幽霊が仲間になりました④

「バルバトスとの戦いもおかしかったわ。まるで別人みたいだった」

「……」

「言いなさい」

「……へ、変人だと思わないか?」

「安心しなさい。あなたの評価が今以上に下がることはないわ」

「こいつ……」


 もう十分下だから、何を聞いても驚かないって意味か?

 馬鹿にしやがって……。


「いいから言いなさい。私はね? 秘密にされるのが嫌いなの」

「自分だって秘密が多いくせに」

「何か言ったかしら?」

「な、なんでもない」


 これは逃げられないな。

 観念した俺は、小次郎のことを説明した。


「なるほどね。妖刀に宿る武人の魂……それを憑依させたから、あんな芸当ができたのね」

「ああ、俺も初めて知った」

「今もいるの?」

「いるよ。ちょうどこの辺りに」


 ジェスチャーで小次郎の位置を伝える。

 彼女には見えていない。


「直接話を聞きたいわね」

「憑依させろって? あれ身体に負担かかるから多用したくないんだよ」

「じゃあこうしましょう」

「へ?」


 唐突に、エリカは俺の手を握った。

 

 なんだ?

 なんだなんだ!

 急に手なんて……。


「何を慌てているの? 気持ち悪いわよ」

「うるさいな! 急になんだよ」

「【コネクト】――感覚を共有する魔法には、相手に触れる必要があるの」

「感覚の共有?」


 俺の手を握ったエリカの瞳は、小次郎の姿をとらえていた。

 小次郎とエリカが視線を合わせる。


「なんと! 拙者が見えているのでござるか?」

「声も聞こえているわ」

「これが魔法! この世界の妖術でござるか! お主は芸達者であるな!」

「褒めてくれてありがとう。あなたが妖刀に宿る魂ね」

「いかにも。拙者、名はわからぬ故、小次郎と名乗ることにした。見ての通り、侍でござる」

「サムライ?」


 この世界にはなじみのない単語に、エリカは首を傾げる。

 俺に説明を求めるように視線を向けた。


「俺の世界の、古い騎士みたいまものだよ」

「そうなの。あれだけの力があるなら、さぞ有名な方だったのでしょうね」

「いやいや、拙者などまだまだでござるよ」


 こいつ凄いな。

 俺でも初めて小次郎の存在を知った時は、驚きのほうが強くてちゃんと会話できなかったのに。

 半透明の見慣れない男を前にして、普段通りの対応力……。


「肝の座った御仁でござるな」

「だな」

「これでも王女よ? いろんな人間と関わってきたわ。この程度じゃ驚かないわよ」


 少しホットする。

 俺のことを馬鹿にしているのは癪だが、そうじゃなくても変人と思われることはなかっただろう。

 

「これで合点がいったわ。あの時のあなたの強さが」

「ああ、小次郎を憑依させれば魔王軍幹部だって倒せる。これなら今でも、魔王を倒せるんじゃないか?」

「そう簡単じゃないわ。魔王は悪魔の中でも別格よ。幹部とは比較にならないわ。その気になれば魔王一人で、世界を亡ぼせると言われているのよ」


 ごくりと息を呑む。

 そこまで圧倒的な強さなのか。


「それほどに強いのか。魔王とは」

「ええ。この世界で最強の存在よ」

「――立ち会ってみたいでござるな」


 小次郎は笑みをこぼす。

 子供のような……けれど、狂気に満ちた笑顔だ。


「こいつも乗り気だし、なんとかなるだろ」

「楽観的ね。確かに彼は強い。でも、力には相応の代償があるものよ」

「わかってるよ。体力づくりは毎日やる」

「そうじゃないわ」


 エリカは難しい表情を見せる。

 いつになく真剣な雰囲気に、思わず背筋が伸びる。


「気づいていないようだけど、私の予想が確かなら、あまりその力は多用しないほうがいいわ」

「だから体力づくりは――」

「違うでござるよ」

「小次郎まで、なんなんだよ」

「先ほどの話の続きでござる。拙者が言うことではござらんが、このまま力を使い続ければ、お主の魂はいずれ妖刀に呑まれて消える」

「……は?」


 き、消える?

 突然の話に頭がぽかーんとなる。

 エリカは頷き……。


「やっぱりそうなのね」

「左様。エリカ殿は頭がよいでござるな」

「ソウジよりはね」

「くっ……」


 俺だけ察していなかったから否定できない。

 でもムカつく。


「呑み込まれるってなんだよ」

「お主の肉体から、総司の魂が消えるのでござる」

「な、なんで?」

「拙者の妖刀の力が強すぎるのあろう。原理はわからぬが、拙者にも制御できない故、どうすることも叶わぬ」


 いやいや冗談だろ?

 意識が消滅するって、それ死ぬってことだろ?

 魔王の前に刀に殺されるのか、俺!


「ふっざけんなよ!」

「怒っても未来は変わらないわよ?」

「左様。そうならないためには、お主が成長し、拙者の刀を使いこなす器となるしかないのでござるよ」

「……最悪だ」


 希望が見えたかと思ったら、蓋を開ければバッドエンド。

 死亡エンドの可能性が、また一つ増えてしまった。


  ◇◇◇


「はぁ……」

「あれ? 長かったね! ソウジ君」

「アルカか。お前、頬にソースついてるぞ?」

「え? あ、ホントだ! えへへへっ」


 楽しそうに宴会を満喫していたアルカ。

 俺はというと、知りたくなかった真実を聞いて絶賛テンションが下がっている。


「どうしたの? 元気ないね?」

「まぁな。ちょっと疲れたんだ」


 いろいろ考えることが増えて。


「そうなんだ! じゃあお風呂でも入ってきたら?」

「風呂か」

「うん! 疲れた時はお風呂がいいよ! スッキリするし、僕も好き!」

「確かに一理あるな」


 町長の家の風呂は自由に使っていいと言われている。

 申し訳ない気持ちだったが、今は疲れを癒す時間がほしい。

 悪くない提案だ。


「よーし! じゃあ一緒に風呂でも入るか!」

「そうだね! って、い、一緒に!?」

「おう! せっかくだしな!」


 俺はアルカの肩を組む。

 いい提案をしてくれたからな。

 パーティーの男同士、親睦を深めるのも悪くない。


「だ、ダメだよ! 一緒になんて入れないから!」

「なんでだよ? 別にいいだろ?」

「よくないよ!」

「何を恥ずかしがってるんだ? 男同士なんだから問題ないだろ?」


 照れていたアルカ。

 この一言をきっかけに、表情が固まった。


「アルカ?」

「ぼ……」

「ん?」

「僕は女の子だよ!」

「ふぇ!」


 バチンと平手打ちがさく裂した。

 衝撃と音で倒れ込む。


 お、女の子だったのかよ!


「気づいていなかったのでござるか?」

「お前……知ってたのか」

「当然でござる」

「言えよ!」


 本当にどうなるんだ……。

 この先の旅が不安でたまらない。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

【あとがき】


第三章はこれにて完結となります!

次章をお楽しみに!


できれば評価も頂けると嬉しいです!!

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