第10話 【大禍時】

翌日、高良は慌ただしい物音で目が覚めた。

獄城内は、今日の大禍時の準備で色々な妖怪が廊下を駆け回っていた。


高良が寝癖をつけたまま廊下を駆け巡る妖怪たちを見ていると大蛇が高良の方へと駆け寄ってきた。


「あ、大蛇さんおはよーございます…。」


寝ぼけた声で挨拶すると、大蛇は呆れた顔で高良の頬を両手で叩いた。


「おいガキ。シャキッとしろ。さっさとお前も準備すんぞ。」


争いごとをするときは、長期戦になった時のために食料などを持って行く。

他にも、魔道具やテントを持っていったりもする。

何より、一番大変なのは閻魔街で店を営んでいる者たちの避難だ。

沢山の人がいるため、避難には2日ほどかかる。



高良は、身支度をし大蛇と共に閻魔の部屋へと向かった。


「閻魔様、大蛇でございます。今日の動きについて、お話が。」


「入れ。」


何度見ても、禍々しい扉は高良を怖気づかせた。


高良達が、部屋の中に入るとそこには可愛らしい羊の絵が描かれたナイトキャップを被り、パジャマを着た閻魔がいた。


地獄の王とは思えないほど、愛らしい姿に高良は新しい扉が開きかける。


「閻魔様、その帽子…。」


閻魔が被っているナイトキャップを高良は、指さして口をパクパクさせながら恐る恐る聞いた。


「ん?あぁ、これか。子供の頃に貰ったものだ!!!『愛用品』ってやつだな!」


満面の笑みで答える閻魔の姿は、どこか無邪気な子供の姿を連想させる。



「あ、そうそう。今日の動きのことなんだが…。」


あ、話し続けるんだ…


「大蛇は、普段通り前線で戦ってくれ。高良には、負傷者の手当の手伝いをしてもらう。儂は、全体の指示をする。」


「閻魔様って戦えるんですか?」


閻魔と言えば、炎を使って戦うイメージだ。


「戦えるぞ。なんなら、俺が一人でやったほうが早いな。」


「じゃあ、なんで戦わないのか」と聞く前に閻魔は先読みして話し始めた。


「皆を強くするためだ。儂がいなくても大丈夫なくらい。皆には期待しているからな。」


その言葉を聞いて、大蛇の細長い舌が自然と出る。


「それに…、最初からラスボスがいたら可哀想だろ?」


閻魔はニヤリと笑った。


閻魔様は、やっぱり余裕のある人なんだな…。

……でも、ナイトキャップをつけて言われてもグッと来るものも来ないな…。


高良は、かっこいいことを言うときは身だしなみも大事だと思ったのだった。



日が暮れ始め、あたりが茜色に染まる。

強く輝く太陽が、閻魔街を彩るのと同時に妖怪たちは奮起する。


大蛇が先陣を歩き、酒呑童子と向き合う。

両者ともに、睨み合い「行け。」という掛け声で一斉に妖怪たちが乱闘しだした。


雄叫びが聞こえる中、大蛇は酒呑童子と話していた。


「何が目的だ?」


「知ってんだろォ?ただのレベル上げだァ。篁が、いたときはレベル上げすらさせてくれなかったからなァ。」


『レベル上げ』って嫌な言い方すんな、こいつ。

ただの殺し合いだってのに。


まぁ、でも…


「篁さんがいない間、こっちも暴れられなかったんだ。楽しませてもらうぜ?」


次回 企み

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