【番外編】洸龍歴677年/獣医師グラン

 +:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-+:-+:-+:-+:-+


 獣医師グランは、ヒューイの師である。

 彼は優秀かつ高名な獣医師であり、指導者としての類まれなる才能も持っていた。

 平民の子であり、専門の家庭教師もついていないヒューイが、貴族の子弟が多く通う名門校ド=イグラシア飛龍士養成学校で首位の成績を取れているのも、同学校の卒業生である彼の力添えがあってこそ成せていることだ。

  

 そして獣医師グランもまた、飛龍が使い捨てられる社会の現状に思うところのあった人間だった。充分な治療法さえ確立していれば助かるはずの命を、彼は数え切れないほど見送らざるを得なかった。

 しかし獣医師グランの元には、飛龍以外の患畜も多く送られてくる。獣医師グランは、未来のために目の前の命を見捨てることが出来ず、根本的な対応策をとることが出来ずにいた。


 そんな時に、幼いヒューイは、獣医師グランに教えを乞いにきた。ヒューイの眼には、黒龍キングを永遠に失った悲しみと苦しみ、そして飛龍の境遇を変えて見せるという強い決意があった。

 その若人の真っ直ぐな眼差しを見た獣医師グランは、ヒューイならばこの世界を変えられるかもしれないと心動かされた。


 だからこそ獣医師グランは、無謀とも言えるヒューイの挑戦に力を貸している。

「ヒューイ。今度研究用に貸与する飛龍の選定が終わったよ。リストを確認しておくれ」

「はい!」

 ヒューイは今も変わらず、真っ直ぐな瞳で獣医師グランを見つめ返す。その瓶底メガネ越しでも分かる眼差しは、飛龍の為の未来をがむしゃらに目指していた。


 獣医師グランは、ヒューイに微笑みかけた。

 彼ならばきっといつか、自分にできなかったことを成し遂げてくれるという思いを込めて。



 +:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-+:-+:-+:-+:-+

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る