正しいのはどっち?①

 翌日の朝。

 俺たちは町を出発する。

 見送りには町の皆が集まってくれた。

 町長とエリカが話している。


「本当にありがとうございました。旅のご無事をお祈りしております」

「いえ、こちらこそ。馬車まで頂いてしまって」

「構いません。町を救ってくださったことに比べれば、馬車くらい安い物です」


 エリカが笑顔で返す。


「ありがとうございます」


 バルバトスに襲撃された際、馬車はテレポートできなかった。

 場所はわかるから戻って確かめたところ、普通に木っ端みじんにされていた。

 馬車を失ったことを相談すると、町長が快く余っていた馬車を譲ってくれて、食料や旅に必要なものまで用意してくれた。

 何から何まで申し訳ない。

 あちらからすれば救われたことになるが、実際は巻き込んだだけだからな……。


「どうかご武運を」

「ばいばーい! 勇者のお兄ちゃんたちー!」


 子供たちも一緒に手を振ってくれる。

 とりあえず、誰も死ななくてよかった。

 彼らが安心して暮らせる世界にするために、俺たちがいる。

 そのことを改めて実感した。


 さてと……。


「アルカ、操縦代わろうか?」

「別にいいよ」

「いやでも、ほら。大変だろ? 女の子には」

「いいよ! どうせ僕なんて、女の子と思われてないからね!」


 プンとアルカは怒ってそっぽを向いてしまった。

 昨日、彼女の性別を間違えていたことが原因だ。

 完全に俺が悪い。

 謝罪はしているのだが、機嫌が直ってくれない。

 どうしたものか……。


「なぁエリカ」

「私に聞かれても困ります」


 ニコッと笑顔が帰ってきた。

 自分で考えろ、と顔に書いてある。

 続けてセミレナにも助けを求める。


「あの……」

「誠意をもって謝罪すれば、彼女も許してくれるはずです」

「……はい」


 なんて綺麗な言葉なんだ。

 謝ってる。

 心から謝罪している。

 でもまったく許してくれないんだよ!


「乙女心は難しいござるなぁ」

「……」

「拙者に聞いても無駄でござるよ? 拙者、剣術のこと以外は不慣れ故」


 最初から期待してない。

 俺は小さくため息をこぼす。

 これからも旅は続く。

 嫌でも長い付き合いになるんだ。

 このまま蟠りを放置するのはよくないと思う。

 俺はアルカの隣で移動した。


「アルカ、本当にごめん」

「……別にいいよ。僕が女の子らしくないのは知ってるし」

「いや、その……言い訳になるけど、戦士って男のイメージがあって、一人称も僕だったからさ」

「……」


 違う違う。

 こんな言い訳をしたって解決しない。

 もっとこう、仲直りできるいい話題はないのか?


「容姿を褒めるというのはどうでござるか?」


 容姿を?


「見た目を勘違いしてしまったのが原因であろう? ならば逆に、女子としての容姿を褒めるでござるよ」


 な、なるほど……一理あるな。

 ナイスだ小次郎!

 意外と役に立つじゃないか!


「思いつきでござるよ」


 だがありがたい。

 よーし、そうと決まれば実戦だ!


「あのさ、アルカ」

「……何?」

「えっと……アルカって、よく見ると可愛いよな」

「……」


 ダメだぁあああああああ!

 恋人どころか女友達すらいない俺に、女の子の容姿を褒めるなんてハードルが高い!

 自分のボキャブラリーの無さに怒りすら感じる!


「失念していた。お主は童貞というものでござったな」


 うるせーぞ!


「……か、可愛い?」

「え?」

「僕……可愛い、かな?」


 おや?


「おや? これは……」


 予想外の反応。

 アルカは頬を赤らめて、ちょっぴり嬉しそうだった。

 俺と小次郎の意見が一致する。


「あ、ああ! 可愛いと思うぞ! 男と間違えてた俺が言っても説得力ないけどさ? 美少年だなって思ったんだ。女の子ってわかった今は美少女にしか見えない」

「美少女……そっかぁ」


 ニヤけた表情。

 小次郎、これはもしかして……。


「そうでござるな」


 チョロいな、こいつ。

 ちょっと褒めただけで絆されたぞ。


「攻めるでござるよ」


 だな。

 このチャンスを逃すわけにはいかない。


「髪とか伸ばしたらどうだ? もっと美少女になるぞ」

「そ、そうかな? 伸ばしてみようかな……で、でも戦う時に邪魔だし」

「それなら結べばいいんだよ。いろんな髪型もできるしさ」

「確かに! ソウジ君頭いいね!」


 こうして一時間が経過した。

 

「そっかー! 僕ってそんなに可愛いんだ!」

「ああ」

「一目ぼれしちゃうくらい?」

「そうだな」

「えへへへっ、照れるなぁ」


 アルカの機嫌は直った。

 というか、以前よりも高感度がアップした気がする。

 なんて簡単なギャルゲーなんだ。

 この一時間、適当な言葉で褒め続けただけだぞ。

 後ろからエリカに、何してるんだみたいな目で見られたが続けた。

 偉いぞ俺!


「ありがとね」

「え?」

「僕ね? 格好いいとか、強いって言われることはあっても、可愛いって言われたことないんだ」

「そうなのか?」

「うん! だから嬉しかった!」


 アルカは満面の笑みを見せる。

 花が咲いたように笑う彼女に、思わずドキッとする。

 ご機嫌取りで褒めまくったが、別に嘘はついていない。

 女の子だとわかってから見ると、彼女はちゃんと可愛い女の子だ。

 小柄で、大剣なんて似合わないような……。


「なぁ、アルカはなんで戦士になったんだ?」

「え? どうして?」

「気になったんだ」

「そうだねー。うーん、夢を叶えるため、かな」


 アルカは空を見上げながらそう呟いた。


「夢って?」

「内緒!」


 そう言って教えてはくれなかった。

 彼女の夢とは何だろう?

 この旅の中で、知る機会はありそうだ。

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