの宮本総司でいられる。


「理想の相手って、案外……」

「ん?」

「ううん、ありえないわ。さっさと回復したら出発するわよ。ここに理想の相手はいなかったみたいだし、次の街へ行くわ」

「お前凝りてないのかよ」

「当然よ。今回は失敗しただけ。運命の相手に出会うまで、私は諦めないわ」


 そう言ってエリカは歩き出し、立ち止まって振り返る。


「逃がさないわよ。最後まで」

「逃げられないだろ? わかってるよ」

「ふふっ、ならいいわ」


 エリカの後を追うように、俺も歩き出す。

 秘密を知ろうと変わらない。

 俺がやるべきこと。


 目的はただ一つ。

 勇者として魔王を倒し、無事に生き延びること!

 そのために必要なら、俺はなんだってやるさ。


 通販で購入した妖刀がガチだった。

 一万円は高い買い物だと思ったが、ここまで来ると安かったのかもしれない。

 幸か不幸かは別として。

 俺は今、誰も経験できないことをしているのだから。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

【あとがき】


これにて本編第一部は完結です!

ここまで読んで頂きありがとうございます!


この機会にぜひ、評価などして頂けると嬉しいです!

フォローもありがとうございます。


それでは第二部をお楽しみに!!

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通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~ 日之影ソラ @hinokagesora

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