第21話 黒紫憧さんと4月の日々⑪

 コケコッコー

 コケコッコー


 黒紫憧こくしどうさんはマイクを置き、それから予想された、いや予想以上に綺麗な所作で茶道の魅力を披露する。


 チキンであるところのぼくに、どうこうなんてできやしない。雄大なつばさは、風を受ければ勝手に高く高く舞い上がっていくのだから。


 でも、その風を後押しすることはできる。


 パフォーマンスを終えた時、ぼくだけが注目しているだろう彼女の肩が、小刻みに揺れているのが分かる。


 黒紫憧こくしどうさんはスーパー・レディだが、パーフェクト・ヒューマンではない。だから綺麗で、だから魅力的なんだ。


 三月に入る前、もう覚えてないことになったあの時だってたしか――――。


「いいよ。すごいよ!! 入る入る、ぼくも部活動に入るよぉぉぉぉ!!」


 自分のキャラに似合わない、とても大きな声を出した。黒紫憧こくしどうさんに伝わるよう、平安時代の武士なら合戦前に名乗りで上げただろう、それはそれは大きな声だ。


 周囲がビックリしているが、続いてぼくは拍手はくしゅする。とても笑顔で、嬉しそうに。この場のみんなは緊張しているんだ。疑いすぎて。だからちょっとバカな人間が居れば、心に余裕が生まれ、いつもの日常へとかえる。


 無音で終わっていた部活動紹介は、けれどぼくのちっぽけな拍手はくしゅなんかかき消すような重ね手で黒紫憧パフォーマーさんを見送り、そして次を迎えた。



 嘘か真実か、誠実か。


 そんなのは信じたいように信じればいい。


 そもそも部活動に入って失敗したところで、消費者金融に飛び込むような事態にはならないんだから。


 躊躇ちゅうちょするだけ損だ。


 なあ、自宅警備部ぼく

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