正しいのはどっち?⑤

「驚きました。まさかここにたどり着くとは」

「こっちも驚いたよ」


 自分から姿を見せるなんてな。

 でもこれで、手間が省ける。


「奴隷商売は禁止だぞ!」

「それ以前の問題でしょう。ここで何をしていたのですか?」


 エリカが問う。

 明らかに、ただの地下室ではないことは明白だ。

 公爵は笑みを浮かべる。


「御覧の通り、魔物の作っているのですよ」

「――! 何のために?」

「魔王への手土産です」

「なっ……」


 魔王だって!?

 こいつまさか……。


「魔王と繋がっていたのですね」

「驚きましたか? 意外と多いのですよ? 王国よりも、魔王が作る未来に期待する貴族は」

「……そうですか。知りたくはありませんでしたが……」


 王女として複雑な心境だろう。

 そして怒っている。

 お淑やかモードのエリカが、眉間にしわを寄せていた。

 怒っているのは彼女だけではない。 

 セミレナは嘆き、アルカは叫ぶ。


「なんて酷い」

「なんで獣人を捕まえているんだよ!」

「彼らの遺伝子は使える。優れた魔物を生み出すために有効活用しているんです」

「まるで実験動物みたいに……」

「まさにその通りですよ、勇者様。これは実験のために集めたサンプルです」


 心から嫌悪する。

 この領主はクズだ。

 獣人たちを道具としか思っていない。


「いいのかよ? そんなこと堂々と話して」

「構いませんよ。皆様にはここで死んで頂きます。ちょうどほしかったところです。開発した魔物の性能テストの相手が」

「ソウジ殿」

「わかってる」


 俺でも感じる獣の視線。

 一つや二つじゃない。


「知られたのは不運でした。ですがここで勇者パーティーを消せるのは、私にとっては幸運! 魔王への手土産にこれ以上のものはないでしょう!」

「……残念だけどさ? あんたに未来はないよ」

「強がりですね」

「いいや、事実だ!」


 俺たちの背後に、大きなスクリーンが展開されている。

 そこに映し出されているのは街の光景。

 皆が空を見上げている。

 空に浮かんでいるのは、同じスクリーン。

 映っているのは俺たちだ。


「魔法スクリーン。魔導具で使われている映像技術の応用です」

「ま、まさか……」

「全部自分で話しちゃったな!」


 エリカの魔法で、この場の光景を街へ投影していた。

 すべて聞き、見ている。

 領主が魔王軍と繋がっていたこと、地下で奴隷を集め、魔物を作る実験をしていたこと。

 恐怖だろう。

 驚くだろう。

 パニックになるかもしれないが、今は仕方がない。

 大事なのは、このクソ野郎の悪事をばらすことだから。


「き、貴様ら……」

「これで領主を続けるのは無理だな」

「観念しろ! みんなを解放するんだ!」

「ふっ、はっ! ならば簡単です。街もろとも全て消してしまいましょう!」


 公爵は手に持っていたリモコンのボタンを押した。

 直後、液体の中にいた魔物たちが解放される。

 

「ソウジ!」

「――! 街のほうでも?」


 映像に、街で魔物が解き放たれる様子が映っていた。


「ははははっ! 実験施設がここだけだと思いましたか?」

「街中にあったのか!」


 まずいな。

 街の人たちが危険に晒される。


「ソウジ君! 前!」

「――!」


 衝撃と爆発が地下室を包む。

 そのまま階段を煙が立ち上り、入り口ごと地上へ押し出された。

 俺たちはエリカの結界に守られ、転がるように外へ出る。


「助かった。エリカ」

「地下の人たちは!」


 慌てるアルカ。


「大丈夫です。結界で防ぎました」

「よかった……」


 安心している場合じゃない。

 俺たちの前に、巨大な魔物が地下から飛び出す。

 ライオンのような胴体に、尻尾は蛇。

 背中に鳥の翼と、爪は猛禽類のように鋭い。

 そして頭は三つ、狼の形。

 寄せ集めのキメラだ。

 背中には悪徳公爵が乗っている。


「これこそ私の最高傑作です!」

「フレアバースト!」


 間髪入れず、エリカが魔法を放つ。

 豪快な炎の渦。

 しかし、キメラは結界を展開して防御した。


「魔法を防いだ?」

「残念でしたね姫様? この魔物に魔法は利きませんよ」

「なら物理攻撃しかないか」


 俺は妖刀を抜き、アルカも大剣を構える。

 エリカが俺に言う。


「ここは二人に任せましょう。私とセミレナで地下の人たちを救助しに行くわ」

「え」

「うん! お願い!」

「ちょっ――」


 勝手に決めないでくれる?

 エリカの援護なし、セミレナの回復もなしで、このキメラと戦うのか?

 

「拙者もいるでござるよ」


 そうだな。

 いざとなったら小次郎にチェンジしよう。


  ◇◇◇


 街に放たれた魔物たち。

 常駐していた騎士たちが応戦する。


「くそっ! こんなことになるなんて……」

「怯むな! 住民を守るんだ!」 


 パニックが起こり、騎士たちも慌てていた。

 すべての魔物をカバーできない。

 魔物は無慈悲に、住民を襲う。


「いやああああああああああ!」


 叫ぶ女性。

 襲い掛かる魔物から血しぶきが舞う。


「え……」


 魔物は倒れ、代わりに立っていたのは人であり獣の姿。


「じゅ、獣人?」

「動けるならさっさと避難しろ」

「ど、どうして?」


 獣人と人間の格差は、一般人でも知っている。

 彼らが人間を助ける理由などない。


「彼らは約束を守ってくれている。なら俺たちも、相応の働きはするだけだ」


 レジスタンスの面々が騎士たちに加勢する。

 いざという時に街を守ってほしい。

 総司たちから予めそういうお願いをされていた。

 彼らは義理堅い。

 人間よりも。


「行くぞ!」

「おう!」


  ◇◇◇


 街のほうは大丈夫だよな。

 あいつらが約束を守ってくれているといいが……。


「今は目の前の敵に集中するでござるよ」

「――! わかってる!」


 三つの頭のうち、右は炎を吐き、真ん中は水を吐き、左は雷を放つ。

 尻尾の蛇は毒の液体を噴射する。

 翼は空を飛ぶこともできるようだ。

 それぞれの長所を混ぜ合わせたような性能に、魔法まで使えるのか。


「やりたい放題かよ!」

「ソウジ君!」


 鋭い爪の一撃をアルカが大剣で防御してくれた。

 その隙に首を狙う。

 左の首を切断するが、すぐに生成する。


「なんと!」


 小次郎も驚く再生の速さだ。

 一旦退く。


「あの再生力が一番厄介だな」

「うん」


 再生するからなのか、キメラは攻撃に集中している。

 防御や回避は一切しない。


「どうかな? この魔物は痛みも感じない。魔法は弾き、攻撃を受けても即時に回復する! 死角はない!」

「……得意げに言ってくれてるけど、こういうタイプの敵ってさ? 大体攻略法一緒なんだよな!」

「なんだと?」


 考えはある。

 ただし、今の俺じゃできない。


「アルカ、力を貸してくれ」

「うん!」


 彼女にも作戦を耳元で伝える。

 俺一人じゃ無理だ。

 そう、俺だけじゃ――


「というわけで、頼んだぞ」

「任されたでござる」


 妖刀の力を解放、憑依させる。

 

「獣退治と参ろうか」


 一瞬で間合いを詰めた小次郎は、キメラの前足を切断する。

 それによって前に倒れ込む。

 そのまま続けて後ろ足も切断した。


「伏せ、でござるよ」

「――! な、なんだ? 動きが急に――」

「ソウジ君! 凄い……」

「くっ、だかその程度すぐに再生する!」

「知っているでござるよ」


 再生の隙をつくるため、頭の一つが小次郎に向く。

 自分ごと炎で燃やす気だ。


「真・巌流――蕾裂き」


 放たれた炎を――


「斬っただと!?」


 驚く領主に目もくれず、小次郎は三つの頭を同時に切断した。


「これでよいでござるな?」

「ああ!」


 こういうタイプの敵は、頭を同時に潰せば倒せる。

 それでダメなら一撃で全身を消し去るしかない。

 ゲーム知識だけどな!

 

 焦る悪徳公爵。

 当たりか?


「ふっ、残念でしたね! ハズレですよ」


 キメラの再生が始まろうとしていた。

 

「正解のようですござるよ」

「なっ!」


 今ので確信したよ。

 視線が一瞬、最後の一つに移った。

 そう、キメラの頭は三つじゃない。

 

「アルカ殿!」

「これで!」


 四つ目の頭、尻尾の蛇。

 すべての頭を同時に切断する。

 これがキメラの再生阻止。


「ば、馬鹿な!」

「大当たりだ」


 キメラの身体が崩壊していく。

 背中に乗っていた悪徳領主が落下し、慌てて逃げ出そうとした。

 アルカが大剣を地面に突き刺す。


「ひぃ!」

「逃げられないよ!」

「こ、こんな……」

「観念するんだな」


 こうして俺たちは、勇者パーティーとして悪を成敗した。

 悪魔や魔王だけが悪者じゃない。

 世の中には、種族関係なく悪いやつはいるってことだ。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

【あとがき】


第四章はこれにて完結となります!

次章をお楽しみに!


できれば評価も頂けると嬉しいです!!

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