結婚なんて許すまじ③

「遅いね。姫様」

「そうだな」

「少し心配ですね」

 

 宿屋を見つけ、無事に部屋をとることができた俺たちは、しばらく部屋でくつろいでいた。

 俺は人数分部屋をとるはずだったのだが、生憎部屋の数が少なく、二人部屋を二つしか取れなかった。

 誰が俺と一緒の部屋になるかという話し合いを、エリカが戻ってからするということになったのだが……。


「もう夕方だぞ」


 一向にエリカは戻ってこない。

 迷っていたとしても魔法があるから、帰還することは簡単だと思うのだが。

 さすがに少し心配になってくる。

 部屋の窓を開けて、エリカがいないか見てみることに。


「近くにはいない……ん?」


 なんか飛んできてるような……。


「痛ぇ!」

「勇者様!」

「大丈夫!?」

「あ、ああ……なんだこれ」


 紙飛行機?

 魔法が付与されていた。

 こんなことができるのはエリカだろう。

 一先ず無事みたいで安心する。


「えっと」


 紙飛行機を広げて中を見る。

 簡潔に一行。


 今夜は王城に留まることになりました。


「……は?」


  ◇◇◇


 翌日になってもエリカは戻ってこなかった。

 当初の予定では、王都に一泊したら出発するはずだったのだが……。


「手紙がきてたよ!」

「まだ王城にいるみたいですね」

「……」

 

 あの野郎、何を考えているんだ?

 予定を無視して王城に居座るなんて。

 どうして王城に留まることになったのか気になって、返事を書くついでに質問も投げかけておいたのだが……。


「手紙に質問の返事もあるよ!」

「なんて書いてある?」

「えっとね。街で偶然カイゼル王子と会ったから、だって!」

「王子?」


 街で偶然って、そんなことあるのか?

 

「王子様が相手なら、外交的な意味合いなのでしょうか」

「そうなのかな? じゃあまだ時間かかる?」

「……とりあえず待つか」


 理想の男を見つけてホイホイついて行ったのかと思ったが、王子相手なら王女として仕方なくってパターンもあるのか。

 いや、それなら俺たちも合流させろよ。

 イライラしながらも待つことにした。


 二日後――


「さすがに遅い!」


 未だにエリカは戻ってこなかった。

 毎朝手紙が来るが、まだ戻る気はないという内容ばかり。

 理由を尋ねても返事はない。

 いい加減我慢もできず、俺たちは王城へ直接聞きに行くことにした。


「すみません。ここにエリカ姫がいると思うのですが」

「あなた方は?」

「エトワール王国の勇者とその仲間です」

「勇者様でしたか! エリカ様なら確かに、数日前よりいらっしゃっております」

「案内してもらえませんか?」

「もちろんでございます。どうぞこちらへ」


 王城の衛兵に事情を説明して、中に入れてもらうことに成功する。

 こういう時、勇者という肩書はとても便利だ。

 不審者じゃなく、良い人とデフォルトで思って貰える。

 同盟国だからこそかもしれないが、お陰で王城の中にすんなり入ることができた。


 王城の廊下を進む。

 そこへ偶然か、それとも察してか。


「エリカ」

「あら? ソウジ……来ていたのね」


 エリカとばったり遭遇した。

 隣には青髪が特徴的なイケメンが一緒にいる。

 すぐに察する。

 彼がカイゼル王子なのだろう。


「何しにきたの?」

「迎えにきたんだよ。いい加減出発するぞ」

「……いかないわ」

「は?」

「私は彼と婚約することに決めたの」


 そう言いながら、エリカは隣にいるカイゼル王子の腕に抱き着く。

 アルカやセミレナも驚く。

 エリカの左手薬指には、すでに指輪がハマっていた。


「こ、婚約!?」

「それはまた突然ですね」

「おい……エリカ」

「私はここに残るわ。だから魔王討伐は、みんな言ってちょうだい」


 俺は苛立つ。


「勝手なこと言うなよ。ふざけてるのか?」

「ふざけていないわ。あなたは知っていたはずでしょう? 私はこの旅で、運命の相手を探していたの。魔王討伐はそのついでよ」

 

 ついでと言い切ったぞこの女。

 苛立ちは増していく。

 

「申し訳ない、勇者殿。私も不謹慎だとは思ったのだが、どうしても彼女と共にいたい衝動を抑えられなかったんだ」

「……衝動ってなんだよ。下心か」

「王子に対して失礼よ。ソウジ」

「何が失礼だ。勝手なことばかり言いやがって」


 どうしようもなく腹が立った。

 勝手なことをいうエリカに、なのだが……どうにもただの苛立ちじゃない。

 胸の奥がムカムカしている。

 どうしてこんなにも……苛立つんだ?


「冗談じゃなかったのか」


 理想の相手が見つかったら、魔王は任せると彼女は言った。

 冗談だと笑いながらだ。

 あの時の言葉は……。


「言ったでしょう? 私はこれが目的なのよ」

「……」

「そういうことだから帰りなさい。無事に魔王を倒せることを祈っているわ」

「あーそうかよ。わかった。じゃあもういい!」

「ソウジ君!」

「勇者様」


 俺は彼女に背を向けて、苛立ちながら歩き出す。


「一緒に旅して、仲間だと思ってたのは俺だけだったみたいだな」

「……」


 ああ、そうか。

 苛立っている理由がわかった。

 俺は彼女のことを、心のどこかで信じていたんだ。

 これからも魔王を倒すため、共に戦い、笑い合えるのだと。

 

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