モテ期到来、だと思いたい③

 アルカの部屋から出て、各々の寝室へと移動する。

 

「くそっ、なんで俺だけ下の階なんだよ」


 本来は同じ階の部屋で寝るはずだった。

 でもエリカが、俺のことを信用できないからという理由で、一つ下の階で寝ろと言ってくる。

 面倒だからと食い下がるが、立場的に彼女が上だ。

 逆らえるはずもなく、とぼとぼと階段を下る。


「心配しなくてもあいつは襲わないっての」

「ソウジ殿は、エリカ殿に気がないのでござるな」

「当たり前だろ? あんな性格悪い女……まぁ見た目は正直好みだけど」

「左様か。見た目はエリカ殿、正確はアルカ殿がソウジ殿のタイプでござるな」

「……なんでわかるんだよ」

「なんとなくでござる」


 精神を共有している弊害か。

 当たっているから否定もできない。

 プライバシーの欠片もないな。

 俺は小さくため息をこぼす。

 

 コトン、と。

 俺とは別の足音に気づく。


「誰かいるでござるよ」

「あれは……」


 地下へ続く階段を下っているのは、セミレナだった。


「なんでこんな時間に?」

「気になるでござるな」


 彼女は俺たちに気づいていなかった。

 少し考える。

 俺と小次郎の意見が一致する。


「追うか」

「拙者が先行するでござるよ」


 こっそり後をつけることにした。

 幽霊の小次郎がいれば、気づかれることなくルートが確認できる。

 なんて便利なんだ。

 あとはゆっくり、焦らず音を殺して移動するだけ。


「地下の牢屋に向かったでござるよ」

「牢屋?」


 悪徳公爵が捕まっている牢屋か。

 こんな時間に何をするつもりなんだ?

 少し嫌な予感がする。


「急ぐか」

「承知」


 俺たちは階段を下る。

 そして牢屋がある部屋の手前で立ち止まり、そっと中を覗いた。


「――あなたを解放してあげましょう」

「ほ、本当か!?」

「ええ」


 おいおい、冗談だろ?

 セミレナが悪徳公爵を解放しようとしている?

 どうして?

 まさか彼女も、裏で魔王軍と繋がっているんじゃないだろうな?


 見守っていると、本当に彼女は牢屋の鍵を開けてしまった。

 本格的にまずい状況だ。

 今すぐエリカを起こして伝えるか?

 

「た、助かった! こんな場所今すぐおさらばして――がっ!」

「……え?」


 ぐしゃ、と。

 悪徳領主の胸に穴が開いた。

 貫通しているのは、セミレナの細く綺麗な腕だった。


「なっ、に……」

「言ったはずです。あなたを解放してあげると」

「何を……」

「これで解放されますね? この世界からか」


 どさっと倒れる悪徳領主。

 心臓を一突きされ、即死した。

 遠目でもわかる。

 大量の血が地下牢の地面にあふれ出る。


「逃がすわけがありません。あなたは魔王に与した。女神様の加護を受ける身でありながら、その慈悲に背いたのです。万死に値します」


 すでに悪徳領主は死んでいる。

 言葉を投げかけても返事はない。

 だが、セミレナは倒れた悪徳領主を踏みつけて言う。


「あなたに言っているのですよ? 女神様に背いた愚か者! 懺悔なさい! 悔い改めなさい!」


 もちろん返事はない。

 踏むたびにぐしゃっと音がして、血が飛び散る。

 白い聖女の服が、赤く染まっていく。

 

「ああ、汚い。なんとおぞましい姿……これが女神様に背いた者の末路ですね」


 そのまま死体に向かって手を合わせ、祈り始めた。

 

「我が主に代わり、悪しき魂に鉄槌を下しました。見ていてください」

「……こ」


 怖すぎるだろ!

 なんだあれ?

 あれが彼女の本心なのか? 

 まったく聖女じゃないんだが……。


 あまりの恐怖に後ずさる。

 後ろに小石があって、踏んでしまった。

 音がする。

 当然、彼女にも聞こえる。


「あら? これはこれは……勇者様」

「ぅ……」


 バレてしまった。

 彼女は血まみれになりながら、俺に笑みを向けた。

 敵意はないのに、ものすごく怖い。


「あの……これは……」

「お見苦しいところをお見せしました。悪しき魂は浄化いたしました。ちゃんと清掃もしますので、どうかお気になさらないでください」

「いやいや、そうじゃなくて? そいつ、王国に引き渡すんじゃ……」

「必要ありません。この者は私が、女神様の代わりに罰を与えましたので」


 セミレナがニコリと微笑む。

 背筋が凍るようだった。

 このまま俺まで殺されるんじゃないかと思うほどの恐怖。


 ふと、彼女の胸元に目が行く。

 普段は服で隠れているが、今は少しはだけていた。

 見えたのは金属の円盤だ。

 女神の彫刻が彫られ、十字架を重ねたようなデザインの円盤……。


 見たことがある。

 エリカの授業を思い出した。


 この国にはいくつもの民間組織がある。

 中でも、王国が危険視する組織の一つがあった。

 女神を信仰する宗教団体。

 振興のためならあらゆる手段をいとわない過激派。


 その名は――


「『神の器』」

「よくご存じですね。さすが勇者様」


 嘘だろ?

 イカレタ宗教団体だとは聞いているが……。


「セミレナが、そのメンバーだったのか?」

「はい」


 彼女は胸元から宗教団体の証である円盤を取り出す。

 円盤を見せながら、優しく微笑み告げる。


「私は女神様を愛する者たちの楽園……『神の器』の教祖です」

「きょ……」


 こいつがトップかよ!!


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

【あとがき】


第五章はこれにて完結となります!

次章をお楽しみに!


できれば評価も頂けると嬉しいです!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る