第6話 クラス②

 クラス分けの掲示板に自分の名前が載っていないのはどうしてか?


 もしかしてぼくは気づかぬ内に天寿を全うして幽霊になってしまったのか。ごめんな、妹よ。ちょくちょくお前のおやつを食べていたのはぼくだ。無条件でゆるせ。


 しかし今日、ぼくは黒紫憧こくしどうさんと一緒に登校した。さち薄そうなぼくはともかく、高貴な雰囲気をまとっている彼女までも実は、なんて考えづらい。だからぼくは存命。


 じゃあ、なんでか?

 答えは簡単だろう。教師が普通に入れ忘れたのだ。


「ダメ、大人がああっ――――!!」


 先程までの似合わないシリアス空気にストレスを貯めた反動で、ぼくはそう叫んだ。黒紫憧こくしどうさんが吃驚びっくりしてちょっと跳ねている。ぼくが肩で風を切って進路変更し出したので、黒紫憧こくしどうさんは慌てて声をかけた。


「え、あの、白日はくじつくん。ご、ごめんなさい。私、なにが何だか――」


「ちょっと寄るところあるので、ぼくはこれで! じゃあね黒紫憧こくしどうさん、お元気で!」


「え、え、え?」


 怒りに任せ、ぼくは職員室に向かった。



 職員室で事情を話すと、二年の学年主任が犯人だと判明した。その所在を尋ねると生徒指導室にこもっているらしい。こもる…? ぼくは速足でそちらへと向かう。


 似つかわしくない怒りを披露ひろうしているが、正直ぼく自身へのぞんざいな扱いより、先刻さっきからチラチラと脳裏に浮かび上がる黒紫憧こくしどうさんの落ち込んだ様子が、原因であった。

 いや別にぼくのクラス配置がどうとか関係ないかもしれないんだけど。


 でもこう、もやもやするんだ!!

 とっちめてやらねば!!



 生徒指導室に到着すると、もうわざわざノックして呼び出すのも馬鹿らしくなったのですこし乱暴に開ける。壁とパーテーションに挟まれた通路が伸びており、突き辺りから左へと空間が続いていた。パーテーションの角から様子を覗くと、応接用にソファーとテーブルが設置され、そのソファーの上で寝転んでいる人がいる。手足をバタバタとさせながら。


「あー、やぢゃやぢゃ。新学期の準備に年間行事の計画に生徒からの好感度あげに先輩のグチ付き合い、おまけに教頭からの無茶振り。ダルイ、だるいよぉー、もう!」


 くだんの人物であろう学年主任の姿を目の前にして、理性がストップをかける。いやまさか。そんな訳ない。これがそんな。だって学年主任ってことは、大人の中でも出来る人ってことでしょ。成人して大分経つってことでしょ。それをこんな、うちの妹みたいな--。


「ワタシ偉いんだぞー、昇進したんだぞー。早く家に帰るために仕事をテキパキこなしていたら責任ばかり増えやがって。このダメ社会!!」

 

 …………。


「学年主任になって、クラス分けだって立派に務めたんだからな!」


「いや出来てないんだよ!!」


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