第54話:衝撃の事実

 ルークはブランディッシュに決闘を持ちかけられ、首を縦に振った。普通決闘というものは個人間で密かに行われるものだが、今回に関しては決定した場所が悪かった。


ギルド本部という、共和国内で最も人口密度が高く、常に様々な情報が飛び交う場所。

堕天メンバーとの問答から、ブランディッシュが登場し決闘を申し込むまでのやり取りを何十人もの冒険者に目撃されていた。


共和国を代表するSランク冒険者で、六星の一角でもある悪魔のブランディッシュが、実は大陸第四位のクラン堕天のマスターだった。そして怪しい剣士に囚われた女神を救うべく、決闘を申し込んだ。


一ヶ月後、共和国の闘技場にて、六星の力を解放す。


決闘が行われるという情報は、ブランディッシュに関しての情報と共に、瞬く間に広まった。首都ガガンを中心に、旅商人を介し周辺各国に波紋の如く広まったのだ。



その翌日。問題のルーク達は今何をしているのかというと……。


「しっかり押さえててね。目を離すとすぐに逃げるんだから、この子」ゴシゴシ

「おう」「……」

シルラを洗っていた。


「ワン!!!」

「こら、まだおちり洗ってないでしょ!」

「そうだぞ。一番洗わなきゃダメなトコなんだぞ、おちりは」


ルークは首都ガガンにおいて、今最もホットな人物と言っても過言では無い。そのため、昨日ギルドを出た後はすぐに宿屋に帰り、今の今まで自室でダラダラしていたのである。


先ほど身体の隅々まで洗われてしまい、ベッドの上で拗ねているシルラをよそに、ルークとオーロラは今後の予定について相談していた。


「今日は件の錬金術師さんを訪ねるとして、明日からはどうする?」

「ワガママを言わせてもらうと、久しぶりに修行がしたい。それも、できる限り人目のつかない場所で」


実は少し前から、ルークは一つの悩みを抱えていた。それは……"戦いの勘が鈍っている"ということだ。正直今のルークには、ランスロットと戦った時のような情熱や、『戦い』というもの対する渇望がない。


その分彼の心の中は、オーロラとシルラから毎日与えられる愛で満ち溢れているのだが……。


以上の事から、以前の自分を取り戻すため、修行という名の精神統一を図ろうとしているわけだ。もちろん、同時にスキルや刀術を磨く事は大前提である。


六星とは、ルークを以ってしても、決して舐めてかかっていい相手ではないのだ。


「わかったわ。簡易結界やマジックテントもあることだし、しばらく山籠りでもしてみる?最近はシルラも運動不足だし」

「アリだな」


「シルラもそれでいい?」

「ワン!」

シルラは機嫌を取り戻した。

ちょろい犬である。


というわけで一度宿屋を解約し、三人は西側の公園へと向かった。


「割と普通に街中を歩けるもんなんだな」

「冒険者や堕天の連中に見つかった時は、絡まれたり、変なことを言われたりするかもしれないから、警戒しておくに越したことはないわ」

「"ルーク"という名が広まっていないだけ、運が良かったと思っておこう」

「そうね」


ルークの言う通り、彼は現在巷で『怪しい剣士』扱いされており、名前までは広まっていない。


「もし広まっていたら、帝国の偉い誰かさんとか、まだ生きているであろう某元騎士団長さんとかが見物しにきそうよね」

「いや、それはないな」


「どうして?」

「前者は生粋の引きこもりだし、後者は今頃就職活動に勤しんでる頃だろうからな」

「妙に納得してしまう自分が恥ずかしいわ」


噴水公園に到着後、二日前と同じルートでアレクサンドラの家に向かった。


「なんというか……中々風情のある古民家ね」

「ところどころに絡まってる蔦が良い味を出してるよな」

「わっふ」


コンコン。コンコン。コンコン。


「……誰も出てこないわね。また出直す?」

「いや、大丈夫だ。そのうち出てくる」


しばらく待機していると。

「はいは〜い」

「ルークだ」

「あ〜ルーク君ね〜今開けるよ〜」


ガチャ。


「おや〜?今日は彼女を連れてきたの〜?」

「嫁だ」

「オーロラよ。よろしくね」

「よろしくね〜」


「あとシルラ」

「わふ」

「!?」

アレクサンドラはシルラを見るやいなや表情を一変させた。


「可愛い!!!この子ちょうだい!!!」

「ダメに決まっているだろ……」

「これがルークの言っていた、第二形態なのね」

「わふ……」


数分後、ルークとオーロラはソファに座り、アレクサンドラは積み上げた本の上に座っていた。そして彼女の腕の中には黒いモフモフの姿が。


「むふふ。ナデリコナデリコ」

「わっふ」


「まさかアレクサンドラが犬好きだったとは」「実は昔から犬を飼うのが夢だったんだよね。まぁ忙しすぎて半ば諦め状態だけど」


アレクサンドラはシルラに顔を埋めた。

(犬吸いだ)

(やっぱ犬吸いはするわよね)


「それで今日は何をしにきたんだい?」

「用件は二つある。まず一つ目は、悪魔のブランディッシュの情報を持っていたら教えて欲しい。もちろん相応の対価は支払わせてもらう」


ブランディッシュという単語が出た途端、彼女の瞳のハイライトが消えた。


「あー、アイツね。いいよ、なんでも教えてあげる」

「……あまり話したくないのであれば、別に無理をしなくてもいいぞ」

「大丈夫。ほらほら、私の気が変わらないうちに早く質問したほうがいいよ」


「そうか。一番知りたいのは奴のスキルについてなんだが……」

(さすがに知らないよな)


「知ってるよ」

「!?」

「アイツのスキルは……」


その後、アレクサンドラはブランディッシュの能力や人物像など、様々な事を話してくれた。


「私が知っているのはこれくらいかな」

「助かった。恩に着る」


ここでオーロラが口を開いた。

「アレクサンドラさんは、なんでそんなことまで知ってるの?ブランディッシュの情報なんて、各国の上層部が欲しがるレベルよ?」


「だって私の兄貴だもん。とっくの昔に決別したけどね。一応、昔はここに住んでたんだよ?アイツ」

「「!?」」


衝撃の事実が発覚した。


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