第7話 クラス③

「ふや? ダレだ!!」


 心のツッコミを留めることができずに自分の存在を明かしてしまうと、ダメな雰囲気の人はソファーから跳びあがり、パーテーションの背までやってきた。


 見た目は二十代半ば~後半くらいの、腰まで伸びる茶色がかった長髪に、丸眼鏡をかけた、教師というよりは科学者みたいな雰囲気の女性だ。くりくりっとした目つきをしている。


 その某先生は、怪訝けげんそうな表情でぼくを観察すると、一度咳をし、低めの声を絞り出した。


「アー、迷える子羊よ。ようこそ生徒指導室へ。ワタシは二年の学年主任、救世ぐぜ導子どうこです。以後、ドウぞ」


「おごそかな名前ですね?」


「どうしたのかな。迷える子羊よ? HAHAHA。さては道に迷ったかな? しかしここは生徒指導室、指導される予定の生徒だけしか入っちゃいけないんだ。この意味がわかるかな?

そしてワタシは二年の学年主任でもある。この意味がわかるかな? きみはおそらく新入生だろう。チビだし。つまりそういうことだ?」


 迷子の、しかも新入生は、管轄外なので他を当たれという意味だろう。教師としてどうなんだ? だれがチビじゃ!


「ぼくは二年生です」


「チッ!」


 チッ!? おい、導き手!


 救世ぐぜ先生は露骨なため息をついたと思ったら、ムーンウォークのように後ろに下がり、そのままソファーに腰を下ろす。ちょいちょいと手招きするので、ガラステーブルを挿んで応接イスに座った。


「ナンノヨウだよー」


「露骨っ! せめて体面くらいつくろいなよ!」


「最初から見てたんだろー? 視線をみればわかるヨー。ぶー、ぶー」


 救世ぐぜ先生はねた子供みたいに天を仰ぎ、ブタの鳴き声を発した。毒気が抜かれる人ダナ。ツカレタヨー。


 思っていたのと違うキャラに胸やけを覚えていると、救世ぐぜ先生は「あ!」と言って指差してくる。


「なんだ。お前、白日はくじつゆうひじゃん!」


「ぼくのこと知っているんですか?」


「うん。どこで覚えたか知らんが、なぜか名前は思い出せたぞ。ナンデカナ!」


 テキトー、ちょうテキトー。こんな先生が昇進できるとかぼくらの未来は明るいなー。もう……怒る気も失せた……。


「で、ほんとうにナンノヨウ?」


 お猿さんみたいに無邪気な顔をしてくる、年上の美人なお姉さんであってほしかった教師に経緯を話す。


 

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