第53話:決闘の申し込み

 ルークは全てを理解した。

(昨日オーロラにちょっかいをかけた男は、六星の一角である"悪魔のブランディッシュ"だったのか。で、あいつはSランク冒険者でもあり、堕天のクラマスでもあると。要するに三つの肩書を背負っているわけだな)


ルークはリーダーらしき男に言った。

「お前んとこのブランディッシュは随分うちのオーロラにゾッコンらしいな。念の為伝えておくが、俺達は夫婦だぞ?」

「そんなことは関係ない。マスター曰く、貴様は彼女に呪縛をかけていると聞いた。ブランディッシュ様は彼女を救おうと考えておられるのだ」


「だってよ、オーロラ。どう思う?」

「呪縛も何もアタシ状態異常無効の指輪つけてるし。暴論にもほどがあるでしょ。どんだけ脳内お花畑なのよ」

「くっくっく……。らしいぞ?」


男は鼻で笑う。

「状態異常無効のアクセサリーだと?そんな伝説級の指輪が存在するはずがなかろう。やはり貴様の呪いにより、彼女は精神に異常をきたしてしまっているようだ……我々が救わねば」


「なぁ、堕天ってイかれた奴等の集まりなのか?これじゃブランディッシュとやらもたかが知れてるな」

「なっ!?き、貴様ァ!!!私たちだけでなく、敬愛するマスターまで愚弄するとは……!」


くだらない問答を続けている間に、いつのまにか沢山のギャラリーが集まっていた。

「あれはさっきCランクに上がった二人組だよな?」

「ああ。しかも相手は堕天のメンバーだ。一体なにをやらかしたんだろうな」


とその時。ギルドの扉が開いた。

特に大きな音がたったわけではないのだが、なぜか全員黙り込み、そちらの方へ無意識に視線を向けた。


「マ、マスター!!!」

「「「ブランディッシュ様!!!」」」


「ブ、ブランディッシュ???」

「え、あの男が堕天のクラマスだって!?ギルドで見かけたことはあるが、まったく知らなかった」

「六星、悪魔のブランディッシュは堕天のクラマスだったのか……大ニュースだぞ、これ」

「一見冴えない中年じゃないか。こんなところにSランクの怪物が潜んでいたとは」


紫髪の男は優しく微笑んだ。

「こらこら。それは外では言わない約束でしょう?」

「申し訳ございません。驚いてしまい、つい……」

「いいんですよ。それにしても、長年秘密にしてきた私の正体が今バレてしまったわけですが、これはこれで都合が良いかもしれません」


「お前がブランディッシュか」

「ああ、貴方はいつも女神の周りをしつこく這いずり回っている羽虫さんですよね?そろそろ彼女を諦めたらどうです?」


「その歳まで童貞を拗らせたキモオジに言われても全く響かん。せっかく部下に任せたのに、我慢できずに来てしまったのか。うちのシルラでも待てができるのに」


「女神の香りがしたので、居ても立っても居られず……ね。やはりこれは運命に違いありません」


オーロラは怪訝そうな表情でブランディッシュを睨んだ。

「うわぁ、気持ちわるっ」

「アァァァァァァ!!!!!!!!」

(これです!!!!彼女に睨まれ、蔑まれた時のこの感覚!!!!!忘れもしない、あの日の衝撃!!!!!)


ブランディッシュはあの時のように両手で己を抱き、プルプルと震えた。


「マスター!!!大丈夫ですか!?」

「マスター!」「ブランディッシュ様!」


「おいおい、ブランディッシュをあそこまで追い込むなんて……」

「一体何者なんだ、あの嬢ちゃんは」


堕天のメンバーもギャラリーも何も理解していなかった。


「まさかのドMかよ。一体いくつの肩書を背負えば気が済むんだ、アイツは」

「本当に気持ち悪いわ……」

「わふ……」


ブランディッシュは立ち上がり、ポケットから赤いハンカチを取り出した。そしてルークに投げつけ、言った。


「貴方に決闘を申し込みます。勝利した方が女神の寵愛を享受し、負けた方がこの国から去る。これでどうですか?」

「俺にメリットが無さすぎる。もっとオプションをつけろ」


オーロラは内心驚いた。

(え、条件次第で受けるつもりなの!?ルークがアタシのために戦ってくれるのは嬉しいけど……相手は六星の一人なのよ?まぁ何を言っても止まらなさそうだから、今は見守っておこうかしら)


「ふむ。では私の資産をすべて賭けます」

「どんな資産を持っているのか、今見せろ」

「例えば……これとかは結構レアですよ」


ブランディッシュはマジックバッグから二対の小さな魔導具を取り出した。


「それは遠距離通話の魔導具か?」

「ほう、羽虫のくせによくわかりましたね。褒めてあげます」

「ドM童貞ジジイにしては良い物を持ってるじゃ無いか。褒めてやる」


といい、ルークは足元に落ちている赤いハンカチを拾い上げた。これで正式に決闘の申し込みを受けることとなった。


ブラッディッシュは卑しい笑みを浮かべる。

「これでもう逃げられませんねぇ」

「それはこちらのセリフだ」


ギャラリーは大興奮だった。

「うぉぉぉぉ!!!」

「マジかよ!? 悪魔のブランディッシュが決闘だって???」

「しかも相手は期待の新星だぞ!!!」

「一人の女性を巡り、二人の男性がぶつかる……いいわねぇ。羨ましいわぁ」

「私もあんなイケメン(※ルーク)に守られたい」



「ルールは一般の決闘と同じで、場所はガガンの闘技場、そして決闘日は今からちょうど一ヶ月後にしましょう。ゆめゆめお忘れなく」

「わかった」


「いくぞ、二人とも」

「うん」「わふ」


「女神よ。私が必ず解放して差し上げますからね」


(また変な事言ってるわ……)


去り際、ルークは一瞬だけブランディッシュに鋭い視線を突き刺した。

「!?!?!?」

(なっ……この私が震えているだと……!?)


実はルークは表には出していないものの、相当ブチギレているのだ。コルウィルの時のように、ギルド全体を阿鼻叫喚の光景にしてしまぬよう、必死に己を押さえつけているだけで。


(……………………殺す)








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