第12話 【大蛇】

緑の翼…。

聞いたことがある。猛毒の持ち主だとか。

あれ、こいつの主食って…。


「まずいな。」


「はい、『触れただけで』ですからね。」


閻魔が恐れているのはそんなことではない。

緑の翼を持つ、猛毒の持ち主。

耕地の上を飛べば、作物がすべて枯死してしまうという言い伝えがある、鴆という妖怪だ。

その鴆と言う妖怪は…


「違う。大蛇が危ない。」



蛇を主食とする妖怪だからだ。



その頃、大蛇は酒呑童子の攻撃に苦戦していた。


「おいおい、どうしたさっきの威勢はァ!」


金棒が振り回されることで、閻魔街の店や家が破壊されるため、大蛇はそれを守りながら戦っていた。


「オラァ!!」と言う声と共に、また金棒を振り回す。地面が割れ、その破片が建物の方へ飛んでいくと、大蛇は大きな蛇を出して建物の周りを囲んだ。

すると、大蛇の背後を取った酒呑童子が金棒で背中を叩く。

体制を崩した大蛇の横腹にも金棒をくらわせる。


「ガハッ……」


まずい、直でくらった。

クソ…、周りがぼやける……。

俺がここで倒さねぇと、後ろの奴らも建物も危ないのに…。


意識を保て…。


俺が、やられねぇと…。


意識を保つのに精一杯の中、遠くの方から砂が「ジャリッ」と音を立てた。


「こんにちはぁ。傷だらけですねぇ。」


血反吐を吐きながら跪く大蛇の目の前には、緑の翼を持った少年がいた。


「こんなに、血も出しちゃってぇ…。美味しそぉ…!!」


大蛇が、警戒していると頭に直接声をかけられている感覚に陥った。

そう、閻魔からの通信だ。


閻魔は、閻魔街にいる妖怪や獄城で働く妖怪に通信を送ることができる。

だが、閻魔からの一方的な通信のためやり取りはできないのだ。


『大蛇、今すぐ持ち場を離れて儂の所に来い。来る途中に、鴆という緑の翼を持った者からの襲撃に気をつけろ。そいつは、触れただけで毒が移る。』


すまん、閻魔様。

もう、襲撃は開始されてるみてぇだわ。


まずいな、酒呑童子相手に鴆も相手するって無茶だろ…。

触れただけで…か。

ばぁちゃんに、言われたことがある。

俺達、蛇を主食とする鳥がいるっていうことを。

こいつのことだったのか。


せめて、酒呑童子だけでも倒さねぇと…。


「最近、大好きな蛇さんが全然いなくてぇ…。君、強そうだからきっと今までで一番美味しい気がするぅ!!」


鴆が大蛇に飛びつこうとすると、酒呑童子が鴆の前に金棒を振り下ろした。


「おいおい、こいつは俺と戦ってんだァ。邪魔すんなら殺すぞォ?」


酒呑童子はそう言うが、後々鴆のことも殺すに違いないだろう。


「だめだめぇ!せっかくの大物なんだからぁ!」


二人が言い争っている姿に、大蛇はだんだん怒りを感じていた。


「お前らさっきから、語尾伸ばしてねっとり喋りやがってうぜぇんだよ!!普通に喋れねぇのか!!?」


どうやら、大蛇はねっとり喋る奴が苦手らしい。


「そんなこと言うなァ。結構、おじちゃん傷つくんだぜェ?」



戦っている間にも関わらず、喋り方の話をしているのは上級妖怪の『余裕』というものなのだろうか。


「ねぇ〜、そろそろ戦おうよぉ。お腹すいたぁ〜。」 


「だから、大蛇の相手は、俺だってのォ!」


酒呑童子が鴆の方を向いた瞬間、大蛇は間合いに入って毒蛇を酒呑童子の首元に出した。


「しまっ…!!!?」


大蛇の方を見た時には、しっかりと蛇が首筋を噛んでいた。


「油断禁物。もう、終いだ。」


泡を吹きながら、ガクガクと震え横に倒れた酒呑童子は、あまりにもさっきまで戦っていたとは思えない痩せほせた無惨な姿だった。


だんだんと、体が塵となって消えていく。


「くっせ。」


そう思いながら酒呑童子が消えている姿を見ていると、ふいな殺気に大蛇は振り向く。


「おぉ!すごぉい!倒した!これで君のこと食べれるね!」


しまった…。こいつもいたんだ…。

毒蛇は即効性もあるし、一度噛んじゃえば大抵の妖怪は殺せるから、妖力も結構喰う。

酒呑童子の攻撃をくらったせいで、呼吸するだけでも痛ぇってのに。



「もぉ〜、そんな警戒しないで〜!」


鴆が肩に手を置こうとした瞬間、大蛇がそれを避ける。


「なぁんだ、知ってんだぁ。つまんな。」


さっきよりも、凄まじい殺気が大蛇を襲う。


その殺気で、大蛇は自分の勘違いに気づく。


こいつは、俺と同等か少し下だと思ってた…。


違う…。


こいつ、俺よりも強い…。



「あ、気づいたぁ?力の差!!」


鴆が大蛇の横腹に蹴りをいれる。


「ガハッ…。」


まずい…、視界がぼやけ…


大蛇が倒れかけた、その瞬間聞き覚えのある声が聞こえた。


「おぉ、大蛇ボロボロだなぁ!まぁ、酒呑童子を一人で殺ったなら、そんなもんか!後は、ワイに任せろ!」


餓者髑髏は、指を一回パチンと鳴らすと鴆の動きが止まった。


餓者髑髏の能力は、指を一回鳴らすと特定のものの動きを止める。

指を2回鳴らすことで、この世の全ての時間を止めることができるが、妖力を失う量が多いため頻繁にはやらないそうだ。

また、時を戻したり進めたりすることもできるそうだ。



「ほいじゃ、ふんっ!」


羽織に隠していた、妖力がこもったナイフで鴆の首を切り落とす。


「こいつ、毒持ってるからか普通の妖怪よりくせぇな。おーい、大蛇倒したぞ〜。って聞こえてねぇか。」


餓者髑髏は、気を失った大蛇を抱きかかえ悟の所へと向かったのだった。



次回 高良

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