モテ期到来、だと思いたい①

 後日談。

 悪徳領主の悪事は露呈し、しっかり捕縛された。

 街に放たれた魔獣の群れも、騎士とレジスタンスが協力して撃退。

 遅れて俺たちも合流し、なんとか被害を最小限で食い止めた。

 怪我人はでたけど、うちには聖女がいる。

 セミレナのおかげで、怪我人のケアも完璧だ。

 捕まった悪徳領主はというと……。


「くそっ! 出せ! 私にこんなことをしていいと思っているのか!」

「呆れたな。あんたはもう貴族じゃない。エリカにそう言われただろ?」

「くっ……こんなはずでは……」


 地下で獣人たちを閉じ込めていた牢獄に、まさか自分が入ることになるとは思わなかっただろう。

 王都へ連行し、処罰されるまでの間だが、いい気味だ。

 

「そこで獣人たちの苦しみを、少しでも味わうんだな」

「こ、後悔するぞ! 貴様らなぞ魔王に敗れてしまえばいいんだ!」

「はいはい」


 最後までちゃんと悪役してくれてありがとう。

 心から軽蔑できる。

 同情の余地もないし、無視して地上へ出る。

 外は夜だった。

 事後処理に一日使ってしまったから、ほとんど徹夜だ。


「ふぁーあ……」

「お疲れでござるな」

「いいよなお前は。眠くならなくて」

「幽霊でござる故」


 ゲームで徹夜には慣れているが、さすがに身体が怠い。

 一日中動き回っていたから。


「もう寝よう」


 時間的にエリカたちも休んでいる頃だろう。

 屋敷は領主がいなくなり、使用人も解放されて空っぽだ。

 今は俺たちが好きに使っている。

 廊下を歩いて寝室まで向かう途中で、ふいに呼び止められた。


「ソウジ君、こっち!」

「ん? アルカ?」


 手を引かれ、ベランダへ。

 なぜか彼女は獣人の姿のままだった。

 尻尾を振っている。


「なんでその姿なんだ?」

「えっと、よくわかんない!」

「わからないのか……」


 まぁ別に、今は屋敷に人はいないし問題ないか。


「あのね? ありがとう!」


 アルカは俺の手を握って感謝の言葉を口にした。

 唐突で驚いた俺は尋ねる。


「急にどうした?」

「お礼が言いたかったんだ! ソウジ君が僕の話をちゃんと聞いてくれたこと。獣人を助けるために、一緒の戦ってくれたこと!」

「ああ、そんなことか」

「そんなことかじゃないよ! 僕にとってはとっても大事なことなんだから!」


 ぶんぶんと握った手を縦に振る。

 一緒になって尻尾は横に振っていた。

 彼女も徹夜なのに、俺とは違って元気いっぱいだな。


「嬉しそうだな」

「うん! みんな助けられたから!」


 アルカは満面の笑みを見せる。

 地下に囚われていた獣人たちは、エリカとセミレナによって保護、救助された。

 怪我や病気になっている子もいたけど、ここでも聖女様が大活躍だ。

 一瞬で治療して元気になった。

 

 レジスタンスの面々も、騎士たちと協力して街を守った。

 その光景を見ていた住民たちから感謝され、彼らの存在を認めてもらうことができた。

 亜人種差別の思想は、貴族たちに根強い。

 一般人にとっては、そもそも関わりもなかったから、そこまで強くは浸透していないらしい。

 不安はあるが、助けられたことに感謝しているのも事実だ。


 しばらくの間、この屋敷で獣人たちは暮らすことになる。

 その手配もエリカがしてくれた。

 いずれは新しい領主が来るだろう。

 願わくは、その領主がまともな人で、亜人種を差別しない善人であってほしい。

 エリカが選ぶみたいだし、きっと大丈夫だろう。


 そんなわけで、この街で起こった事件は無事に解決。

 獣人たちも居場所を手に入れた。

 一時的かもしれないが、平和を守ったんだ。


「我ながらよく頑張ったな」

「ソウジ君凄かったよ! なんかいつもと雰囲気違ったけど」

「た、戦いの中で人は変わるのさ」

「へぇ、そうなんだ!」


 アルカが純粋で助かった。

 変に追及されると、絶対にボロが出るからな。

 エリカの時みたいに。


「ソウジ君、前に馬車で聞いたよね?」

「ん?」

「僕がなんで戦士のなったのか」

「ああ、聞いたな」


 何となくした質問。

 あの時は、秘密と言われ答えてもらえなかった。


「僕が戦士になったのは、勇者パーティーに選ばれたかったからだよ」

「え?」


 アルカはベランダから見える景色を眺めながら語る。


「強い戦士になって選ばれて、魔王を倒したい。獣人の血を引いてる私が魔王を倒したら、同じように苦しんでいる人たちも助けられるかなって」

「そういうことか」


 獣人、あるいは亜人種の社会的地位を改善する。

 アルカはそのために戦いを磨き、勇者パーティーに選ばれる戦士になった。

 自分のために、じゃなくて。

 同じように苦しむ誰かのために、というのが彼女らしい。

 

「いい理由だな」

「そう思ってくれる?」

「ああ。アルカの優しさが伝わってくる」

「えへへっ」


 嬉しそうに微笑む。

 きっと強さだけが基準じゃない。

 その無垢な優しさも、彼女が選ばれた理由なのだろう。


「秘密なのに言ってよかったのか?」

「うん! ソウジ君は特別!」

「特別か」

「そうだよ! ソウジ君なら話してもいいかなって! 笑わないで聞いてくれる気がしたから」

「俺じゃなくても笑わないと思うぞ? 少なくともエリカとセミレナは」

「そうだね。二人も笑わないと思う。でも……」


 アルカは俺のほうへ振り向き、もじもじしながら言う。


「ソウジ君に、一番に聞いてほしかったんだ」

「アルカ……」

「それにね? 相談、したこともあって」

「相談?」

「うん、えっとね……」


 もじもじするアルカ。

 言いにくい話ということは、また獣人絡みの相談か?

 せっかく頼ってくれているんだ。

 ここは年上のお兄さんっぽく振る舞おう。

 年上どうか知らないけど。


「なんでもいいぞ。話してくれよ」

「うん! その……なんか変なんだよ」

「変?」

「……ソウジ君を見てるとね? 身体がポカポカしてくるんだ」

「――え?」


 アルカは頬を赤らめて、上目遣いで俺を見る。

 なんだその相談は……。

 ポカポカって何?

 表情とか声が妙に色っぽいし。


「ポカポカ?」

「うん。それに、ドキドキする……心臓がうるさいんだ」

「そ、そうか……」


 おい、おいおいおい! 

 まさか?

 まさかなのか?


「ほ、他には?」

「ソウジ君のこと、ずっと考えてる」


 これは来たんじゃないか?

 この世に生まれて二十年!

 一度も来なかった春が、モテ期到来か!?

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